大切にする NO.5
半年後に陛下は身罷られた
ルイ王太子殿下は民衆の強い支持のもとに、正式に王位に即位された
イーリア様は前国王を弔う名目で辺境の修道院へ入られた
即位されたルイ陛下は王妃殿下と大層仲が良く、側妃を置くお気持ちも無い事から、後宮を解体した
第3側妃のカトリーヌ様は、そのまま離宮へ留まることになり、エミリーは家元へ帰るように沙汰があった
私がセドリックに依頼されたのは
私が最初に書いた小説 ❛スウィートメモリー❜の続編を書くことだった
帝国の皇帝によって引き裂かれた悲恋の二人のその後だ
皇太子殿下が二人を不憫に思い、皇帝を説き伏せえて、二人が結ばれると言うストーリーにしたのだ
これを巧みに利用して噂を流した
噂によって、民衆はこの小説がノンフィクションだと信じた
帝国とあるが、これは我らがドネージュ王国の実際の物語だと
ルイ王太子殿下が国王陛下を説き伏せて、二人が結ばれたのだと
民衆の心を掴んだ
小説の中でもルーイ皇太子殿下と、それらしく思わせた
これが大ヒットして、私の代表作となった
もちろん、それまでのルイ王太子殿下の政策が立派なのは言うまでもない
エミリーは健康を取り戻して、即位されたルイ陛下に暇乞いをする為に、謁見室に来た
私は朝早くからずっとそこで、エミリーを待っていた
陛下が今回の件で私への慰労を兼ねて呼んでくださったのだ
私を見てエミリーは驚いていた
エミリーは洗練されて一段と美しくなっていたが、痩せて笑顔が無かった
僕はエミリーの髪にエメラルドの髪飾りがあるのを見て涙を堪えた
「エミリー」
「アンリ」
名前を呼ぶだけで精一杯だった
そこへ陛下がお越しになった
「此度はいろいろ苦労を掛けたな」
そう言った陛下の声を以前に聞いた気がした
そうだ! ヘイデン帝国で辛かった話を聞いてもらって前向きになるきっかけを作ってくれた青年だ
「あっ あの時は本当にありがとうございました」
「私を覚えてたのか あの話を聞いたときに直ぐに、エミリー嬢の事だと察した
これからは末永く幸せに」
そうして、褒美として領地は無いが伯爵位を授けてくださった
エミリーと僕は陛下に挨拶をした後に王宮を後にした
陛下の ❛末永く幸せに❜ この言葉に推されて一言口にした
「お帰り」
「ただいま」
後はボロボロ泣いた
エミリーがハンカチで拭ってくれた
翌日から、毎日エミリーを訪ねた
エミリーは後宮の事は何も話さなかったし、僕も聞かなかった
傍にいてくれるだけで幸せだった
エミリーは最初、僕と距離を取ろうとしてた
それでも毎日毎日訪ねて、帰りに分厚い手紙を渡して帰った
その内、エミリーが ❛スイートメモリー❜ を読んでくれたことを話してくれた
ペンネームだったけれど、直ぐ分かったそうだ
その後に出版した小説も全部読んでくれてた
昔、2回に1回しか返事を書かなかったのも、自分に文才が無くてペンが進まなかったと教えてくれた
それでも、手紙を楽しみにしていたと
私はエミリーを領地のあの大樹の元へ誘い、プロポーズした
エミリーはただ何度も頷くだけだった
2人でボロボロと泣いた
「ありがとう 本当に本当にありがとう エミリー 今度こそ、一生大切にする」
そう言って抱きしめた
END