第3話:いじめっ子出現
「え……? だ、誰?」
「は、はあ!? なんだよ、それ! 俺様のこと覚えてねえのかよ!」
三人組は腕を組んで私を睨みつける。
中でも、真ん中にいる男児は顔を赤くしてめっちゃ怒っていた。
黒系のくるっとした髪に濃い青色の瞳。
ウールっぽいジャケットと半ズボンを着ているから、きっと良いところのお坊ちゃんなのだろう。
だがしかし……こんな子私の知り合いにいたっけ。
まったくわからん……い、いや。
プンスカしている様子を見たら、この男の子が誰か思い出した。
「ジャ、ジャック……」
「なんだよ、覚えてんじゃねえか!」
いきなり男児は、ぱああ! っと笑顔になった。
そう、こいつはジャック。
私と同じ5歳の男児で、町の有力商人グリードン家の一人息子だ。
何かと理由をつけては、私をイジメてくる嫌なヤツだった。
記憶が戻る前の私は気弱な性格もあり、ずるずると言いなりになっていたらしい。
「ジャック様のお顔を忘れるとは良い度胸だな!」
「死刑になってもおかしくないんだぞ!」
ルーとしての記憶をさらっても、左右の男児は特に覚えていなかった。
ひとまず、取り巻きA、取り巻きBとしておこう。
「ほら、見ろよ。帝都で流行っているおもちゃだぞ。羨ましいだろ~。まぁ、お前みたいな貧乏人には絶対に買えないだろうけどな」
「あ、いや、別に……」
ジャックはドヤ顔で女の子の人形を見せびらかしてくる。
見たところタオル地のような素材らしい。
ふんわりした青いドレスを着ていた。
「ほらほら~、ちょっとくらいなら触ってもいいんだぞ~。ちょっとくらいならなぁ」
「私は人形はそんなに好きじゃなくて」
断っているのに、ジャックはグイグイ人形を押しつけてきた。
女の子の顔が頬っぺたにめり込む。
いや、まぁ、確かに肌触りは良いのだけど。
な、なんなんだ、こいつは。
いらないって言ってるのに。
「お子ちゃまなルーちゃんは、欲しくなってきちゃったかなぁ? ま、まぁ、どうしてもって言うんならあげてもいいぞ」
「欲しくないから……」
「俺様の家にはもっとたくさんの人形があるんだぞ~。服だって赤とか緑とかあるんだぞ~。うちに来たら好きなだけ遊べるだろうな~。一応言っておくが、別に、俺様はお前のことが好きなわけじゃないからなっ」
しつこいなぁ。
私は前世でも女の子っぽい趣味はなかった。
宝石とか服もいらなかったし。
それほど錬金術に魅せられていたのだ。
私の生きがいは錬金術しかない。
「だから、別に興味ないの!」
「……!?」
あまりにもしつこいので、つい怒鳴ってしまった。
途端にジャックはスン……と静かになる。
ああ、良かった。
この手のタイプには強めに言わないとダメなのだ。
「ル、ルーちゃん? せっかくだから遊んでもらったらどうかしら?」
「そ、そうだぞ。お友達とは仲良くしないとな」
さっきから父母はそわそわしている。
な、なんで?
……あっ!
そうだった、コモン家(特に父)はジャック両親にいびられていたんだ。
この街の商売を仕切っているグルードン一家のせいで、うちの店には良い品が入ってこない。
「お、怒ったな!? 俺様を怒っていいヤツなんか一人もいないんだぞっ!」
突然、ジャックはべそべそ泣き出した。
え?
ど、どうした?
