本 NO.2
エミリーがいなくなって1週間たった
僕は何もしなくても涙が出てきた
夜も眠れずに、食欲も無かった
心配した父上と母上が領地へ連れて帰ってくれた
領地へ帰ってもエミリーを余計に思い出して辛かった
半年程、死んだように過ごした頃、エミリーの兄上のセドリックが訪ねてきた
僕を見て、暫く外国へ行って見識を広めたらどうだろうと言われた
両親も勧めてくれた
目的も無かったけれど、エミリーの好きな作家がいる隣国のヘイデン帝国へと旅立った
ヘイデン帝国でも何もせずに自暴自棄に過ごしていた
情けなかった
所持金も、もちろん心許なくなった
ある日、また、酒場に入り浸ってると、平民の身なりをしてるのに、明らかに高貴な雰囲気の青年に声をかけられた
セドリックと同じ年ごろに見えた
フードを被って、眼鏡をかけていた
多分、顔を見られたくないのだろう
「君、飲みすぎじゃないのか」
「僕に構わないでくれ」
「ご家族が心配するぞ」
「どうなっても構やしないさ」
「話すだけでも心が軽くなるから、良かったら話してみないか
どうせ、私は明日ここを出発するから、もう会うことも無いだろう」
そう言われて、これまでの事を話した
もちろん、エミリーや陛下の事は分からない様にした
「辛かったな 君も辛いと思うが、その女性はもっと辛いと思う」
そう言われて初めて自分の事しか考えてない事に、腹が立ったり、恥ずかしくなったりして、落ち込んだ
それでも、前向きになろうと思い始めた
「話を聞いてくれてありがとう」
お互い名乗ることも無く別れた
特別な才能の無い僕は、本を書くことにした
くだらない事を手紙に10枚も書いてた僕は、書くこと以外に思いつかなかったから
思い浮かぶのはエミリーのことだけだったので、エミリーのことを書いた
物語は悲恋だ
本を出したことで、ヘイデン帝国で無為に過ごしたわけではないと、思いたかった
それでも、書いてるうちに、自分の不甲斐なさとエミリーに笑われない様、努力しようと思った
暫くして帰国した
帰国した僕を父上は
「これからは前を向いて過ごすんだよ」
と言って受け入れてくれた
それから、数か月後にその本がヘイデン帝国でベストセラーになってることを知った
書いた本人の僕が一番驚いた
王国にも伝わり、ここでもベストセラーとなった
それからは、作家として独り立ちできた