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水色のベルと緑色のベル  作者: 朱井笑美


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 侯爵は跡取り息子を産んだことで調子に乗り、好き勝手する妻に頭を痛めていた。長女を後継の座から外した途端、良からぬ縁談を推し進めようとして、結果、娘は聖女候補として神殿に逃げてしまった。

 縁談は決して自分の本意ではなかったのに、仕事の忙しさで少し家内から目を離した隙に、もう娘は神殿に発った後だった。

 直前まで学院への入学準備を進めていたのにも関わらずだ。


 娘を推薦したのは母方の侯爵家だった。きっと娘から相談を受けていたのだろう。父親として何をしているのだ。私は亡き妻に申し訳なさで一杯だった。

 まだ息子をはっきり後継にするとも決めていなかった。なのに後継に決まったものと振る舞う、最近の妻と息子の行動には目を見張る。

 伯爵家の次女で多少行き遅れであったが清楚な雰囲気が、奥手であり結婚が遅れただけなのだろうと、周囲の勧めで再婚したが、本性は虎視眈々と高位貴族を狙っていただけだったのだ。


 聖女はどうやら優秀と評判である公爵令嬢で決まるだろう。戻ってきた娘は聖女候補だったというだけで、きっと結婚は引くて数多だ。妻はホクホクで条件の良い嫁ぎ先を選ぶだろうが、果たしてそれでいいのか?娘を後継に据えるとしたら相手は入婿候補だ。

 それを妻達が許すはずがない。決定権は自分にあるのだ。しかし妻達が納得する、いや負けない相手でなければ、妻達に潰されてしまうだろう。


 離縁も考えたが自分の息子を産んでくれた人だ。息子にも愛着はある。娘が戻って来るのはあと半年だ。どうしたことかと王城の執務室で悩んでいたところに部下の来訪の知らせがあった。


「大臣、ご無沙汰しておりました」外交官で隣国に赴任していた侯爵家の三男のエリオットだ。学院を卒業した頃から面倒をみているが、優秀な部下だ。

 もう良い年をしているが婚約者すらいない。確か隣国の姫君から熱烈に求婚されていたと聞いていたが、この度、帰国してきたところを見ると姫の独りよがりだったのだろう。


 彼は外交官としてずっと隣国だけでなく様々な国を飛び回っていた。優秀でやり手の彼のことだから、このまま良い縁談次第では後ろ盾を得て、私の職の後任となるだろう。

 今回、帰国を希望してきたということは、もしかしたら、そろそろ身を固める決心をしたのかもしれないな。


「長いこと隣国でご苦労だったな」私は彼を労う。「はい。ありがとうございます。補佐官は後任が慣れるまでの間、まだ隣国に置いております。間もなく子も産まれますので、あと1年は向こうで過ごすかと」「彼は男爵を継いだのだったな」「はい。領地はありませんので問題もありません。」

 確か王太子殿下の婚約者の令嬢が裏で手を引いたのだと聞いている。私も報告は受けているが、面倒ごとは我が家の件だけで十分だ。首を突っ込むつもりはない。


「それよりも閣下、父が今晩食事でも一緒にどうかと言っております。私の帰国祝いに良い酒を開けるつもりでいるようです」

「ほう、それは良いな。侯爵の勧める酒なら期待できる。ぜひご一緒しよう」

 私は秘書に今日は遅くなると家に伝言を伝えるよう指示を出す。

 筆頭侯爵家のベルオットには色々世話になっている。エリオットを通じて外交の難しい局面を助けてもらった事は1度や2度ではない。頭の上がらない相手の1人だ。

 こうして食事の誘いがあるということは、きっと何か伝えたいことがあるのだろうと踏む。


 私は就業後、エリオットと共に侯爵家の馬車に乗る。その時に初めてエリオットから娘に会ったという話を聞いた。どうやら彼の従姉妹が娘の侍女をしているらしい。

 何の知らせも寄越さない娘の近況を聞けたのは嬉しいことだった。

 良かった。私の娘は元気でやっているようだ。


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