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命の輝くこの星で  作者: 天敵サボり
入学式
15/17

悟と雛4


二人の試験開始目前まで迫ってきた。今回二人にとってはかなり厳しい戦いになるだろう。




「……ねぇ夏日、あの二人大丈夫かな?」

「正直な所かなり際どいな、もちろん絶対に無理だとは言わないが最高のパフォーマンスを出せても五分五分って言ったところだろう」

「でも悟さんと雛さんかなり強そうですけど……」

「あぁ、もちろん弱くないむしろ強いぐらいだ。でもそんな奴らが集ってるのがこの学校だ。地元で一番強くったってここじゃザラに居るレベルになる。いわゆる相対評価だな」




 非星人からすれば分かりづらいかもしれないが悟も雛も十分すぎるぐらい強い。イメージ的には学年で一成績がいい人を思い浮かべてくれ、そんな奴らがゴロゴロ集まって受験競争をしているのだ。日本トップいや、世界有数の学校を受けたら、いくら頭が良くても普通に落とされる、それぐらい狭き門なのだ。




「始まるみたいだぞ」

「がんばれ、二人とも」



『それでは!試験開始!!』

『武運を祈る!試験開始!!』




 2つの会場で今二人の試験が同時に始まった。

悟は、開場と同時に勢い良く飛び出しスラウスの探りながら中心に向かっている、それに対して雛は少し入り口付近で落ち着きを見せゆっくりと動き出し一気にトップスピードで走り出した。




「あのーちなみになんですけど二人の属性ってなんですかね?」

「悟が土で雛が火になるな。悟はそこそこ良い家の出だからエネルギー量も多いいし純粋に火力と持久力で真っ向から勝負しても強いタイプだな。それに対して雛は、もともとエネルギー量が多いい訳じゃないから、純粋な火力がちょっと不安定になりがちで昔は苦労してたな」

「でも、雛ちゃんはそれ以上にセンスがあるから昔の悟くんよりも強かったんだけどね」




 俺と風兎が初めて二人に出会った頃よりも前から二人は知り合い同士でかなり仲が良かった。昔から強かった二人だが常に雛が悟に勝利し続けていた。肉体のスペックは悟のほうが上で、負ける要素があまりない気もするがそれを能力を操るセンスだけで雛が勝利していた。雛も同年代じゃ十分才能ある方なんだけどね。

 そして画面では悟と雛が一匹目に出くわしていた




「来たな」

「ほぼ二人同時に出会ったね」

「ここでも雛に先を越されるか」




 そんな事を言いながら二人を見守る。負ける事はあり得ないむしろ一撃で十分に片付けられるはずだ。




『なるはやでイチゲキ必殺!』

『雛に先こされたら男として恥ずかしいな』




 画面越しだが二人のことを良く知る人ならば理解できる声が俺達には届いた。

そうして放たれたお互いの初撃は雛に軍配が上がった、先にスラウスを討伐したのは雛の方だった。それでも時間差で言えば数秒程度、同時と言っても良いぐらいの差だ。最初にいた位置からは、悟のほうがスラウスの位置が近かったが最初からまっすぐに目標に向かった雛とほぼ同着でその分タメの時間に差が出たな。




「すごい!悟さんも雛さんも二人とも一撃で倒しましたよ!しかも、雛さんの攻撃速度がすごく速かったですよ!やっぱり二人ともすごいですね!」

「いや、雛の方はもう少し抑えて打ちたかったな」

「あぁ、だいぶオーバー火力になった」

「???……どう言う事ですか?雛さんの方はタメも威力も水斗さんと比べても遜色ないぐらいには良かったと思うんですけど?」

「実は雛の攻撃にはカラクリがあって、事前にエネルギーを練っておいてそれを顕現させてるんだよ」

「!!??え!それって結構すごくないですか?」

「ええ、雛ちゃんは能力を扱うセンスが飛び抜けて高いのよ、そのおかげで体内でエネルギーを練ってとどめて置いて必要な時に顕現させる。そのおかげであの威力と速度が出せてるんだけど……」

「もちろんタメには時間がかかる、そして雛自身の能力スペック的に底まで多くを溜めておけない、要は使い捨ての力なんだよ」

「それじゃあ試験中に練っておいたエネルギーが無くなったら戦えないってことですか?」

「いや、練ってなくてもそれなりに戦えるがかなり出来ることが減る」




 もともと雛の家系は星人としてみればそこそこ、歴史ある家系やそこから派生した家系の出じゃないため能力値が低い。それを持ち前のセンスと彼女の努力で戦うための力がついたに過ぎない。それでも地力の違いで悔しい思いをした所をよく見てきた。

 そして、幼い頃とは違い、より体が作られていき生まれたばかりの足並み揃った状態からそれぞれの個性が出始め、彼女は周りから遅れ始めた。

 そこで編み出されたのが今の戦い方なのだ。




「じゃあなるべく温存しておかないとなんですね」

「そうだね、それか尽きるまでになるべく記録を残しておきたいかな」

「さとくんも2体目討伐して動き出したよ」

「悟はどうするつもりだ?」

「中央に向かっているみたいですけど……」

「こればかりは流石に分からないな」




 悟は勢いよく会場の中央に向かって走っている、水斗くんの様に叫ばせて集まったスラウスと一斉に戦うには実力が及ばない。かと言って一匹目ずつ確実に倒していく手段じゃ、悟だと記録が思うように伸びないだろう。




