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聖女候補達の教育が2年目に入る直前、聖騎士の新人2名と第一王子殿下が聖女候補の護衛に投入される予定との通達が来た。新人の世話役はパパ達だが殿下の担当は俺だ。
さすがに殿下の世話は平民にはさせられない。しかし殿下は王族籍を抜けるつもりでらっしゃって、容姿もさることながら、皆に気さくで礼儀正しいと評判だ。これは聖女候補達も荒れるだろう。
第一王子殿下の入殿予定の知らせの後、王弟殿下のお供で王太子殿下とその婚約者の令嬢が“聖女候補教育の視察と激励”という名目でお越しになった。ということはヤツも当然ついて来ているということか。
俺はその日のソフィーナ嬢の護衛だった爺から担当を代わってもらった。基本、ソフィーナ嬢を中心とした候補者が集まる時はソフィーナ嬢の護衛は室内、他の護衛は部屋の外を守るのが暗黙の決まりだ。
爺は「王太子殿下を見たら眩しくて目が潰れるわい」って迷惑がっていたから直ぐに代わってくれたが、俺も初めてお目にかかる殿下に、目は潰れはしなかったが眩しさを感じて目を細めた。さすが王族同士のサラブレッドだ。
そして殿下達の後ろには予想通りヤツが控えていたが「お前!どこを見てるんだ!」と心の声が叫ばずにはいられなかった。
殿下はすでに諦めているのかヤツを好きなようにさせていたが、俺はそうはいかない。
「ライオット、何やってんだよ!相変わらずだなぁお前は!」と牽制の意味で声を掛ける。
「結婚決まったんだってな。おめでとうアドリアン」ライオットのヤツ華麗にスルーしやがって!!「もしかしてお知り合いなのですか?」おっと、マリベル嬢は知らないのか?
ライオットが「俺とアドリアンは従兄弟なんだ」と言うと「え?私とライオット様も従兄弟です」とトンチンカンなことを言う少し抜けたマリベル嬢も可愛い。
「いやいやマリベルとアドリアンは何も関係無いからね」ライオットよ必死だな。俺は額に手を当てて「水色のベルが絡むと、とことんポンコツになるんだったな侯爵家は」と溜め息混じりに言うと、殿下が「ライオットの母君がアドリアンの父君の姉上だ」と仰った。
マリベル嬢が納得している横で、俺が「殿下!俺のこと知って下さっているんですね」と感動していると、殿下がそろそろ帰ろうとなさる。
最後に殿下は、第一王子殿下が聖騎士になることを告げて、ライオットを引きずって帰って行かれた。殿下の本当の目的は“水色のベル”を見に来たんだろうなと俺の直感が伝えていた。
そうして第一王子殿下が神殿に入られた。すでに王城からの護衛も侍従も伴わずお一人だった。評判通りのお方で“王太子殿下より主張が薄く目に優しい”とは、爺の談。
爺のためではないと思うが確かに王族にしては存在感があまりない。やはり側妃様のお子という事で苦労されたのだろうか?お噂では陛下もきちんと第一王子殿下を認め、王妃様もお心を砕いているという話であったが。
まあそんなことより今後のことだな。殿下はもう聖騎士としてやっていくお覚悟なのだ。俺が気にしてもしょうがない。
とりあえず俺と一緒にしばらくは聖女候補達の護衛をすることになるので、彼女達に挨拶に行くことにした。
殿下が挨拶をなさると公爵令嬢達はさすがだった。感情を顔に出さずスカートを摘み優雅に腰を落として挨拶を返す。伯爵令嬢も同様の行動を取ったが表情はハンターのソレだった。
マリベル嬢がドン引きしてるぞ。




