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第2話:5歳の誕生日パーティー

 という記憶をたった今思い出した。

 誕生日プレゼントがショッキング過ぎて。

 ルー・コモン、齢5歳。

 前世で冤罪により処刑されてしまった私は、ブランニュー帝国の小都市トレイドタウンにあるしがない商店の娘として生まれ変わったのだ。


「どうちたのかな~、ルーちゃ~ん? キョトンとした顔も可愛いでちゅね~」

「まるで天使みたいに可愛いわね~ん。頬っぺた触っちゃいましょ」

「「しゅりしゅりしゅりしゅり……!」」


 頬が擦り切れるほど頬擦りしてくる成人の男女。

 私の両親だ。

 家は貧乏だけど、父母の寵愛を受けている内気な子がルーだった。


「ルーの頬っぺはどうしてこんなに手触りいいんだろうな~。一生頬擦りしてたいよ~」


 とろけた顔をしている父の名はスモーリー・コモン。

 小市民筆頭格。

 街の片隅で“コモン商店”という小さなお店を営んでいる。

 短めの黒髪に、髪と同じ黒色のたれ目。

 ひょろひょろしている体型も相まって、見た目通りの至極優しい人物だ。


「ちょっと、スモーリー。私もルーちゃんをもっと撫で撫でしたいわ」


 父と同じようにとろけているのは母、ワイズ・コモン。

 家事全般を担当し、たまにお店を手伝ったりして我が一家を支えている。

 濃い茶色の長い髪に、鳶色の優しい瞳。

 そのふくよかな体型で、いつも父を弾き飛ばしていた。


「ほら、ルーのために買ってきたんだよ~」

「手に入れるのが大変だと思ったけど、無事に買えて良かったわ~」

「あ……」


 差し出されていたのは丸くて柔らかいクッション。

 ふんわりした布で織られており、ずっと触っていたくなる手触りだ。

 枕にすると、さぞかしよく眠れるだろう。


「どうだぁ~とってもいい触り心地だろう~。まるでルーの頬っぺたみたいに……いや、さすがにルーの頬には敵わないか」

「一目見てビビッと来たわ~。まぁ、それでもルーちゃんのぷにぷにした頬っぺたには勝てないけどね~」

「う、うん……」


 父母はぐいぐいぐいとクッションを押し付けてくる。

 私のことを思って買ってくれたのは本当に嬉しい。

 両親の愛を感じて幸せな気持ちになる。

 しかし、一つだけとんでもない致命傷があったのだ。

 確かに手触りは素晴らしいのだけど……。


「特にこの絵柄が最高だと思うんだ。お店に山積みになっていたから大人気の品に違いないね」

「きっと、帝都でも流行しているのよ。こんな最先端のデザイン見たことないわ」


 知らないオジサンの顔が描かれているよ?

 でかでかと。

 それはもう清々しいくらいの笑顔が、クッションいっぱいに描かれている。

 ……というか、この人誰?


「気に入ってくれたかい、ル~」

「も、もちろん、気に入ったよ」

「ああ、良かった~。食費二週間分払って買った甲斐があったよ~」


 ……マジか。

 このクッションはそんなに高いんかい。

 一縷の望みを託して裏側を見る。

 こっちは泣き顔だった。

 な、なぜ、これを選んだのだ。

 父母のデザインセンスは壊滅していることを思い出した。


「さあ、コモン家に生まれてくれた天使ちゃんをもう一度頬ずりしよう」

「そうね。こんな可愛い子、全世界でもルーちゃんだけだわ」

「「しゅりしゅりしゅりしゅり……!」」

「お父たま、お母たま……もう大丈夫だから」


 ヤスリの如き威力の頬擦りに耐えかねてポツリと呟いた。

 前世の癖で、~様って言おうとしたけど舌足らずな言い方になっちゃった。

 記憶が戻ったばかりで身体が上手く動かないのかな。

 まぁ、その辺りはおいおい慣れるでしょう。

 ずずっ……と水を飲んでいたら、室内の静けさに気が付いた。

 目の前の父母は呆然としている。

 な、なんで……?

 もしかして、初めて娘に抵抗されたのがショックで……。


「「……びゃあああああ! お父(母)たま!?」」

「うわぁっ!」


 張り裂けるような叫び声を上げる父母。

 え?

