03 ナコルは街の人気者なんです!
「おはようございまーす!」
「ようナコル!今日も元気だな!」
今日も朝早くから初心者ダンジョンへと向かうナコルは先輩冒険者に元気に挨拶をしていた。
最近はダンジョンでの冒険もだいぶ楽になってきたようでナコルはルンタッタして可愛い笑顔を見せている。
もちろんそれはこのエリアにはありえない剣と指輪の恩恵である。
街の人達はそんなナコルに声をかけ、ナコルもまた元気に返事を返してゆく。
ナコルは街の人気者なのであった。
ここ最近のアンネの教育の賜物である。
「ナコルちゃーん!おはよう!」
「あっルナちゃんおはよー!」
ナコルは最近見かけるようになった同世代の新米冒険者ルナちゃんに声を掛けていた。
「そうだ!そう言えば昨日、宝箱からこれがでたんだけど……僕には可愛すぎて似合わないからルナちゃんにあげる!」
「えっ!ほんと!嬉し……いや、ちょっと私はこういうの要らない……かな……」
ルナは一瞬喜んだものの、出していた手を引っ込めた。その顔には大量の汗と怯えが見て取れた。
「ルナちゃん?急にどうしたの?ちょっと顔が真っ青だけど」
「じ、実はちょっと今日、調子が悪くてさ。か、帰ろっかなって……」
「そうなんだ。無理しないでね!」
「わ、わかった。ありがとね」
そう言ってルナはふらふらと家路までの道を歩き出していた。
「ルーンちゃん」
「ひっ!」
暫く歩いていたルナの前には赤い鎧の女が立っている。
「ア、アンネ様!」
「さっきはナコちゃんとずいぶん楽しそうだったね……プレゼントまでされちゃって……」
「ひぃ!で、でもちゃんと断りました!」
ぶるぶると震えながら返答するルナ。
「そうだよね。受け取らなかったよね?なんで?嬉しくない?ナコちゃんのこと嫌い?」
「いえ!大好きです!ひっ!」
ルナの震えが止まらない。
「ナ、ナコルさんは……とても素敵な方です……だけどアンネ様が居るので……相応しいのはアンネ様なのでひっ!」
ルナが必死にアンネを持ち上げると、アンネはだらしなく口元を緩ませ、思わず悲鳴を上げてしまう。
「ルナちゃん見どころあるね。これあげる」
「こ、これは……」
ルナの手には金色に輝くブレスレットが……
「魔力を5割程度あげるやつだけど……そんなのいらないし、ナコちゃん剣士だし」
「そ、そんな!私、こんな高価なものもらえません……けど……わかりました。ありがとうございます」
一度はアンネに付き返そうとした分不相応なブレスレットだが、アンネの少しヒクついた表情を見てありがたく受け取った。
そして逃げるように頭を下げて家路まで走っていった。
「おっと!こんなことしてられない!ナコちゃんは……よし!今日もいつものダンジョンの方から匂いがする!待っててねナコちゃん!」
こうしていつもの様にナコルにストーキングなアンネであった。
そして今日もストーキングを終えた夕刻。
「只今戻りました!」
ナコルは疲れた顔を見せつつも元気に挨拶をしている。
初心者ダンジョンの入り口の警備の兵たちもそれに笑顔で応え迎えている。
そんな中、あまりこの辺りには来ないはずの先輩冒険者エーデルがナコル目掛けて歩いてきている。そしてナコルの前に仁王立ちで立ちはだかるのでナコルも少し緊張した表情を浮かべている。
「おいナコル!いい加減にしろよ!なんだその成金装備は!」
ナコルを指差しそう言うエーデル。
「ダンジョンの宝箱から出たんだー。すごいでしょ!」
「あ¨ーん!お前が行ってる初心者ダンジョンでそんなのあるわけねーだろが!」
右足を一度上げダンと地面を踏みしめ威嚇しながらそう言い返すエーデル。
「えっ出たよ?」
それに首をかしげて返答するナコル。
それに対してエーデルは「ぶはっ!」と大きく噴き出していた。
「弱っちいチビがパパにでも買ってもらった装備を毎日見せびらかしやがってよ!」
「違うもん!宝箱から出たんだもん!」
「うっせー!ありえねー嘘ばっかついてんじゃねー!」
「ホントだもん……」
下を向き少し落ち込んでしまうナコル。
「そうだ!俺ならもっとその装備をうまく使ってやるから、そいつよこしやが……」
エーデルはそう言いながらさらにナコルに近づき、ナコルは装備を奪われちゃうと感じ身構えたのだが、エーデルが急に動かなくなっってしまう。まるで蛇に睨めた蛙のように……
ナコルはそんなエーデルの顔を不安そうに覗き込んでいた。
「おおナコル。どうした?」
「あっ!アンネお姉ちゃん!あのね、この人と話してたんだけど、急に黙っちゃって……」
その言葉にアンネは「そうかそうか」と言いながらエーデルに近づき、肩を掴むとゴキリと大きな音がしてエーデルが「ぶはっ」と息を吹き返していた。
「ひっ!」
「起きたか?じゃあもう大丈夫だな!」
気付けば覗き込まれていたアンネの笑顔にエーデルは恐怖に顔をゆがませながらもコクコクとうなづいた。
「よし。じゃあちょっとこいつ具合わるそうだから病院つれてくわ!じゃあなナコル!」
「うん!ありとうお姉ちゃん!」
ナコルに手を上げ挨拶を交わすアンネは、ナコルの返事に口元を緩めながらも、エーデルの肩をガシリと掴みながら一緒にどこかへ歩き出すしていった。
その後、エーデルを見た者は誰もいない……
そんなこんなで今日も元気に冒険を続けるナコルであった。
そしてそれは明日も明後日も……
強く優しく逞しくなるまで続く、少年とお姉さんの物語。
おしまい