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命の輝くこの星で  作者: 天敵サボり
入学式
11/17

対ビーストとは2



 ここに居る受験生は皆気にしているだろう、他人の記録を。そして自分がボーダーライン以下なら合格が遠のくのは間違えない。

 そもそも今年の平均で言ったら多分10を超えるか超えないかあたりだろう。今試験を終えた10人のうち4名が棄権し、3名は7〜9体の記録で、残りの3名は12〜15体あたりで、試験を終えている。

 この学校の試験レベルの高さがうかがえるがそれでも10数人に1人は20を超えた記録を叩き出す。そういった人が受かることが出来るのだろう。

 そしてこれから試験を始める朝日水斗と言う男はきっと今年の記録の中でも上位の結果を残すだろう。




『それでは、これより試験を開始する!』




 もう何十回と発せられた開始の合図、これと同時に別々の会場で試験が始まる。

 朝日は、開始と同時に開いた扉から勢いよく飛び出していった。




「速いな」

「そうね、単純な身体能力が今までの受験生と比べても群を抜いてる」




 星人はなにも属性にあった攻撃が出来るだけじゃない、身体能力も非常に高く、力も強い。多分、烈教官辺りなら火器でも致命傷を与えられないスラウスもパンチ一撃で倒せるほどだ。流石に受験生が一発で仕留めるのは出来ないまでも俺や風兎なら体術だけで十分勝てる。そしてそれは彼も同じだろう。




『まずは、硬さをみる』




 モニタールームには音声も届くが基本的に戦闘音しか届かず独り言は聞こえてこない。それでも彼から発せられた言葉が分かった気がする。




『ズパッっっっン』

「っっっ、!速い!しかも」

「あぁ、ちゃんと一撃で倒した」





 彼が一匹目のスラウスに遭遇し初手に選んだ攻撃は、水を飛ばすだけの単純明快な一撃。されどその威力、そして"速さ"が尋常ではない。彼の右手に込められたエネルギーが野球ボールサイズの水へと形を変え、弾速よりも数段階も速い速度でスラウスへと発射される。これだけの動作でも普通の学生なら数十秒はかかる。いや、かけなければ速度かあるいは水球のサイズを落とすしか無い、それを5秒足らずでやってのけたのだ。




「今の速度どう思う?」

「生成してから放つまでがかなり速いな、でも多分水弾の威力だけならあそこが限界値に近いと思う。もちろん時間をかければ威力は上がるかもしれないけど、水が使えるダブルなら質量で押し切るだろ」

「そうだな」




 風兎の質問に俺は真面目に答える。これだけの威力が出せれば上々、たとえこれ以上の威力が出せても今は割に合わない。水弾の威力を上げようとすれば、質量を増やすか速度をあげるかだが、質量を上げれば重くなり速度が出ず、速度を上げるためには質量を抑えなければいけない。そして星人それぞれに得意不得意があり、生成が得意な者もいれば操作が得意な者もいる。それぞれが合ったバランスで水弾を作っているのだ。

 彼も威力を上げるだけならまだ上はありそうだが、やろうと思えば十倍以上の時間をかけて、丁寧にやって初めて違いが分かるぐらいになると思う。





「夏火から見て彼はどう?」

「う〜〜ん……出力とエネルギーの総量がかなり多いな。多分俺とタメ張ると思う」

「!?!ウッソでしょ?夏火と??」




 真面目の質問に少し頭を悩ませ答える。俺は多分この会場にいる中でトップの出力とエネルギー総量がある自信はあるが俺の操れる属性は一つだけでダブルである彼とはその時点で差がある。ただ一つの属性でも強い人は強い。

 良い例だと、初代星の人(スター)の血を最も色濃く受け継がれている世界四大名家、その当主やその当主から生まれる第一子には、初代星の人に最も近しい力が与えられ、それは他の星人と比べても次元の違う強さを持つ。もちろん一つの属性しか持ち得ないが出力、総量ともに世界トップとなる。

 この第一子にのみ与えられる力は未だに謎が多く第二子からは強くはあれど並ぶ事は決してない。この第一子にのみ与えられる力を純星血(じゅんせいけつ)と呼び、崇められている。

