第35話:皇子の頼みごと
「ちょっ、お父たま、お母たま! 大丈夫!?」
〔おとん、おかん! しっかりしぃ!〕
やっぱり、皇子が直々に店へ来るなんて父母には刺激が強すぎたようだ。
最近は耐性ができてたから安心しちゃってた。
急いで<回復ポーションS>をかけなきゃ!
棚から取ろうとしたら、室内に叫び声が轟いた。
「うわあああ! 人が目の前で死んだああ!」
「〔……え?〕」
声の主は皇子。
さっきまでの余裕そうな優男はどこに行ったのか、それはそれは絶望の表情で卒倒した父母を見ている。
「た、大変だ、メトルド! 死んでしまったぞ!」
「お、落ちついてくださいませ、クアトロ様! 死んでおりません! 気絶されただけです!」
「こうなったら僕の占いで死者の魂を冥界から呼び戻す!」
「クアトロ様っ! 占いにそんなことはできません!」
突然、謎のカードを並べ始める皇子。
それを必死に止めるメトルドさん。
な、何が起きているんだ。
〔ルー、なんや皇子が挙動不審で怪しい動きをしてんで〕
「よくわからないけど、まずは父母を回復させないとっ……それっ!」
皇子の行動に深入りせず、父母の顔にバシャっと<回復ポーションS>をかける。
「「うっ……ここは誰……私はどこ……?」」
いつものうわ言を呟きながらも、父母は目覚めてくれた。
ついでにお肌もツヤンツヤンに輝いている。
ああ、良かった。
毎度のことながら心臓に悪いんだって。
「皇子っ! ルー殿のご両親が目覚めましたよっ! 占いは中断してくださいませ!」
「待て! もう少しで冥界へ繋がるルートが開かれる! あともう一枚だけ天使のカードが必要なんだ!」
「占いで死者が蘇るわけないでしょう! というか、そもそも死んでいません!」
わあわあする皇子とメトルドさん。
いつもこんな感じなのかな?
仲が良さそうで微笑ましい。
父母が「あの~」と言ったところで、皇子たちはハッとこちらに気がついた。
二人ともウウン! と大きな咳払いをして、皇子が先ほどの厳めしい顔つきに戻る。
「今日僕たちが来たのは他でもない。君の実力を確認するためだ」
「は、はい」
〔それはもう分かってるっちゅうねん〕
「うわっ! な、なんだ!?」
リリスがぴょこんと顔を出したら、皇子はめちゃくちゃにのけぞった。
まぁ、喋るリスなんて珍しいよね。
「彼女は私が造ったゴーレムで、リリスと言います」
〔リリスや! よろしゅう、皇子〕
「う、うむ……僕はゴーレムなんて初めて見たよ。君はこんな物まで造れるのか……」
皇子はリリスと握手を交わす。
まぁ、仲良くなってくれたらいいな。
あれ、そういえば……。
「お母たま、ディーガードは?」
「ディーちゃんはまだ二階で片付けしてくれてるわ」
「そっかぁ」
母はディーガードのことをディーちゃんって呼んでるらしい。
これまた新しい発見だ。
そう思ってたら、階段からズシズシいう音が聞こえてきた。
〔陳列終了……〕
「あら、ディーちゃん。もう終わったの?」
やっぱりディーガードだ。
私たちを見ると、こちらへゆっくり歩いてきた。
〔客人……?〕
「うん、皇子様だって」
ディーガードは皇子の目の前に立つ。
皇子よりずっとでかいし、相変わらず目がギランと光っていてなかなかの迫力だ。
「き、君はここの用心棒かね?」
〔我が名はディーガード……〕
「彼も私が造ったゴーレムです」
「こ、これもゴーレム……」
皇子はディーガードとも握手する。
予想以上に強い力で握られたようで、しきりに手をフーフーしていた。
「さ、さて、ルー嬢。君は思ったよりすごい人物のようだ。ぜひとも錬金術を披露してほしい」
「ええ、いつでも大丈夫ですよ。何か造ってほしい物はありますか?」
「う~ん、そうだなぁ……」
皇子は顎に手を当て考える。
どんな物が欲しいんだろう。
やっぱり黄金とか宝石とか高価な物かな。
「よし、精度の高いタロットカードを造ってもら……」
え、タロットカード?
