筆記と実技2
「それでは、実技試験の説明に移る」
対ビースト国務機関、通称アースとは、ビースト相手に戦う星人達の総称であり、主に戦闘を担う。もちろんアースの中には医療専門の部隊や人命救助が主な任務の部隊も存在するが多くは転移されたビーストを相手にいち早く駆けつけ武力でもって制圧する事を任されている。そう、アースとはプロとして戦場に立つ者の事である。
数名の教官が試験場へと入ってきた、壇上に立つのは現在もプロのアースとして活動している男であり、この学校の教師陣は皆、現在も活動を続けるアースや元アースの中でもエリートだった者達が多く集められている。この学校が受験生達から人気たる所以の一つだ。
そして壇上に立つ者の左胸と右腕に掲げられてるのは赤色に一本の白線が引かれたワッペンと腕章であり、これはアースの中でも上位に位置する事を意味する。
「おいおいまじかよ!」
「すげーレッドだよ」
「しかも一本線だぜやばくね!」
受験生は小声ながらも尊敬と憧れを口にする。そうアースのレッドその中でも一本線はかなり強くまずこの場に居る受験生は俺を含め到底太刀打ち出来ない。
「少し騒がしいようだが説明を始める。まず初めに今回の実技試験の総責任者を担当する、烈 大華だ、よろしく頼む」
烈と名乗った男は大きな体格と圧倒的なオーラをもち、たったの一言"騒がしい"と言う言葉で受験生は皆萎縮する。ちらほらと聞こえた声は一切聞こえなくなり、烈教官の声だけが会場に響き渡る。
「これから君たちにやっていただく試験だが、その前にこれから説明される内容は、軍事機密であり受付でも書類にサインをしたと思うが一切他言無用となる、それはもしこの学校に受かろうとも落ちようとも変わらない」
そう、この実技試験は情報が一切出回っていないとされている。受付での書類でなんとなく分かったが口止めがされているようだ、だがおおよその見当はついている、多少の情報操作が意図的にされている気がするが完全な情報統制など不可能だ、これだけの人数が受けるならなおさら、その試験内容とはビーストとの直接戦闘、そう学生が戦うのだビーストと。
「情報の口外禁止、それを踏まえたうえで実技試験の内容を説明する、それはビーストとの直接戦闘だ」
おおそよの見当通りだったのだが一つ想定外の事が起きた。
「うそだろ!?戦うのか?俺達が?」
「ムリよ!私達まだ子供よ!」
「おいおい!受からせる気ないのかよ」
想定外それは、他の受験生が想定よりも多く過剰に反応した事だ、ある程度調べてもあんまり情報が無いため、わからない人が一定数いると思ったが遥かに多かった、受験生の半分近くがその試験内容に驚いている。もちろん風兎や真面目、二宮や悟達には話していたため落ち着きを見せているが他の学生は落ちきがない。
「騒がしいな………まだ説明の途中だが?」
「「「!!!」」」
また、烈教官が騒ぎを鎮める、しかし今度は先ほどの凄みと敬意によるものとは違い明らかに恐怖による静寂。
「君たちがこれから受ける学校は通常の学校とは異なり、知ってると思うが、もし受かった場合は公務としてのアースの訓練兵となり卒業までの期間毎月給与が発生する」
この学校が人気の理由2つ目、もし合格し正式に入学できれば訓練兵として給与が発生する所、しかも金額は安くない。今の日本の全体平均に近しい給与が学生でありながら発生する。
「いいか?君たちはこれから訓練兵とは言えアースの仲間入りを果たす事になる、もちろんビースト災害の時には駆り出されることもある。それを踏まえたうえでこの学校を受けたのであろう?ならばなぜ取り乱す、お前たちの覚悟はそんなものか?」
烈教官のセリフは正しい、これから俺達はアースになるための教育を受けることになる。そもそも戦う覚悟がない者が入学すればただの無駄に終わる。だがこの学校が人気の理由……いや、星人として生まれた全受験生がこの時期に頑張る理由、それは星人のしての能力における成長期が15歳から18歳までの3年間であり多くが星人がこの期間に大成長を遂げる。もちろん3年を過ぎても緩やかにはなるが、強くなり続け20代前半あたりでピークを迎える。
そう、アースとして生きていくうえでこの時期は最も大事な三年間であり最高の環境で最高の経験を積むために受験生達はよりいい学校を目指す。
「確かに君たちは、まだ星人としての能力は未熟だがここで戦えない奴はこれから先も戦えない」
今ここに居る学生のほとんどがビーストとの戦闘を経験していないだろう、少なくとも日本ではビーストに備えていつでも迅速に対応出来るような作りになっている。星人は星人であるだけで国から特別な扱いを受け、そしてここに居るほとんどがある程度いい家の出だろう、そうなればビーストとの戦闘はしない。国としての力は星人の数と質だ、まだ成長の予知がある子供に戦いなどまずさせない。
まぁ俺や風兎はレベルの低い野良のビーストと幾度か戦闘経験は、あるがバレる前にトンズラこくのが日常だった、見つかったら怒られるし。
「もちろん、今この場にいるからといって必ずしも受けなければならない訳では無い、受けたくなければ帰ってもらっても構わない」
「………」
そう言われしばらくの沈黙が続く、そして一人が立ち始め会場を後にしたそれを期に数名が会場を出ていった。この学校は記念受験と言う人がかなり多いと聞いた、なぜなら受験料が無料であり、国が運営するために儲けるためではなく育てるための機関だからだ、そしてこの学校の人気な理由3つ目だな。必然的に自信がなくても受けるだけ受けてみるって人が多い、だからここで帰ってマイナスになることは無い。
