希望の猫
あの日から度々あの赤い眼をした猫を目にするように
なった。周りに攻撃されていたのが嘘かのように悠々と生きている。その痛々しい傷と自分を重ねていることに気がついた。全く嫌になる。だが、運命やそんな
ものに思えるほど自分と似ている、そんな気がする。俺と猫は今日も独りだ。ベンチに座り込んで押しつぶされそうなほど鬱々とした俺と地を這い舞い上がるように自由な猫。同じ独りでも大した違いだ。そんななんでもないことを考えながら空を眺めていた。そうしていると膝の上に何がが乗ってきた。案の定その猫だった。その時俺は哀れみを込めて名前をやろうと思った。いい名はないかと思考をめぐらせた。
「名など要らぬわ、たわけ」
聞いた事のない渋い声が聞こえた。周りをみても周りに人影は見当たらない。
「お手本のような反応じゃな、童」
猫が俺に話しかけていた。非現実もいいところだ。何も分からない。もはや冷静になっている自分がいた。
「どうして俺の考えている事がわかったんだ?」
猫はニヤッと笑ってこう答えた
「そんなことはどうでもいい」
答えになっていない。そんなツッコミを入れる隙もないほど間髪入れずに続けて言った。
「俺はお前に生きる楽しさを教えに来た。貴様には人並み以上に生きてもらうぞ、まぬけ」
「残念だが俺は人並みに生きられるような人間じゃないぞ。そもそもそんなやつはこんな時間にここにいない。」
現在はある春の水曜日の昼下がりだ。馬鹿げた話だと思っていると猫は先程より一層口角を上げ言った。
「そんなお前のために1日1回奇跡をくれてやる。」