「え!!嘘でしょ!」

「マジか!やる気だ」




 真面目と風兎が同時に驚きを口にする。それもそのはず、中央付近に着くと同時に近くにいるスラウスめがけて、先ほどの威力とは比べ物にならないぐらいに弱い石弾が飛んでいった。

 それすなわち、彼らの習性が発動する。




『ギョェェェェェェ』



「おいおい!大丈夫かよ?」

「いや、案外いい作戦かもな」

「嘘でしょ?あれは水斗くんや夏火、風兎レベルの地力があって初めて出来ることだと思うんだけど」

「そうですよね、さっきも同じ事をやろうとした方が数分と持たずに物量で押し負けてしまいましたし」




 そう、この作戦実行してる人が結構いる。そしてまともに成功したのは水斗くん含めて数名。

 その全員がかなり大きな記録を叩き出してる。それぐらいに効率が良く、難易度の高い作戦なのだ。




「あいつ、昔から荒い所があるが出力とエネルギー総量が多い分物量に対しては強気に出れる。それに多少なら地形も操作できるから最悪逃げて一から立て直すことも出来なくはない」

「確かにそうだが、流石に悟でも厳しいだろ」

「それがあいつなりの挑戦であり、最も受かる確率が高い所に賭けたんだろう。もし途中でリタイアする様なら一緒に励ましてやろう」




 そして宣言通り会場の中央で既に集まりつつあるスラウスを一匹一匹倒して行った。

 そして雛は一匹目から先は大きく動かなかった、もちろん見つけては倒してを繰り返していたが悟とは対照的に記録の伸びがいまいちになっている。




「ここでようやく折り返し……悟が限界近いんじゃないか?」

「まずいな、疲労がたまって精度が落ちている。それを出力で無理やり補っているから、最期までは持たないな」

「雛ちゃんは逆にすごく落ち着いてる。むしろ落ち着きすぎてこっちが焦りたくなっちゃう」




 試験折り返し地点での二人の記録は、悟が15匹で雛が5匹になっている。

 悟がもしこのままのペースで行けばトップの記録にかなり近づくが現実はそうもいかない。最初の討伐速度に比べると明らかに落ちてきている。

 それに比べて雛はスロースタートで最初の一匹を倒してから威力を調整しつつ、一匹一匹丁寧に倒している。雛の能力的に持久戦になるとどうしてもジリ貧でつらい思いをする。

 そして変化が訪れた。




「まずい!」



『んっっぐぅぅ』




 とうとう限界がきた。ここにきて悟がもろにスラウスの攻撃を食らった。今までは致命傷はなんとか避けていたものの疲労により体勢が崩れた事でガードが間に合わなかった。

 一度崩れてしまえば後の祭り、立て直せない状態で攻め続けられ、やがてリタイアとなる。

 ここが正念場、記録は十分に残せているだからこそここで引くことも重要。それをちゃんと理解しているのか、包囲網の一か所を無理やりこじ開けたそこから一気に外へでる。それでも追われている状態なら休むことは出来ない、だからこそここで地形の変化が役に立つ。




「逃げ切れ!」

「悟さん頑張ってください!」

「あとちょっとだ踏ん張れ!」

「ここで倒れたら漢が廃るぞ!」



 届くはずのない声援を皆口々にする。その甲斐あってか




『ぅぅぅうううおおおお!!!』




 雄叫びとともに悟の後ろに背丈を上回るほどの壁が出来上がる。気合で作った防壁、そしてそれに阻まれるスラウス達。




「やっった!」

「ふぅーなんとかなったな」

「まだ気は引けないもののとりあえず時間が稼げた」

「さとくん大丈夫かな?」




 なんとかリタイアせずにスラウス達から逃げ切った。それでも未だ試験中、記録を伸ばせる時間なのだ、まだ終わりじゃない。

 そんな窮地を脱すると同時に雛が声を上げる




『よし!こっからとばしていくよ〜』




 雛が声を上げたと同時に一気に建物の上に上がっていく。残り3分弱、全力を出してもギリギリ持つはずだが、もちろん調整をミスって使いすぎればガス欠になるし、威力が足りなければスラウス追い詰められ不利な戦いになる。

 悟の大きな戦いが終わり雛の番が来た。あっという間に建物の屋上にたどり着き、弓矢を引く時の構えをとる。左の手に炎が沸き上がる、そして右手でそれを引く。そこから狙える位置にいるスラウスは3匹。

 一発外す毎に無駄なエネルギーを使った事になる、もちろんそんなヘマを彼女がするはずもない。そして極限の集中の中で放たれた一撃が、きれいな直線を描きスラウスを捕らえる。

 その結果をみる前にもうすでに二発目が放たれようとしている。早業と言わざる終えない速度で次の矢がそして3つ目も放たれた。

 結果は、すべて着弾。最も遠いスラウスは百メートル近く離れていたと言うのに文句のつけようがない精度と威力、対象との距離から調整し必要なだけのエネルギーが込められていた。

 同じ年に生まれた人ならば誰もが思うだろう、神業だと。




「なんですか今の?凄すぎませんか」

「相変わらずセンスが良いな」

「能力値だけで言ったらここに居る受験生の中でも下の方なのにあれが出来ちゃうから雛ちゃんはすごいんだよね」

「ほら、次にいくぞ」




 倒した3匹を見届ける間もなく次の場所に移動をし始めた。それから彼女は一撃も外す事なく記録を伸ばし続け───




『これにて!試験を終了する!』




 終わりの合図が流れた




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