「………そうか、今年は随分と残ったな。では、説明を続けるがその前にこれから説明を聞いてもいつでも帰ってもらって構わない。だがこれから先は覚悟うんぬんではなくケガや死亡のリスクが存在するからだ。もちろんこちらも出来る限りの対策は取ってあるが、毎年ケガ人は必ず出るからな」
実技試験がビーストとの戦闘は分かっていたが内容はわからない、どれだけ難しい試験なのか簡単なのかそれがこれから説明される。正直緊張する、無理難題は無いと思うがそれでもとんでもない内容なら辞退せざるおえない、自身はあるがわからない以上それを視野に入れる
「そんなに緊張しなくてもいい、今回君たちに戦ってもらうのはレベル7のビーストだからな」
正直肩透かしを食らった、もっとレベルの高いビーストが出てくるかと思ったがレベル7、普通の受験生からしたら弱くは無い部類だろうがアースを目指す学生であれば十分勝てる。そこは世界トップクラスの学校もっと上のレベルが来るかと思った。だが、もちろん弱い訳では無い、何しろフル装備の訓練された非星人が銃などの火器を使い複数人で対応しなければならない存在だ。
「正直レベルが低いと思っただろう?だが、ただレベル7と戦ってもらうだけじゃない、今回実技試験の会場は、一キロかける一キロの市街地を想定された場所を用意した、そこに50体のビーストを放つ」
「「「!!!??」」」
なるほどね、かなりいい難易度になってるな、一体一ならある程度余裕をもって勝てる人がほとんどだろうが50体居るなら話は別だ、多勢に無勢10体でも一気に来たらプロのアースでも対処が厳しいだろうな。そんな事を考えているとまたちらほらと席を後にする人がいた、仕方のない事だがかなり難しい試験と言えるだろう。少なくとも毎年けが人が出る理由が分かった、そしてそうなれば皆の覚悟が揺らぐ。
「制限時間は10分その間にどれだけの数を討伐出来たか、そしてその内容を評価させてもらう」
退室する人達は一切気にせず説明が続けられる。この光景も教官は慣れているのだろう。
「会場には教官である私達が常に君たちを見ているが必ずは無い、有事の際には駆けつけるが、もちろん怪我のリスクも存在する。よく検討したうえで試験に臨むといい」
なるほど、すべてを倒す前提ではなくどれだけ速くより多く討伐出来るかを競うわけか、つくづくいい試験だ。
レベルが高いわけじゃない分時間をかければ倒すのは簡単だが広い会場でまず見つける事そして数的有利を作られないように立ち回る事、そして迅速に討伐する事、アースに取ってはどれも必要な力だ。
「試験内容は以上だ、そしてこれから一時間の間、去年の試験の記録映像を複数画面で映す、それを参考に対策を建ててもらって構わん、一時間後に受験番号順に実技試験に移る。そして他の受験生の映像も映し出される。説明はこんなところだろうか、質問はあるか?」
試験内容は理解できた、正直どれだけ出来るかを見るための難易度設定だろうがかなりキツイ、だが一時間映像が見れて対策出来るならかなりやりやすくなった、そしてこれからの一時間がかなり重要だ、いわゆる情報戦。ビーストの情報が得れる、それはビースト相手に優位に出れる事を意味し、そしてそれは他の受験生も同じでここでどれだけ他との差をつけるかでも合格率が変わるだろう。
「質問よろしいでしょか?」
「構わん、続けろ」
「では、今回の試験では他の受験生の映像も見れるとおっしゃいましたが、それでは公平性が保たれないのではないでしょうか?」
「と、いうと?」
「今回の試験会場の広さ的に全員同時に試験するほどの会場を用意出来ない、そもそもそんな広大な土地はありません、多くても5〜10名ずつといったところでしょう、そうなればはじめに受ける人は得られる情報が少なく後になればなるほど優位」
「確かにそうだな、だからどうした?」
烈教官が凄みを見せるが質問を投げかけた生徒が臆することなく続ける。
「未熟な私に教官殿の考えを教えてよ頂いても構いませんか?」
なるほどなそうゆう事か。あの人は賢いな、見た目からも分かる優等生な雰囲気と言葉の節々に感じる知性、彼が理解できて居ない訳がない、明らかに狙ってやっている、質問も的確で疑問になりやすい所を補足混じりで説明、そして最後に臆することなく考えを聞き烈教官相手に怯まなかった。
「はぁ……君、名前は?」
「失礼いたしました、私は朝日 水斗と申します」
「水斗か……良い名だ。質問に答えよう、ビーストと戦う上で一時間以上時間が空くことなど無い。基本ビーストは未知だ、情報など無い。そしたらどうするか?まずは観察だ、それが出来てもわかりません、じゃ意味がない、だから観察眼を養う目的と一時間と言う長い時間ですべてを理解出来なければ、それは最初だからなどと言う奴の技量不足だという判断になる」
「ありがとうございます、理解しました」
「そうか疑問が晴れたのならよかった」
『好印象』この結果だけが残ったな、教官も彼が始めから理解してる上での質問だと理解してるだろうな、未熟なんてとんでもない、この場で質問しここまで良い印象を残せるのは彼だけだろう。朝日水斗か、覚えておこう。
「他に何かあるか………無いようなら映像を映す」
皆、彼の残した結果の後に続けば逆効果だと理解し、最初で最後の質問が終わった。
そして始まる情報戦。