「パパに言いつけて、お前の店をもっともっと貧乏にしてやる! これも全部お前のせいだ!」
「あんたねぇ……」
齢5歳にして立場を利用するなんて……。
とことん性根の腐ったガキだな。
ジャックの一挙手一投足に、父母は冷や汗をかいてドギマギしている。
「お前のクッションなんかこうしてやる! 俺様に怒ったバツだ!」
「あっ、こら!」
ジャックは私のオジサンクッションを奪い取る。
そして、ビリビリに破り捨ててしまった。
オジサンの破片がパラパラと地面に落ちる。
おまけに、風に吹かれてどこかへ飛んで行っちゃった。
「お、お前が悪いんだぞ! お前が俺様の人形をもらわないからこうなったんだ!」
「だから、私は人形に興味がなくて……それより、何してくれたの!」
「うるさい! 全てお前が悪いんだ! 俺様は何も悪くない!」
「……」
ジャックはめちゃくちゃワガママだ。
一人っ子だから、心底甘やかされているのかもしれない。
クッションを破かれ、父母の心までビリビリにされた気持ちになった。
「親が貧乏だから、お前の心も貧乏になるんだよ!」
私のことはいくらバカにされてもいいが父母のことは許せん。
もう気弱なルーではない。
何と言っても一度殺されているからね。
怖い物なんか何もないのだ。
「なんてことするのっ。お父たまとお母たまに貰った大切なプレゼントなのよっ。謝りなさいっ」
「お、俺様に逆らうなぁ! クソッ、お前の金なし親にはこうしてやる!」
「あっ、こら!」
ジャックは父母に物を投げまくる。
どこに持っていたんだというくらい、次から次へと物を投げてくる。
「あっ、痛っ!」
「ワイズ!」
止める間もなく、母が怪我をしてしまった。
手からちょっと出血している。
私はすかさずジャックに飛びかかった。
力の限り、その動きを止める。
「ジャック、いい加減にしなさいよ! お母たまケガしちゃったじゃん!」
「うるさい! お前のせいだ! ルーが俺様の言う通りにしないからだぞ!」
ジャックはわあわあ暴れまくる。
「俺様の言う通りにしないヤツはこうだ!」
「うわっ! ちょっとやめて!」
「「ルーちゃん!」」
ジャックは両手を振り回して私の頭を叩きまくる。
「やめてって言ってるでしょ!」
耐えかねてドンッ! と押しのける。
もうホントにご勘弁願いたかった。
ジャックはフラフラとバランスを崩す。
かと思ったら、こつんっと壁に軽く頭をぶつけた。
「ねえ、もうやめましょうよ。ケガすると危ないから」
手を差し伸べたけど、ジャックはポカン……としている。
ん?
なんだか、目がうるうるしているような……まさかこれって!?
「う……」
そこにいる全員がごくりと唾を飲み込む。
「うわああああ!!」
ジャックは大声で泣き出した。
ボロボロと大粒の涙が零れまくる。
え。
さっきまでめっちゃ強気だったじゃんよ。
「な、泣かないでよ。ごめんって」
「ああああああ!」
謝ろうとしたけど、ジャックが腕を振り回して近寄れない。
しかも、思いっきり壁に手を当て、小さな擦り傷を作ってしまった。
「お前のせいだああああ! うわああああ!」
「いや、ちょっ」
そ、それも私のせいなの?
「なんだ、なんだ? 何の騒ぎだ?」
「男の子が泣いているぞ。喧嘩でもしたのかな」
「泣き声を聞くにかなり痛そうだ。すごい大声じゃないか」
四方八方からどんどん人が集まってくる。
片や、ジャックは女の子の人形を握りしめて泣いていた。
こ、これ、完全に私が悪いヤツみたいじゃん。
ジャックから突っかかってきたのに。
ぐぬぅ……どうする。
「ああ、どうしましょう、あなた……! ルーちゃんがすごく強くなっちゃったわ!」
「ルーに突き飛ばされるなんて大変名誉なことだ! そのことをわかりやすく伝えられる言い方を考えよう!」
父母がうろたえまくっている中、前世の記憶が戻った頭で必死に考える。
必ずこの状況を打破できるアイデアがあるはずだ。
懸命に考え込んでいると、一つの案が浮かんできた。
そ、そうだ!
錬金術ならどうにかできるんじゃないの!?
回復ポーションを作るのよ!
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