 この様に属性が多ければ強いと言うわけではなく、強いて言えば純星血に近ければ近いほど強くなる。

 俺の家には父親がいないため家系に関しては、正直よく分からないが、少なくとも母親はめちゃくちゃ強い。そのためか俺にも恵まれた才能が宿っている。




「正直俺もダブルやトリプルぐらいなら同世代に負ける気は無かったがダブルでここまで強いならトリプルがいたらやばかったかな」

「そんなのが何人もいてたまるか」





 強さに自身はある、だがダブルの実力をみた以上、それ以上の才能を持った人がいる可能性を考える。もし居たら同世代の最強は俺じゃなれないかもしれない。

 そんな考えを風兎が真っ向から否定する、確かに珍しすぎる才能だから何人も居たら確かに困るな。

 そうして朝日が映ったモニターに2体目のスラウスが現れる、がこれも簡単に一撃で倒してしまう。だが今度は




「おいおいおい!嘘だろ!」

「あいつ!ダブルだったのかよ」

「ずご、確かに一撃目もすごかったけど」




 彼は今度火を使いスラウスを倒した。攻撃は先ほどと同様に炎のエネルギーを圧縮して放ち着弾と同時に爆ぜ、その場にいたスラウスが跡形もなく消し飛んだ。その威力、発動速度ともに先ほどの水弾と近しいレベルでおこなられており見ていた生徒が驚愕の声を上げる。




「予想が当たったな」

「本当に使ったわね」

「しかも、ものすごく高水準で使えてる」




 俺と風兎の予想が当たる

 感覚の話になるがタブルとは、得意な属性と苦手な属性に分かれることが多く、イメージは得意な属性が利き腕で苦手な属性は利き腕じゃない方に近い。そのためよく使う属性がより強く、苦手な方はおろそかになりやすいがどちらも高水準で使えてる彼はかなり器用だと言える。





「能力も器用に使えてるし、身体能力も高い、問題なくスラウスも倒せているから後は感知能力とその精度、それが高ければ彼はこの試験に受かるな」

「いや、それがなくとも少なからず受かりはするよ、だってほら」




 風兎が彼の総評を出した、彼は間違えなく受かることが出来るだろうがこの試験に必要な力は強さだけじゃない、敵を感知しなければスラウスに遭遇する事が出来ない、そうなれば強さも宝の持ち腐れ、意味のないものになってしまう。

 まぁもちろん感知能力が無くてもスラウスをより多く倒す手段はある、そして彼はそれを実行する様だ。




『このあたりで良いかな?』




 目視出来たスラウスを追加でニ体倒し、視界に映らなかった個体を数体通り過ぎ、試験会場の中央へ向かっていく、そして何かを始めるようだ。





『よし!いくか!』

『スッッッパッッン』




 水弾がスラウスに着弾した音が響き渡る。だが今回撃ち抜いたのは上の触手部分のみで肉体の大部分は無事。そしたら起こる事は一つ。




『ギョェェェェェェ』




「マジか!叫ばせた」

「本当に実行するとは」




 彼は試験会場の中央でスラウスにわざと叫ばせた。

そうなれば必然的に集まってくる、数の暴力が。





『気合い入れていきますか!!』





 彼の作戦は単純、わざと叫ばせ仲間を呼んでもらい来た所を真正面から迎え撃つ。言うは易し、誰がそんな芸当出来るものか?そもそも10分間全力で戦闘をすれば、たとえ現場で活躍するプロでもキツイ、それを彼はやろうとしているのだ。




「おいおい……あいつ何やってんだよ」

「せっかくダブルとか言う才能をもらったのに無駄にする気か?」

「彼、すごく良かったのになんであんな無謀な事を……逃げる素振りもないし……」 



 

 他の受験生は彼の事を無謀な作戦だと言い誰もが攻撃を受けて怪我をするか、力尽きて倒れると思っている。そして普通はそうなる。だが……



 そこから数分後……彼はかなりの疲れを見せているが無事に大怪我を負うことなく試験を終えた。

 彼の周りには多方面から集まってきたスラウスの死骸で溢れている。やりきったのだ彼は真正面から集まるスラウス達相手に





『朝日水斗!試験終了……記録……36体』





 ここで今までの最高記録を10体上回る大きな記録が出た。


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