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第1話:冤罪処刑

「ルーベリー、お前を処刑する! この魔女め! こんなにあくどい人間だとは僕も思わなかったぞ!」

「あなたみたいな人が宮廷錬金術師だったなんて、リグレット王国始まって以来の恥ね!」


 人類歴881年。

 私は王宮広場で拘束されていた。

 と言っても、地面に縛りつけられているわけではない。

 十字架でもなかった。

 私の首と両手は輪っかに拘束され、上にはギラリと光る巨大な刃。

 そう……ギロチン台だ。

 私は今から処刑されてしまう。

 でも、全部冤罪なのだ。

 全身を石と鞭で打たれ、もはや話す元気もない。

 だけど、ここで釈明しないと本当に殺されてしまう。


「か、解放してください……私は……何もやっていません……」

「するわけないだろ! お前みたいな大罪人には、このギロチンでさえもったいないくらいだ!」


 目の前で怒鳴ってくるのは、婚約者のクラウン王子。

 さらりとした金髪に住んだブルーの瞳。

 見た目は麗しい(と周りの人は言っている)けど、性格は最悪の最悪という非常に残念なお方。

 特技は逆ギレ。

 国王陛下が病に伏す前、私の錬金術を見込んで婚約を取り付けたのだ。

 正直イヤだったけど、相手が王族では断れるわけもなかった。


「わ、私が何をしたというのですか……」

「何をしたって? 君は魔族と繋がって、王国を売ろうとしていたではないか!」

「そんなこと……するはずがないではありませんか……」


 あり得ないことを言われ、焼けるように痛い喉から声を絞り出す。

 リグレット王国は魔族と交戦中だ。

 彼らの進撃を食い止めるために、私は日々錬金魔道具を造っていた。

 <全自動バトルゴーレム>、<マジックアロー・ガトリング>、<全快ポーションセット>……挙げだせばキリがない。

 いずれも前線で王国軍の助けになっていると聞いていた。

 兵隊さんたちが感謝の手紙を送ってくれたのだ。

 中でも、魔族の特性を研究して造った<対魔族用結界錬成器>のおかげで、この国は守られていた。


「君が魔族と連絡を取っていたという証拠もあるんだぞ!」

「そ、それは…………真っ赤な嘘です……」


 クラウン様はバッと羊皮紙を広げる。

 何月何日に私が魔族領に行き、幹部の誰それと会って……というようなことが、びっしりと書かれている。

 が、全部でっち上げだ。

 というか、そんなことをする暇があったら寝ている。


「クラウン様にだって、錬金術をお教えしていたではありませんか」

「はあ? あれが教えるだって? 君が無理やり意味の分からない説明を続けていただけじゃないか! 第一、僕は君に錬金術を教えてほしいなどと言った覚えはない!」

「で、ですが、クラウン様が錬金術を教えろと頼んできたでは……」


 こんな状況だというのに、過去の出来事が思い出された。

 私の日常は新しい錬金魔道具の製作と、戦場から戻ってくるアイテムたちの管理や修理で死ぬほど忙しかった。

 それなのに、クラウン様は「僕にも錬金術を教えろ」としつこかった。

 基礎の基礎、それこそ幼女でも理解できるように丁寧に丁寧に教えた。

 だけど、クラウン様は決して理解しなかった。

 というより、逆ギレされるばかりでまともに教えられなかったのだ。

 最後まで話を言い終わる前にキレ散らかすので、結局ベーシックな錬金術書が半ページも進まなかったっけ。

 もしかしたら、王子として育てられた境遇が、クラウン様のプライドを天高く聳えさせてしまったのかもしれない。

 私の教え方がまずいのかと、何人かの子どもにも同じことを教えた。

 あっという間に全員理解できた。

 

「僕のせいだと言うのかね!? 君は本当に人のせいにするのが好きだな!」

「で、ですから、そうではなく……」

「そんなんだから、君は魔族と繋がってしまうのだ! 人を責める前に自分の心の甘さを反省したまえ!」


 クラウン様はお得意の逆ギレを披露する。

 疲れて何も言う気がしなかった。

 そして、彼の隣には一人の女性が立っている。


「裏切り者のルーベリー! 君の横暴はこれだけではない! 彼女の手柄を全て横取りしていたのはわかっているんだぞ!」

「まったく、好き勝手やってくれたわね。あたくしが見ていないとでも思っていた? 残念、あたくしの目はごまかせないわ。あなたのような節穴とは違いますから。せいぜい自分の行いを後悔することね。この能無しで甲斐性なしのグズ錬金術師が」

 

