第13話:機織り機
「行ってきま~す」
「行ってらっしゃい、スモーリー。はい、これお弁当ね」
「お父たま、行ってらっしゃい」
〔気ぃつけてな~〕
リリスが生まれてから数日後、彼女はすっかりコモン家の一員になっていた。
「じゃあ、私は洗濯物干してくるから、ルーたちは遊んでおいで」
〔ルー、ドングリ集めに行かん?〕
「えぇ~、またぁ?」
〔ええやん、ええやん〕
ちょろちょろしながら森へ向かうリリスを追いかける。
森は家のすぐ裏手にあって、少し踏み入るだけで木々が鬱蒼と茂っていた。
「もはや毎日の日課だね」
〔ドングリ集めは楽しいで~〕
リリスは暇さえあればドングリを集めたがる。
どうやら、たくさんあると落ち着くらしい。
「そのうち、山からドングリ無くなっちゃうかもよ」
〔そしたら、ルーが錬金術でドングリの木ぃ増やせばええやんかぁ〕
「んな無茶な」
リリスと一緒にドングリを拾う。
まぁ、なんだかんだ言って楽しいけどね。
なんだか童心に帰る気がするし。
あっ、今は身体も子どもか。
ボンヘイドングリの実は、細長い形の物が多い。
葉っぱの隙間に入り込んでいることもあるから、その辺りも良く探さないと。
〔いやぁ、今日も大漁や。ほんまに、この山にはドングリがぎょーさんあるわ。ルー、持ってて〕
「はい」
リリスは体が小っちゃいので、いくらか集めると渡しにくる。
ドングリを受け取り、母が造ってくれた小さな赤いポシェットにしまう。
チョークとこの鞄とが、私の必需品になっていた。
〔毎日ドングリに囲まれた生活なんて、ゴーレム冥利に尽きるってもんやね〕
そこはリスじゃないのかな……と思ったけど、まぁ楽しいならいいや。
ふと地面を見たら、不思議な実が落ちていた。
「あっ、なんか珍しいドングリあった」
〔なんやて〕
「ほらこれ」
実を拾い上げる。
丸々太ったドングリ。
細長い物が多いのに、これはなぜか丸くなっている。
大きさもリリスの顔、半分くらいはありそうだ。
成長しすぎたのかな。
〔……っ!〕
「ど、どうしたのリリス」
喜ぶかと思ったけど、リリスは固まって動かない。
もしかして、形にもこだわるとか?
ドングリならなんでもいいわけでもないのか。
そう考えていたら、リリスは震える手でドングリを受け取った。
〔……で、でかしたで、ルー! こらぁ滅多に見かけへん、超レア物のドングリや!〕
リリスは、ぱああっ! と目を輝かせてドングリを掲げる。
誇らしいほどに清々しい表情だ。
な、なんだ、感動しているだけだったのか。
「あ、ありがとう、そんなに喜んでくれて」
〔こんなレア物、おいそれとは食べられへん! 特別な日ぃまで大切にしもうとくわ! だから、それまで持っててルー〕
「はい」
ということで、丸ドングリもポシェットにしまう。
ポシェットがいっぱいになってきたところで、ドングリ集めは終了となった。
家に帰って母のお手伝いをしよう。
〔おかんにも見してやらんとな~。ルーのおかげで二つとあれへんドングリが見つかったわ~〕
「家事の邪魔しちゃダメだからね」
〔わかってるっちゅうねん〕
わかってると言いつつ、リリスは昨日もずっとドングリの山を見せびらかしていた。
まったくもう、ほんとにわかってるのかな。
そして、家に近づくにつれ、ギッコ、ギッコ……という何かを引くような音が聞こえてきた。
〔んん? なんや聞こえるなぁ〕
「ああ、あれは機織り機の音」
〔機織り機ぃ?〕
「お母たまが織物を作っているの」
ポカンとするリリスを肩に乗せ家に入る。
部屋の片隅では、母がギッコギッコと機織り機を動かしていた。
私たちを見ると、手を止めず器用に首だけ回してこちらを見る。
「お帰りなさい、二人とも。ドングリ集めは楽しかった?」
「お母たま、ただいま。楽しかったよ。ポシェットがパンパンになった」
〔帰ったでー。へぇ~、これが機織り機っちゅうんか~〕
真っ先にリリスは機織り機の木枠に乗っかった。
一定のリズムで右に左に移動するシャトル(糸をつけてシュッ……と滑らすヤツ)を、それはそれは興味津々に目で追っている。
<ブランニュー帝国製機織り機・第二世代>:ランクC(D)。一人用の機織り機、足踏み式。安心安全のブランニュー帝国製。安価かつシンプルな造り。操作しやすく故障しにくい。現在の最新鋭は第四世代なので、これは結構な旧式となる。
「リリスちゃん、そこにいては危ないわ」
〔わかったで~かんにんな。……それにしても立派な機織り機でんなぁ〕
私の肩に舞い戻ったリリスが感心した様子で呟く。
この機織り機はコモン家において最高峰のCランク。
どうしてそんなに高価な物が家にあるかと言うと……。
「これは私がスモーリーと結婚するときに、お父さんたちが買ってくれたの」
そう、母の嫁入り道具なのだ。
私が生まれたときには、すでに部屋の片隅にあった気がする。
なので、少なくとも5年はこの家にあるということだ。
〔はぁ~っ! そら大事なものでんなぁ。そんで今は何作ってるん?〕
「ランチョンマットよ」
「〔……かわいい(かわええ)〕」
母は手を止めて、織っている布を見せてくれた。
爽やかな白地にブルーの雨粒模様。
自分でも使いたくなっちゃう。
この機織り機でコースターやハンカチなどを作って売るのが、コモン家収入の2割を占めていた(残り1割はたまに母が作る料理の販売)。
「新しく考えてみた模様なんだけど、どうかしら?」
「すごいかわいいよ、お母たま!」
〔大人気間違いなしやで!〕
「二人がそう言ってくれるんなら安心ね。じゃあ、この調子で仕上げちゃいましょう」
母はギッコギッコと機織り機を動かす。
リズムよく布が織られていたけど、少ししたらシャトルが引っかかってしまった。
〔おっ? 止まってもうたで〕
「最近、すぐに引っかかっちゃうのよ。やぁねぇ、もう壊れかけなのかしら」
機織り機をいじると、またシャトルが動き出す、
そして、しばらくすると引っかかる。
「あっ、まただわ。だましだまし使っていたけど、いよいよ限界かも」
〔これじゃあ仕事にならんといて〕
第二世代となっては、さすがに古すぎるのだ。
ランクだって今はCだけど、もうじきDに下がってしまうだろう。
〔新しいの買わへんの?〕
「最新の機織り機は高いからねぇ。ルーちゃんが稼いでくれたお金は、貯蓄にも回しておきたいし……」
新型には魔力供給装置がついており、半自動で布を織ってくれるらしい。
その分、高価なので買える人は限られている。
機織り機は壊れかけだけど新しいのは買えない。
……よし。
「お母たま、私が錬金術でグレードアップする」
だから、私が何とかするのだ。
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