「クアトロ様っ」
皇子が言いかけたところで、メトルドさんがビシッ! と止めた。
そのまま、二人は小声で相談を始める。
「な、なんだ、メトルドっ」
「そんな物必要ないでしょう! そこら辺の雑貨屋にいくらでも売っているじゃないですか!」
「こ、こらっ。そ、そんな物と言うんじゃないっ」
小さな声が話しているのだろうけど、十分私たちに聞こえてくるよ?
きっと、小声での相談ごとに慣れていないのだろう。
〔なんや、ごっつ仲良しやんな〕
「ええ、そうみたいね」
微笑ましい気持ちで眺めていたら相談も終わったようだ。
またもやゴホンっ! と咳払いすると、怖そうな顔に戻った皇子が静かに言った。
「<魔動人形>の新しいバージョンを頼む」
「は、はぁ……」
<魔動人形>かぁ。
意外と少女趣味なのかな。
まぁ、欲しいというのならいくらでも造りますよ。
では、土と水を用意して……。
チョークで錬成陣を描く。
「<アルケミー>!」
素材と錬金陣が白い光に包まれる。
今度はどんなデザインにしよう。
いつものは豪華なドレス系だから、ちょっと落ち着いたワンピースにするかな。
森の中に住んでいるような感じで……。
念じながら魔力を込めていたら、無事に錬成も終わった。
錬成陣の真ん中で、3体のお人形さんが手をつないで踊っている。
<錬金魔道具・魔動人形の女の子 (ワンピースタイプ)>:ランクB。タオル生地でできたかわいい女の子人形の新バージョン。落ち着いた緑のワンピース。手触りは相変わらずふわふわで、触り心地抜群。込められた魔力で踊るよ。
うん、上出来だね。
思ったより良い物ができた気がする。
さっそく皇子に献上しよう。
「クアトロ皇子、こちらがご所望の<魔動人形>でございます」
が、反応がない。
と、思ったら、皇子は目玉が飛び出そうなほど目を見張っていた。
「ほ、本当に土と水から魔道具が造れるのか。話には聞いていたが……信じられん」
「「いやぁ、うちの子は特別天才でして。記憶力もいいし言葉遣いも丁寧ですし、いえ、可愛いのも素晴らしいんですけどね……」」
ここぞとばかりに我が子自慢をする父母。
さっきまでの緊張した様子はどこに行ったんだ。
適当に聞き流している皇子は、何やらメトルドさんと目配せしていた。
そして、改まった表情で私に向き直る。
「君に造ってほしい物はまだあるんだ。頼んでもいいか?」
「ええ、何なりとどうぞ」
また可愛い魔道具かしら。
どうぞどうぞ、いくらでも造りますよ。
「何か武器を造ってくれ」
「「武器……ですか?」」
コモン家一同は疑問の声を出す。
頼まれた物は、まったく予想にしないことだった。
武器って敵と戦うあの武器だよね?
「ああ、そうだ。どんな敵も一撃で倒してしまいそうな、とんでもなく強力なヤツを頼む」
しかも、とんでもなく強力なヤツって。
なんでそんなに物騒な物を欲しがるんだろう。
ブランニュー王国は平和なはずなのに。
父母も訝しな顔をしている。
「しかし……何に使われるのでしょうか?」
〔まぁ、当然の疑問やな〕
錬金魔道具は便利なアイテムだけど、非常に強い兵器にもなりうる。
それは前世で痛いほど実感していた。
私が尋ねたら、皇子とメトルドさんは深刻な表情で顔を見合わせた。
「何か、言いにくい事情でもあるのでしょうか」
〔武器なんて恐ろしい物、簡単には造られへんで〕
錬金術の危険性は私が一番よく知っている。
しっかりした理由を聞かなければ。
しかし、皇子は下を向いて考えているだけだ。
一向に話そうとしないので、代わりにメトルドさんが静かに切り出した。
「クアトロ様、話すしかあるまいかと……」
「うむ……」
メトルドさんが諭すように言うと、皇子も納得した様子で口を開く。
そして、彼に言われたことはまたもや予想外のことだった。
「頼みごとは他でもない。ルー嬢に……国を救ってほしいんだ」
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