 ど、どうしたんですか?

 

「ル、ルーが私のことをお父たまだなんて! こ、これはもう……」

「わ、私なんかお母たまよ! こ、これはもう……」

「「貴族になったみたい!」」


 びゃあああああ! と大歓喜する父母。

 しばし唖然とする私だけど、すぐにルーの記憶を思い出した。

 ……そ、そうだった、二人の激しいリアクションもまたコモン家の日常なのだ。


「さあ! ルーの言葉遣いに感動したところで食事にしよう! 今日はワイズがたくさんのご飯を作ってくれたぞ!」

「ルーちゃんがグレードアップしたことも一緒にお祝いしましょう!」


 ドン、ドン、ドンッ! とテーブルにお皿が置かれる。

 母お手製の品々だ。



<グランドチキンの骨付き肉>:Dランク。地面を走り回っている鶏の骨付き肉。筋肉質な分脂肪が少なく硬い。しっかり噛んで食べようね。


<裏畑の野菜キッシュ>:Dランク。コモン家の小さな畑で採れた野菜を使ったキッシュ。肥料が少ないので野菜たちはみな硬いが、調理法の工夫により柔らかくなった。


<ワイルド苺のホールケーキ(小)>:Dランク。山中に自生している苺を使ったケーキ。甘味より酸味が強い。スポンジもクリームもDランクだが、娘への愛がいっぱいに詰まっている。



 コモン家の厳しい家計の中で、精一杯用意してくれたんだろう。

 そう思うと心が温かくなる。

 一般的には貧相な食事でも、私にとっては世界最高のお料理だ。

 ぱくっと食べた瞬間、口の中に幸せが広がった。

 前世の辛い体験を思い出したこともあるのか、自然と涙が零れそうになってしまった。

 私はこんなに美味しいご飯を食べたことがない。

 父母の愛情が詰まった本当に素晴らしいお料理だから……。

 ハイテンションのまま食事が終わると、父母が提案した。

 

「さて、ルー。今日はお店もお休みだから街へ行こうか」

「5歳の晴れ姿をみんなに見てもらいましょう」


 パーティーは昼間に開かれたので、日没まではまだ時間がある。

 私を見せびらかす(見せるだけ)のが、二人の大きな楽しみのようだった。

 準備を整え玄関に行く。

 と、父母がモジモジしながら部屋の中を指していた。


「クッションは持っていかなくていいのかな~? 元気がなさそうだぞ~?」

「ルーちゃんと一緒にお散歩に行きたそうよ~? 連れて行ってあげたら~?」


 え……オ、オジサンが……?

 ちらりと振り返ると、確かに何となく笑顔が寂しい。

 し、仕方がない。

 何より父母が持って行ってほしそうだったので、クッションも持っていくことにした。

 コモン家はトレイドタウン近くの山の上にある。

 街の中心部は土地代が高いので、貧乏なコモン一家は山に住んでいるのであった。

 父母の間に挟まり山を下る。

 数十分ほど歩くとトレイドタウンに着いた。

 石畳の広い道に、馬車が何台も行き交う。

 通行人も多くそこそこに大きな街だった。


「やっぱり、この中でルーが一番可愛いなぁ。いっそのこと、全ての子どもがルーだったらいいのに」

「着飾った貴族の子どもにも負けないくらいよ。今すぐにでも可愛さバトルを仕掛けたいけど、また今後にしましょうかしら」

「はは……」


 ここは帝都から馬車で5日ほどということもあり、交易の街として栄えている。

 貴族の富裕層も多く、商売をやる上ではうってつけの場所だろう。

 そして、通行人はチラチラと私を見ていた。

 それを目ざとく見つける父母。


「ルー、道行く人々もお前のことを見ているぞぉ。可愛さに見惚れているのさ」

「みんな、ルーちゃんのような可愛い娘が欲しいのねぇ」

「う、うん、そうだね」


 クッションの奇抜なデザインのせいだと思うけど……。

 まぁ、父母が嬉しいならそれでいいや。

 てくてくと街を練り歩き、私の見せびらかしが終わったときだ。


「おい、ルー! よくもそんな貧乏なナリで俺様の前に出てこれたなぁ!」

「え……?」


 私たちの目の前に、三人組の男児が立ちはだかった。

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