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「マリベル、妖精子爵家は社交界では、その通り名の通り妖精のいる子爵家として有名なのよ」とビアンカ様が説明して下さる。「元々、子爵家は美しく儚い容姿の方が多かったのだけど、あなたのお祖父様はその中でも、それはそれはお美しくて当時の社交界では有名だったの。それを落としたのが“鉄壁の淑女”と言われた、あなたのお祖母様よ。いいえお祖母様は、あなたのお祖父様に堕ちたという話よ」
今の爺様が美し過ぎるのかはさておき、お祖母様が爺様を好きだったのは我が家では皆が知っている。今も仲が良いし。
「その2人の最愛の一人娘、クララベル様と恋に落ちたのが筆頭侯爵家の末息子で、麗しの天使ベルモント様。妖精子爵家を取り巻く恋愛話は二代に渡って、当時の社交界の美しいロマンスとして語り継がれていたの」
「ベルモント様とクララベル様が踊った婚約後の舞踏会は、いつの間にか2人を取り巻く輪ができて皆が見惚れていたと伝説になったわ。お2人が結婚されてからは筆頭侯爵家によって守られ、子爵家は領地から出ず、手出し禁止が暗黙の了解となったの。後に5人兄妹とは聞いていたけど、侯爵家の分厚い守りにどの家門も接触すらできなかったと言うわ」
うちは貧乏だから、周りから干されていた訳ではなかったのですね?とマリベルは思った。
「ご長子のベルトルト様が学院に入学されると情報が回った時は、王都中が王太子殿下のご入学より大騒ぎになったものよ」とアイリーン様が仰る。
「妖精なんて言い過ぎではないでしょうか?」とマリベルは恥ずかしくなって言う。今でも背筋がシャンとした祖母ならまだしも、祖父の妖精説は疑問だ。
マリベルからするとただの農夫だ。麦わら帽子を好み、年中、白いタンクトップに首からタオルがデフォな初老のオッサンだ。
ちなみに子爵領は気候が温暖だ。地形は山と森と湖があって夏でも涼しいし、冬は山が冷たい風を防いでくれる。あれ?物語に出てくる妖精のお住まいに似ていますかねぇ。何なら今、気付きましたよー。
それにしてもマリベルは産まれた時から子爵家の屋敷で「これがご先祖様だぞ」って、似たようなプラチナブロンドの容姿の肖像画が大量に並んでいるのを見て育っている。
皆が、有り難がる「妖精ルッキング」はマリベルには見飽きた大量生産で、美しいともモテるとも思えない。
姉が学院でチヤホヤされて浮かれるはずだわ。
ところで伯父の侯爵家にはこの縁談の許可は得ているのだろうか?伯父が立ち入り禁止の子爵家とやらにしたのではないか?もう解禁か?
「侯爵様は“緑色のベル”はお好きなように」と仰ったそうよ。
あーうちは祖父母を除き、父、私、弟以外は皆エメラルドグリーンの瞳だ。伯父は今でも父のみが溺愛対象なのだろうな。
ということはマリベルの後釜にリリベルを推薦したのは失敗だったか。と思った。
その後、弟のベルナルドが学院に進まず、小侯爵様のご長男の侍従見習いになったと聞いて驚くのはもう少し先の話。