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第6話:楽な生活(Side:ヘッディ①)

「では、ルーベリーの断罪を祝して……乾杯!」

「「かんぱ~い!」」


 宮殿の大広間で、クラウン様が主催した豪華な宴が開かれていた。

 参加者は宮廷錬金術師の面々。

 どいつもこいつも、あたくしの味方……いや手下だった。

 湯水のごとく注がれる高級な酒。

 ボトル一本で半年は遊んで暮らせる。

 クラウン様に取り入ったことで、税金を湯水のように使える生活が手に入った。


「「いやぁ、私たちがこんなお酒を飲めるのもヘッディ様のおかげですね。さすがは、“土と水さえあれば何でも錬成できる”錬金術師でございます」」


 さっそく、宮廷錬金術師たちが媚びを売りに来る。

 うっさい、こっちに来るな。

 あんたらみたいな下級人間はどうでもいいのよ。

 さっさと向こうに行きなさい。


「「クラウン様はとても聡明なお方ですわ~」」

「そうだろう? 僕は自分の賢さが恐ろしいよ」


 クラウン様は向こうの方で、過度に露出した数人の令嬢に囲まれている。

 そして、当の本人は見たこともないくらいにだらけた笑顔。

 は?

 なに、あたくし以外の女を連れてんじゃ。

 睨みつけたら、令嬢たちは散り散りになって逃げていった。

 クラウン様がびくびくしながら歩いてくる。


「や、やぁ、ヘッディ。楽しんでいるかい?」

「ええ、とても。クラウン様もお楽しみのようで」

「そ、そんなことより、悪女のルーベリーを処刑できて本当に良かったじゃないか」

「まぁ、そうですが」


 ずっとルーベリーが憎かった。

 あたくしより地味で目立たないくせに、宮廷錬金術師に任命されたらすぐに術師長にまで成り上がった。

 だから、国王が病床に臥したら、クラウン様と結託して術師長の地位を奪ってやったのだ。

 地味女があたくしの上に立つんじゃない。


「これから先は、“土と水さえあれば何でも錬成できる”君の天下だね」


 クラウン様が言っているのは、ルーベリーの力のことだ。

 錬金術しか能のなかったあいつは、土と水からどんな物も造っていた。

 ま、表向きはあたくしの名声となっていたけど。

 それにしても、処刑されたときのあいつはすごい良い表情をしていたわね。

 酒の肴に最高だ。

 そんな楽しい気分で酒を飲んではいたけど、ふと心に一抹の不安がよぎった。

 すっかりへべれけになっているクラウン様に尋ねる。


「あの、クラウン様、前線の様子はどうなんでしょうか?」

「んん~? 前線ん~?」


 今現在、リグレット王国は魔族と交戦中だ。

 敵は強いが我が軍も強く、国境付近で一進一退の攻防を繰り広げているらしい。

 王都は国境とだいぶ離れているとはいえ、多少は気になる。

 やはり、国が戦時下にあるというのは落ち着かない。

 まぁ、いざとなったら自分だけ逃げちゃえばいいんだけど。


「全然大丈夫だよ~。リグレット王国の軍人は強いんだ。魔族なんかに負けるわけないだろ~」

「い、いや、しかし、そうは言いましても……」

「わかったわかった。そんなに心配ならこれを見なさいって」


 クラウン様は面倒くさそうに一枚の文書を取り出した。

 前線からの戦績報告書だ。

 まったく、こんな重要書類を持ち歩くなんてどうかしているわね。

 でも、その愚かさのおかげで簡単に取り入れたんだから感謝しないと。

 どれどれ、文書の中身は……。


《……ヘッディ様が送ってくださっている錬金魔道具により、魔族の一個大隊に壊滅的な打撃を与えられました。また、我が軍の手当てもスムーズに進んでおり……》


 概ね、リグレット王国の戦況有利という内容だった。

 どうやら、ルーベリーの造った錬金魔道具が貢献しているらしい。

 ふんっ……あのクソあばずれは多少は役に立ったようね。

 まぁ、その功績は一生表に出てこないんだけど。

 前線の兵士たちには、あたくしが造ったと伝えてある。

 クソあばずれの手柄を奪って、楽に実績を積む。

 この調子なら、王妃の地位はもう目の前。

 あたくしって世渡り上手ね。

 自分の才能が怖いわ。


「ほら、報告書にもある通り、戦況は我が軍有利なんだ。魔族なんかに負けるはずがないだろう」

「ええ、そのようでございます」

「それに、王都にいれば大丈夫だよ、ヘッディ。前線とどれだけ離れていると思うんだい?」


 宮殿はちょうど国の中心にある。

 最も戦闘が激しいのは東の方だから、早馬の馬車で夜通し走っても一週間ほどはかかった。

