出会いと再会3
「お嬢ぉ〜〜〜〜!!!!」
「??!?!!」
正体不明の近づき続ける生物がついに姿を現すかと思われたその時、唐突に叫び声が聞こえてきた、その声色は心配と不安が混ざっており、まるで愛する娘に何かがあり駆けつけた時のような叫びだった。
それと同時に声の主が現れ二宮さんの元へ行き、その正体に俺は安心と共に唖然とする。
「アレクさん!?どうしてここに?」
「お嬢ご無事ですか?お怪我は?道に迷われたのですか?お荷物はちゃんと全部揃ってますか?なぜ受付所ではなくこんな森に?」
アレクさんと呼ばれたスーツ姿の執事風の男性が二宮さんにまくし立てるように質問する。まるで我が子の旅立ちの日が如く。
「確か受付締め切りはまもなくだったはず?もうすでに受付はお済みですか?それもまた何か問題が起こりましたか?」
「お、落ち着いてください。私はちょっと色々あってまだ受付できていなくて、実は……」
アレクさんの年齢は親世代と言われると少し若すぎる気がするが、かと言って俺たちほど若くはなく三十代前後辺りといったところだろうか、名前からも分かる通り完全に外国人で顔つきからロシア辺りなのが見て分かる、しっかり整えられた髪や立ち姿、所作からも分かる育ちの良さと娘を不安がる残念親父キャラが共存しており不思議な感覚になる、そして近くにいると分かる圧倒的存在感、近づかれるまでは生物であること以外分からなかったが、ここまで距離が近づくと嫌でもわかる、この人は強い。
「………って事があって……」
「左様でした、ですがこの私が来たからにはもう安心!」
二宮さんからの一通りの説明が終わった所で待ってましたと言わんばかりの顔で胸ポケットに手を入れるアレクさん。てか、俺がすごく蚊帳の外のんですケド。
「そんな事もあろうかと予備の受験票を持ってまいりました!」
「え!本当ですか!!」
「ええ、こちらをどうぞ!」
そう言って取り出された受験票を二宮さんが受け取る。こんな事もあろうかとって言ってたけど中々無いと思うけどな、携帯用デバイスを忘れて念の為に持ってきた受験票が風で飛ばされる人。
「ありがとうございます!アレクさん!おかげさまで助かりました」
「いえいえ、当然の事をしたまでですよ、愛するお嬢のためならば」
「それよりもアレクさんはどうしてここに?」
「ん?………あぁ、そうでしたお忘れ物を届けに来たんでした」
忘れ物を届けるという用事を忘れ二宮さんに喜んでもらう事を優先し受験票がメインになっていたのか、何のために来たのか忘れてしまっていたみたいだ。それよりもさらっと流したけど愛するお嬢のためって言ったよな………てか、良く考えたら二宮さんっていいとこの出なのか?
「デバイスお忘れでしたので届けに参りました」
「あ、ありがとうございます、助かりました」
「いえ!それよりも彼は?」
デバイス届けに来たなら受験票よりもそっちを渡せばよかったのでは?やっぱりこの人本当に強いのかな?
なんて考えていた時に急に話が振られた、今まで蚊帳の外だったので反応が出来なかった。それだけじゃない、向けられた視線には多少の敵意を感じた。
「あの〜……えっと……その〜……なんていうか」
ここに来て話が振られたので俺が反応に遅れ、話し出す前に二宮さんが応えてくれるのかと思ったが、中々端切れがわるい、その事に対して、そして向けられた敵意に対し少し苛立ちを覚えた。
別に、大事な日に時間を割いて手伝ったのだから感謝の言葉が欲しい!ってわけじゃない、自分勝手に首を突っ込んだだけだし。でも、せっかくこんな日に出会えて2人で困難に立ち向かい解決出来たし、受験票を探してる時もそれなりに会話をして、まだまだ知らない事だっていっぱいある、家柄の事もアレクさんとの関係も知らないけど彼女から自信を持って紹介されたかった。友達だと、だから勝手に言わせてもらう。
「友達です!」
「本当ですか?お嬢?」
少しの苛立ちをアレクさんに向けつつ目を見てハッキリと言った。
それに応え、俺から一切目を離さずに審議を二宮さんに確認する、若干の疑いの目を向けつつ。こういう所をみるとやっぱりただ者じゃない事が分かる。
「えーーと………はい」
「左様でした!これはとんだご無礼を!お嬢のご友人でしたか!お名前をお伺いしても?」
「氷織夏日です」
「夏日くんですか!お嬢とお友達になっていただきありがとうございます!」
さっきの敵意の混ざった態度とは一変ものすごく物腰の柔らかな人へと変貌した。
「あ、失礼いたしました、申し遅れましたわたくし、アレク・エルフィールと申します。お嬢の身の回りのお世話をおまかせされております。どうぞ気軽にアレクとお呼びください。いや〜それにしてもあのお嬢にご友人が出来るとは!」
