第32話:飴ちゃん
〔それはええアイデアやん! さすがはルーやな!〕
〔良案……〕
そうと決まったらさっそく錬成だ。
ポシェットから土と水の小さなビンを取り出す。
すぐに錬成できるよう、常に素材を持ち歩くことにしたのだ。
チョークで錬成陣をっと。
「では……<アルケミー>!」
素材たちが白い光に包まれる。
落とし物を届けるから、持ち主の匂いがわかる三輪車だといいな。
粒子がくっついたり離れたり、わずか十秒ほどで魔道具ができあがってしまった。
<錬金魔道具・魔動三輪車>:Sランク。魔力を込めると内部で増幅し、爆発的なエネルギーを生み出せる。自動で障害物や歩行者などを感知し、安全な走行が可能。嗅覚にも優れ、わずかな匂いもたどれる。
小型だけど分厚い車輪は安定性ありそうだね。
サドルは椅子みたいに背もたれがついているから座りやすそう。
これが新しい三輪車……。
うん、いいよ~。
まさしくこの状況にピッタリの魔道具ができた。
それにしても……。
「土と水からこんなものができるなんて、錬金術はコスパがいいなぁ」
〔たぶん、ルーにしかできへんで〕
新しい錬金魔道具はワクワクするね。
「この落とし物を届けたいんだけど……」
頭? のところに懐中時計を近づけると、三輪車はクンクンと匂いを嗅いでいた。
なんか犬みたいだ。
匂いを嗅ぎ終わったら、三輪車は姿勢を正して待機状態になった。
〔なんや、行儀のええ三輪車やなぁ〕
「もう準備ができたみたいだね。あと……悪いんだけど、ディーガードはお留守番していてくれる? 乗れないと思うから」
〔御意……〕
お店の警備をお願いというと、ディーガードはドンッ! と誇らしげに胸を張った。
よし、私たちも行こう。
「それ、しゅっぱーつ!」
〔レッツドライブや~!〕
掛け声をあげると、三輪車はぶいーん! と走り出した。
馬車より相当速いかも。
風に髪の毛がなびくよ。
なるほど……これはかなりの速さだね。
「じゃあ行ってくるね~……!」
「ほな、留守番よろしゅうな~……!」
〔交通安全……〕
ディーガードも手を振って見送ってくれた。
三輪車は人や馬車が少ないところはスピードアップし、交通量が多いところではスピードダウンと、臨機応変に走っていく。
さすがは自律型だ。
トレイドタウンを抜け、丘陵地帯の道を進む。
この辺りは草原なので、周りの景色が良く見渡せた。
「う~ん、馬車は見えないねぇ。もっと先の方に行っちゃったのかな?」
〔おっ、あれやない?〕
しばらく三輪車を走らせると、道の先にホロ付きの馬車が見えてきた。
黒っぽい外観だし、メトルドさんの馬車に違いない。
おーい! と叫んでいると、馬車も止まってくれた。
「おや、ルー殿ではありませんか。どうされたのですかな? というより、その乗り物はいったい……」
「これは新しい錬金魔道具ですよ。メトルドさんを追いかけるために造ったんです」
「私を追いかけるため……?」
「はい、落とし物を拾ったんです。懐中時計を落としませんでしたか?」
「えっ」
あの時計を差し出すと、メトルドさんは自分の服を急いでまさぐる。
そして一瞬の後には、顔が青ざめた。
「そ、それはまさしく私の時計です。今の今まで落としたことに気づきませんでした。いったいどこで……」
「コモン商店に落ちていました。間に合って良かったです」
〔良かったなぁ、おじん〕
震える手で時計を受け取るメトルドさん。
壊れ物を触るように、優しく優しく撫でている。
無事に届いて私も安心した。
じゃあ、これで……と立ち去ろうとしたら、メトルドさんにガッシ! と力強く手を握られた。
え、な、なに?
「ルー殿! そなたは私の恩人です! これは皇子からいただいた時計で、私の命より大切な品なのです!」
「そ、そうだったんですか……」
ブンブンブン! と握った手を振るメトルドさん。
そ、そんなに大事な物だったんですね、届けて良かったです。
「これを無くしては王宮には帰れませんでした。いくら感謝してもしきれませんぞ。そうだ。お礼をしなければなりませんね。今はこんなものしかありませんが……」
メトルドさんはポケットから袋を取り出す。
な、なんかすごくどっしりしているんですが……。
中を見ると、たくさんの金貨が煌々と輝いていた。
どっと冷や汗をかく。
「い、いえ、いりませんよ! 落とし物を届けるのは当たり前のことですしっ!」
「しかしだなぁ、ただで返すわけにはいかないのだが……」
「本当に大丈夫ですっ! 私はしがない幼女ですので……!」
必死に断っていると、メトルドさんは残念そうにしつつも金貨の袋をしまってくれた。
「では、これでどうかな?」
メトルドさんはポケットから、また別の袋を取り出す。
なんかこっちもずっしりしているんですけど……。
緊張しながら開けると、赤や青、緑といったカラフルなキャンディーの詰め合わせだった。
「わぁっ、飴っ!」
「すまないですなぁ、今はこれくらいしか持ち合わせがないのです」
「いえ! こっちの方がいいです!」
飴なら貰っても罪悪感はない。
むしろ、こっちの方が断然ありがたいね。
「ルー殿、本当にありがとうございました。お父上とお母上にもよろしくお願いします」
「お気をつけて~」
〔また来てな~〕
メトルドさんは馬車から顔を出し、見えなくなるまでずっと手を振ってくれていた。
「さて、私たちも帰りましょうか」
〔せやね。みんな心配してるかもわかれへんし〕
三輪車をトレイドタウンに走らせる。
ぶいーん! という重低音と風を切るような感覚。
このかっ飛ばしはクセになりそうだ……。
□□□
「ただいまー、今帰ったよー」
〔帰ったでー〕
かっ飛ばせるところはかっ飛ばし、危ないところはゆっくり走り、コモン商店へ帰ってきた。
「お帰り、ルー! 大丈夫だったか!? 送り出したはいいものの、心配で死にそうになってしまった!」
「怪我はない!? 幽体離脱して追いかけようかと思っていたわ!」
中に入るや否や、すぐに父母が駆け寄ってきた。
いつものように私を力強く抱きしめる。
「大丈夫だよ、お父たま、お母たま。心配かけてごめん。メトルドさんには途中で会えて、時計も返してきた」
「いや、ルーが無事ならそれでいいんだ。きちんと届けられるなんてすごいじゃないか」
「ええ、ちゃんと落し物届けられて偉いわぁ。やっぱりルーちゃんは良い子ね」
私の頭をなでなでする父母。
特に怪我なく帰ってこれて私も良かった。
「あと、メトルドさんから飴玉貰った」
「あらそうなの。良かったわねぇ」
小袋を開けると、赤いキャンディーが転がり出てきた。
どこかのお店で買ったのかな、それとも持ち歩いているとか?
メトルドさんは甘い物が好きなのかもね。
食べてみたら、苺の甘味とほのかな酸味が口いっぱいに広がった。
おいし~い。
〔どうや、ルー。旨いん?〕
「うん、おいしいよ。甘酸っぱいね」
〔未知の味……〕
というわけで、無事に落し物も届けることができた。
しばらくトレイドタウンには、“疾走する幼女”というウワサ話が流れていたけど、素知らぬふりで過ごすことにした。
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