鍵置き
机の上には皿があり、それは鍵置きとして使われていて、ジャカジャカと音を立てるのにも関わらずこういった使い方をし始めた彼女は今はもう遠く、この街のどこかで息をする彼女の目にも映る夕日を、僕は開かれた窓からベランダの景色を通して見る。
鍵置きには鍵が一つしかなく、前は三つあり、その時から皿は鍵置きとして大き過ぎて、山の窪みに置いていかれた鉄のおもちゃのように映り、それを映す目はこの部屋にはもう二つしかなく、一つになった鍵をもう何かに喩えたりはしない。彼女の鍵、彼女の自転車の鍵、僕の鍵。夕日はさっきよりも沈み、ビルの影を濃くし、そのビルの影はこの部屋を分断するように伸びてくる。時計の針の動きが、この部屋にあるありとあらゆる物を、目には見えないあるいは僕にしか分からない力で揺らし、それでも生きてはいない。
僕は皿に手を伸ばす。置かれていた一つの鍵を取り、何も乗っていない皿は、片付けられるのを待っているかのようにそこにあり、皿はもう皿でしかなく、どこか遠くで形を変え差し込まれる彼女の鍵で開いたドアのその奥にある景色に、触れたと思った断片のカーテンがあり、カーテンのないこの部屋の開いた窓に向けて投げた皿は、見えず落ちて当たらず砕けこの部屋を見上げた猫の目に映ったいくつもの部屋の上を、暗くなった空を、カラスが斜めに飛んでいく。




