筆記と実技3
情報戦とは言ってもやれる事は多くない、他の受験生に対し何か出来るわけじゃないからな。俺達がやれることはこの時間でどれだけの正確な情報を集めるか。
「今回戦ってもらうのは、ビースト個体名、スラウス。国際条例に基づき飼育及び管理がこの学校に一任されたビーストとなる。分かってると思うが届けを出していない非公認のビーストを飼育する行為は原則禁止となっている」
今、対ビーストに置いて最も有効な手段とされているのが星人による討伐だが、他にも手段は存在する。
例えば戦闘能力が高く知性のあるビーストを飼育し戦わせるなど。もちろん非公認のビーストは認められていない為、届けを出さなければ違法行為となり厳しい罰則が課せられる。
「スラウスは、軍事利用も兼ねたビーストであり有事の際には駆り出される事もある。こちらから出せる情報は以上だ。何度も言うが、これは軍事機密であり他言すればそれなりの罰則もあるから気を付けるように、それとこの一時間は基本自由行動だ会場を出ても構わんが時間内に戻らなければ、辞退した事になるのでこちらも気を付けるように」
その言葉を最後に教官達は会場を後にする。そして俺は風兎達の元へすぐに集まった。
去年の試験映像が複数画面で映しだされ、数人がビーストへ挑んでいく。基本は一桁台の討伐数だが、稀に二桁多くて20後半の記録を叩き出す者がちらほらといる。今年もそうだがこの学校は国内外問わず、ものすごい数の受験生がいる、もちろん強い人も居るが基本は一般的なレベルの生徒がほとんどだ。
「ちらほらとすごい記録を出す人がいるけど、流石にレベルが高いな」
「そうね、去年って事は今の2年生達なんでしょうけど全員ではないにしろ、ちゃんと強い人達がいるわね」
「あぁ、でもやっぱりレベル7とは言えこれだけの数が居て集まってくれば棄権してる人が何人かいるな」
スラウスと呼ばれるビーストは、四足歩行の生物であるが、地球の動物と違い前足2本後ろ足2本ではなく、前足は一本そして後ろ足も一本、その間に2本の足があり、前面から見ると三本足のように見え、上から見たときにひし形に足が生えた状態になっている。
上部には四本の触手があり、主な攻撃方法はそれらを鞭のように使い物理攻撃を仕掛けてくるようだ。
毒や酸などの特殊な攻撃方法がない分戦いやすくはなっていると思う。
そして厄介なのがこれだ
『ギョエエェェェェェェ』
『くっそ、叫ばれた』
そう、攻撃を仕掛けると叫び仲間を呼ぶ。基本、群れて行動する様には見えないが、攻撃をされれば仲間を呼び、その叫びが届く範囲ならばすぐに駆けつけてくる。そうなれば最後、集まってくるスラウスをすべて倒すか、いったん気配を消して下がるしかない。
逆に攻撃されるまでは一切手を出して来ず、目が無いのか近づいても反応がない。この生態のおかげで多対一にならないような立ち回りが出来なくはないが、流石にレベル7を一撃で葬るのは、受験生達にはキビしい。
「一度叫ばれるとかなり厄介だな」
「そうね、ひっくんとふーくんなら一撃でも倒せそうだけど私やさとには少し厳しかな」
悟と雛がお互いに感想をもらす、スラウスは脆くは無さそうだが一撃で倒すとなると話は別だ。火器を使ってもダメージは与えられるだろうが致命傷にはならないだろう。
「私も頑張れば出来なくはないと思うけど………」
「いや、スラウス相手なら一撃で倒す事にこだわるよりヒットアンドアウェイに徹したほうがいいかもしれないな」
「どうゆう事、夏日?」
「叫ばれたら流石にひとたまりもないぞ」
二宮も一撃で仕留めることは可能みたいだが、やはり火力を出すためには時間がかかる。それならばと俺なりの考えを言うと、真面目と悟が疑問を問いかける、確かにスラウス相手の最適解は一撃で仕留め即座に次にいく、この作業を繰り返すのが一番いいが、それが出来る学生が何人居るだろうか。
「確かに叫ばれる前に一撃で倒すのが一番いいが、それにこだわり一体一体丁寧に対応してると時間がかかりすぎる、かと言って速く倒そうとすればするほど火力不足になり一撃をミスったら叫ばれる」
「確かにそうだがでもそれが最適解じゃないか?」
「違うな、安定した火力を出せるなら話は別だが、俺達学生には少し辛い」
悟の発言に風兎反応する、俺の考えを理解しているのか補足混じりで説明を続ける。
「でも、一体を倒す事に集中すればこの学校を目指す人ならそこまで時間は掛からない」
「そう、叫ばれても集まるまでには時間がかかる、スラウスが集まる前に確実に倒し一旦身を引く、そして集まったとこから離れれば、孤立した個体を探す事も可能だ、火力に自信がないならこれの繰り返しをする方が棄権可能性が減り確実だ」
普段から群れるとこがないため試験会場では一体一体は、そんなに近い距離には居ない。多少叫ばれても倒す事だけ考えれば難しい相手じゃない。
「もちろん火力に自信があるなら一撃が理想だな、でも疲れがたまりパフォーマンスが落ちてきたらさっきの作戦に切り替えるのも良いと思う、現にほら」
『ふぅ……ふぅ…ふぅ…よし次』
『よしこの調子なら棄権になることは無いな』
「彼らは見た所、火力不足が否めないが手数でそれをカバーし確実に倒していってる」
数個のモニターに分かれ同時に映し出される映像の中でも特に結果を残してる所を指差す、彼らの作戦はさっき言ったヒットアンドアウェイを繰り返す作戦で一撃にこだわる人達よりも初動は遅いが最後の方にはかなりいい結果を残している。それに棄権になりそうな場面が少なく自分のペースで戦えている。
「もちろん引き際を誤れば囲まれるから一概には正解と言えないがこれも作戦のうちだと思うぞ」
「なるほどな……助かった、もう少し立ち回りを考えてみるよ」
「あ、ありがとう夏日くん」
「さっすがひっくん、こんな短時間で最適化を見つけるなんて」
「まぁ、まだ時間はあるし悟や雛、二宮のスタイルにあった立ち回りをもう少し考えたほうがいいと思うけどな」
そう言いながら俺も自分の立ち回りを考える、烈教官が言ったのは、どれだけの数を討伐したか、そしてその"内容"を評価すると言った、つまり結果も重要だが出来ることをアピールし内容を評価してもらう事も出来るはずだ。必ずしも多く倒すのが正解ではないと思うが、ここは確証がない部分なので口には出さない、変に意識がそれても嫌だからな。
それに内容を意識できるほど簡単な試験ではない
そんな会話を続けながら時間は過ぎていった……