「そんなに驚くことですか?」
「はい、実はお嬢は昔から引っ込み思案で周りとうまく馴染めず……夏日くんがご友人になってくれてわたくし非常に嬉しいです!」
「後で、一緒に来ている僕の友達にも二宮さんの事、紹介しますよ」
「本当ですか!!ありがとうございます!」
アレクさんはきっと二宮さんの事が本当に大事なのだろう、さっきの敵意も真剣に向けられたものであり試されてたのだと分かる。それが友達と分かった途端に優しさに変わった、きっとこっちが素のアレクさんなのだと分かるぐらいに。
「あ、ちなみに少し気になったんですけどアレクさんと二宮さんの関係は………あ、言えない事情があるなら大事ですけど」
「いえ、大丈夫ですよ。実は、お嬢とわたくしは血縁関係があり、離れていますけど身内になります」
「!?そうだったのですね。でも、言ったら悪いですけど主従関係にありますよね?」
「はい!わたくしの家系がお嬢の家系の分家筋に辺り、本家筋の令嬢であるヴィスナお嬢様の身の回りのお世話をさせてもらっています。お嬢の家名は現在、二宮ですが本当は良いとこのお嬢様になります。ですが今は訳あって二宮を名乗らせていただいていますね」
「そ、そうだったんですね」
「ちなみにエルフィールと言う家名も分家筋の物で本家は違いますが今は控えさせて頂きます。申し訳ございません」
「あ、全然大丈夫です」
「それにしても、これでより一層この学校でのお嬢の生活が楽しみになりました」
「まだ受かるかわかりませんよ」
「大丈夫!お嬢は強いですから……そしてあなたも」
思ったよりも好印象だったのかものすごく信用された気がする。
そんな会話をアレクさんとしていると視界の端に二宮さんが映った、だが決して目が合う事はない、なぜなら彼女がうつむいているから。
「アレクさん、氷織くん、ごめんなさい私やっぱりこの受験辞退します」
彼女が突然そんな事を言い出した。
「ど、どうしたんですか?お嬢、せっかくご友人も出来たのに……」
「私考えたんです、兄や妹たちならこんな失敗しなかったし、絶対にならなかった。きっとこんな所で躓いて人に迷惑をかけるようじゃこの先やっていけないって。ずっと分かってた、それがもし命に関わる事なら今頃大惨事になってもおかしくないって……」
「それは………」
アレクさんが言葉を失った。
きっと二人にしかわからない何があるのだろう。でも、俺は二宮さんの兄妹も知らないし、過去の失敗も知らない、今回の事が諦めるただのキッカケに過ぎなくても俺は全部知らない。
「なぁ、どうして今日の事が失敗になってるんだ?二宮は、もう受験することが絶対に出来なくなったのか?今手元には受験票があってまだ受付時間内だ」
「………でも、氷織くんが一緒に居なかったら私はきっと諦めて帰ってたし、そもそもアレクさんが来てくれなかったら受けることなんて出来なかったから、きっとそうゆう運命だったんだって思えて」
「じゃぁよかったな俺達がいてそうゆう運命で」
「そうゆう事じゃなくて私一人じゃ何も出来なかったって言う……」
彼女が言っていることは理解できる、きっと一人で何でも解決しなきゃいけないと思い込んでいるし、もしかしたら今まで本当にそうだったのかもしれない、じゃぁ考え方を変えよう。
「それは違う。今君は一人じゃ出来なかったって、私の力じゃないって思ってるんだろう?」
「……うん」
「違うな!君の運命が俺と出会い引き留められ、君の人望がアレクさんを呼んだんだ」
「違うよこれは私の力じゃない」
「いいや!これはれっきとした君自身の力だ、君が生んだ失敗で助けられたんじゃない、君が俺達に導かれた成功だ!」
人が生きるには色々な人の助けがいる、誰だってそうだ。でもそれは人によっては助けてもらってるのが重りになる人だっている、彼女のような性格なら特に、助けられて自分は何も出来ないって思い込むんだ。なら、一人じゃ生きられない"人"は無力か?違う、みんなで生きているから強いんだ。助け合い上等!生きるのに迷惑をかけるんじゃない、その人がいるから助けられてるんだ!
「ご友人がここまで言ってくれてるんです。もう一度頑張ってみませんか?」
「………私にも出来るかな?」
「少なくとも俺はこの学校に通う理由が一つ出来たぞ」
「……うん!……やる!私やるよ導かれたのに私が諦めるなんて出来ないもん!」
「よし!じゃぁ行くか!」
「頑張ってきてください!応援しています」
こうして俺達は2人で受付へと向かった……
あ、真面目達のこと忘れてた……待たせすぎて怒られそうです。