 すごい早口で罵倒してくるのは、錬金術師長のヘッディ。

 茶髪のロングに、鷹みたいに鋭くて怖そうな目。

 彼女は立場を利用して、私が造った錬金魔道具を全て自分の功績にしてしまった。


「少しでもヘッディの尊さを学べば、君の未来は違ったかもしれないな。ああ、ヘッディ……君は今日も美しい」

「クラウン様ぁ……」

「……」


 ギロチン台の前だというのに、彼らはイチャイチャしだす。

 今さら何も言うことはない。

 二人は隠れて浮気していたのだ。

 私は忙しい日々の中で、その証拠もしっかり集めていた。

 だけど、公表しようとしたら、次々と冤罪を吹っ掛けられギロチン台送りとされてしまったのだ。

 今だからわかる。

 元から私は邪魔だったのだろう。


「おい、お前らもルーベリーの悪事はひどいと思うよな!」

「「そうだ、そうだ! クラウン様の言う通りだ! ルーベリーを処刑しろ!」」


 クラウン様は聴衆に向かって声を上げた。 

 周りの聴衆は、ほとんど宮廷錬金術師の面々だ。

 もちろん、彼らもクラウン様たちとグルだった。


「前から怪しいと思ってたんだよな。まさか、魔族と繋がっていたなんて……極悪なヤツだ」

「しかも手柄を横取りしようとしたらしいですわ。意地汚いこと」

「早く死んでくれた方が国のためだ。本当に役に立たずな女だったぜ」


 こっちも罵詈雑言の嵐だ。

 もう言葉もない。

 私は宮廷錬金術師だったけど、自分だけ不眠不休で働かされていた。

 ヘッディ曰く、その方が効率いいから。

 他の錬金術師たちは飲んだくれの毎日。

 私が開発したポーションやゴーレムなどの錬金魔道具も、全て彼らが造ったことにされていた。

 術師長と王子が繋がっているので、どうしようもなかったのだ。


「さて、ルーベリー。君はもう死ぬのだが、何か言い残すことはあるか?」


 何か言い残すこと…………そうだ。

 国を、国民を、兵隊さんたちを守るために、これだけは言っておかないといけない。

 

「で、では、一つだけよろしいでしょうか」

「ああ、何でも言っていいいぞ」

「叶えてあげるかは別ですけどね」


 二人はバカにしたように私を見ていた。

 でも、そんなことはどうでもいい。

 国の平和がかかっているのだ。

 すうう……と息を吸い込む。


「<全自動バトルゴーレム>は胸部のコアが弱点です。製作するときは必ず頑丈なカバーを着けてください。<マジックアロー・ガトリング>の修理は、必ず全てのパーツを分解洗浄してください。そうしないと暴発します。<全快ポーションセット>は72時間で腐ってしまうので、出来上がったら特急で届けてください。転送装置がまだ不完全ですので。<対魔族用結界錬成器>はデリケートな錬成魔道具なので、毎日少しずつ魔力を補給してください。一度にたくさんの魔力を補給しては壊れてしまいます。常にゲージの85%を超えないようにしてください。そして……」

「「っ!?」」

 

 今までに開発した無数の錬金魔道具のメンテナンス法や注意点を、次から次へと説明する。

 私はもう死ぬのだ。

 一言も漏らさまいと必死だった。

 言い終わったら、みんな呆気に取られていた。

 しまった、さすがに口頭で伝えるのは無理があったか。

 だけど、大丈夫。


「メンテナンスや注意事項は、全て一冊の本にまとめてあります。それを見れば問題ありませんので」


 こんなときのために、日頃からメモを取っていた。

 これで国は安全だ。

 ホッとしたとき、クラウン様のにやけ顔が目に入った。


「その本は……これだろ?」


 そう言って、懐から分厚い本を取り出した。

 良かった、持っててくれたんだ。

 

「そうです! それでございます! それを見ていただければ……」

「こんなものこうしてやる!」

「あっ!」


 クラウン様は大切な本をビリビリに破いてしまった。

 紙の欠片は、風に吹かれて飛んでいく。


「な、なんてことを……」

「僕に指図するな、クズ錬金術師め。さあ、もう御託はいいだろう。さっさと処刑するぞ」


 クラウン様とヘッディは、刃を止めている縄を取った。


「お、お待ちください! もう一度本を書きますから、せめて……!」

「「バイバイ、ゴミ」」


 二人は何の躊躇もなくパッと手を離す。

 痛みもなくギロチンが私の首を貫通した。

 ゴンッ! とあっけない音がする。

 どうしたの? と思ったら、急に世界が回転した。

 地面も人も横になっている。

 なぜ? 

 一瞬疑問に感じたけど、すぐにわかった。

 ……そうか、私は首を斬り飛ばされたのだ。

 

「ハハハハハ、ざまぁ見ろ! ルーベリーの首が吹っ飛んだぞ!」

「なかなかに面白い光景だったな! 無能錬金術師も最後の最後で役に立ったというわけだ!」

「これで王国も安泰だ! 今後は栄えるばかりだな!」


 首が無くなった私の体が見える。

 ドクドクと命が漏れ出すように血が出ていた。

 何者かが首に近づいてくる。

 誰だ? 物好きな……と思ったら、クラウン様とヘッディだった。

 勝ち誇った顔で私の首を見下ろしている。


「みっともないなぁ、ルーベリー。父上や軍は君のことを天才と呼んでいたが、間違いだったようだな。悔しかったら得意の錬金術でどうにかして見せろ」

「さすがの私も生首と胴体をくっつける力はないわ。あなたの役に立てなくてごめんなさいねぇ。オホホホッ」

「……」


 何か話そうにも口が動かない。

 喉がカラカラだし、力が入らないのだ。

 それに、なんだか眠くなってきた。

 初めての経験だけど、ああ死ぬんだな、とすぐにわかった。

 私の人生はこんなにあっけないのか。

 はは、しょぼいなぁ。

 もはや乾いた笑いも出てこない。


 そして……私は死んでしまった。

お忙しい中読んでくれて本当にありがとうございます

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