 クラウン様の言うように、物理的にも十分離れている。

 ここに戦火が及ぶことは有り得ないのだ。


「確かに、おっしゃる通りですわね」

「だろ? 君は少々心配しすぎなのさ」


 ヘラヘラしているクラウン様の横で、自分の高貴な野望を膨らませる。

 あたくしは絶対に王妃になってやるんだから。

 この国の全権力を手中に納めるのだ。

 そうすれば、全てがあたくしの思い通り。

 どうせなら、この戦争に勝って魔族領を支配するっていうのもいいわね。

 いずれは全世界の支配も夢じゃない。

 あんたたちは一生あたくしのために汗水たらして蟻のように働くのよ。


「ヘッディ様~、ちょっとよろしいでしょうか~」


 一部の隙も無い素晴らしい計画を思い描いていたら、宮廷錬金術師の一人が千鳥足で歩いてきた。

 酒臭ささに顔をしかめながら問いただす。


「なにかしら、今忙しいのだけど」

「結界錬成器が何か言ってますよ~。確認お願いします~」

「それくらいあんたがやりなさいよ」


 追い払おうとしたら、クラウン様がニヤニヤしながら助太刀に入ってきた。

 この錬金術師が女だからだ。


「無理を言ってはいけないよ、ヘッディ。君の大事な仕事じゃないか」

「……わかりましたわ。その代わり、クラウン様も一緒に来てくださいまし」

「お安い御用さ」


 ああ、めんどくさい。

 渋々と立ち上がり、王宮の地下にあるコアルームへと向かう。

 国の防御の要である結界錬成器が置かれている。

 まさしく心臓だ。

 部屋の中は、ぼぅ……と薄暗く光っていた。

 そして、いつものように、蒸し暑い熱気でいっぱいだ。


「暑いですわねぇ。汗が止まらないですわ」

「まったくだ。せっかくの新しい服が……」


 中央では、大きな魔道具がゴウンゴウン……と稼働していた。

 魔鉄で造られたドームの中に、燃え盛る紫の炎が見える。

 魔力を燃やして結界を構成する粒子を造っているのだ。

 ドームの裏手から伸びるパイプは宮殿の天井を抜け、空高くまで粒子を運ぶ。

 上空で集まった粒子は結界になり、国全体を覆うという理屈だった。



<錬金魔道具・対魔族用結界錬成器>:SSSランク。魔族に対して絶大な防御力を誇る結界錬成装置。しかし、その分管理が非常にデリケート。



 この国を魔族から守っている結界錬成器。

 ちょうど国境の上に結界を貼っている。

 内からの攻撃は通すけど、外からの攻撃は通さないという優れものだ。


「これの製作だけでも君の功績は国一番だろうね」

「ええ、そうなると思いますわ」


 造ったのはルーベリーだけど、表向きはあたくしとなっていた。

 まぁ、当然よね。

 あいつに功績なんか少しも残して上げないんだから。

 そして、これのチェックは、術師長のあたくししかできないとクラウン様が決めたのだった。

 まったく、面倒な取り決めを作られたものね。

 あたくしたちが近寄ると、錬成器は何か喋っていた。


〔魔力の供給が減っています。補給してください〕

「うるさいわね。静かにしなさいよ」


 仕組みが難しそうな魔道具だけど、実際の操作は簡単だ。

 魔道具のすぐ横に、魔力を貯めたタンクがある。

 バルブを捻って魔道具に魔力を移せばいいだけだ。

 さて、と手を伸ばしたとき、クラウン様がポツリと呟いた。


「そういえば、ルーベリーが何か言っていなかったか?」

「……ルーベリーがですか?」

「ああ、錬成器の魔力を補給するときはどうのこうのって」


 まったく覚えていない。

 というか、あんな地味女の言うことなど誰が聞くものか。


「きっと、別に大したことではありません。何度も作業するのは面倒なので、100%まで補給しておきましょう」

「それもそうだな」


 よく覚えていないし何より面倒なので、適当に100%まで魔力を補給しておいた。

 バルブも開けっ放しに。

 こうすれば常に魔力が供給される。

 あたくしって頭が良いわねぇ。

 なぜルーベリーはこうしなかったのかしら。

 結局、その程度の頭脳だったってことね。


「さあ、ヘッディ。さっさと宴に戻ろう。一緒に楽しもうじゃないか」

「お待ちください、クラウン様ぁ」


 面倒な仕事も終わり、大広間に戻って宴を再開。

 結局、朝日が昇るまで酒を飲み続けた。

 ああ、なんて楽な生活かしら。

 あのクソあばずれを処刑して本当に良かったわ。

お忙しい中読んでくれて本当にありがとうございます

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