ふざけんな
「今の何?」
ケンちゃんが言う。
「いやぁ…空手は奥が深い技があるんすよー」
「あたし知らないんだけど…宗一…もう一回やってみて?」
美奈がキレていた。宗一は何となく察する。
「雄輔…もう一回さっきのするからやってくれ」
「わ…わかった…」
そして雄輔は両腕で宗一の体を絞める。宗一は脱力してS字に動き自然の重さによって逃れる。
美奈は当てる。
「それ合気だよね?あんたどこで習ったの?部活も入らなかったのは合気ならってたから?」
美奈は小さいころから嘘が嫌いなので素直に答える。
「天空先生にもう拳や蹴りを使いたくないっていったら最後の3か月に先生の家の修練場で教えてもらった」
「ふーん…あたしになんで言わなかったの?」
「ごめん…」
美奈がキレてる理由は二つあった。なんで合気をならってまで空手が嫌なのか。なんで自分に言わなかったのか。
「天空先生とあんたが何かやってるのは聞いたけど…そんなに空手がいやなの?」
「もう誰かが泣いてまで勝つようなことしたくないん「ふざけんな!」よ…」
宗一の胸倉を摑む美奈。一瞬体が動こうとしたが無理やり動かさなかった。
「たった一回出場して勝っていくたびに負けた相手のことひきづんの?負けた相手があんたに負けただけで泣いてるとおもってんの?まだ自分にはやれることはなかったのかとかいろんな日ごろの鍛錬の自分の甘さに泣いてるんだよ!?確かに負けて悔しい子もいるけどね、だけどあんたは負けた子の思いを受け止めるべきなんじゃなかったの?あんたは優しすぎるんだよ!?それも人の心に深入りしてしまうほどにね!でも心が弱いわけじゃないだろ?!あんたは!?もう立ち直ったと思ってたけど…あんた12月の大会に個人ででろ!あたしがあんたの心を見極めてやる!それまで絶交だ。日輪さんすいませんあたし帰ります今日はありがとうございました」
帰ろうとする美奈に雄輔が腕を摑む。
「宗一だっていきなりそんな言われて「わかった…美奈…12月の大会に出る…でももしあの時と同じ想いをしたら俺は空手やめる…」宗一…」
ケンちゃんが言う。
「いいんすか?えのっちのなかのソウっちが幻滅しても?」
美奈は宗一に告げる。
「確かに小学生と中学生じゃだいぶ差があるだろう…けども!あたしの知ってる小暮宗一っていう拳士は今でも…いやこれからもあたしからライバル視されなきゃならない存在なんだよ」
「ごめんね?美奈ちゃん」日輪その後小さく言う。
「あの子に火をつけてくれありがとうね」
「いいえ、今日はありがとうございました」
美奈が玄関に行って出ようとすると雄輔と奈子が着いていった。見送りに出る日輪。
「ごめんっすソウっち…俺がもうちょっと上手く誤魔化せてたら」
謝る健吾に宗一は。
「別にケンちゃんのせいじゃないんよ。俺が美奈の前からいなくなったのが原因だろうし」
雛子が心配そうに言う。
「宗君…12月っていっても…もう2か月くらいしかないんじゃ…?」
「2か月かー…理由言えば天空先生スペシャルコースかなぁー」
こう見えて健吾は情に厚いのである。
「俺もみていいっすか?やっぱり気が引けるっす」
雛子は考えていた。また小学生のころのどこか冷たいような宗一になるんじゃないかと。しかし宗一が頑張るなら応援しようと思い。
「わたしもみてみたい…宗君が練習するとこ」
こっこも言う。
「私もみてみたいな。どんな鍛錬するのか」
「んー…まあ見てもいいけど俺が楽しかったのは相手が天空先生だったからなー」
「なんなら奈子ちゃんと雄輔君も呼んで体験入門してみれば?」
日輪が言うとケンちゃんは。とんでもないと言い。
「流石にそれはちょっと…ほらひなっちも体育会系じゃないですし…」
「わたしは部活終わったら見に行くけど…体験…うぅ…」
「私は別に習ってもいいかな」
「あとは若い子たちの青春ね!がんばって!」
日輪は背中を押すように言うが今度は色々なこと見逃さないようにと自分自身も気を付ける覚悟をしてこれからのことを考えていた。
「榎本!待てよ!」
「ん?どうしたの雄輔?それに奈子も」
「あんた一人置いて行けるわけないでしょ!うちらのなかじゃん!」
「俺は宗一と絶交するお前とか見たくないぞ?」
「別にずっとじゃないよ。大会終わってから判断する」
「なんでちょっとうれしそうなの?美奈?」
「え?そうなのか?」
「奈子にはバレるかぁ…」
「?」
明らかにさっきはキレてたのに今うれしそうというのがわからない雄輔。
「あいつが本気になるのを想像するとちょっとね」
「宗一が本気になる?」
「あいつ天空先生に頼んできつい練習するんだろうなぁってさ、一応中学生の子もうちの道場にいたけど小6で本気の天空先生に2本を取れたのは宗一が初の快挙だったんだよね、宗一いわく天空先生に2本確実にとれなきゃ他の相手に勝てる気がしないっていってたんだ。でもその稽古があいつを傷つけることになっちゃったんだけど…今回は中学生の部だから一味違うからどうなるかっていまから思うと面白くなりそうだなってウズウズしちゃうんだよね」
「まあ小暮君は結構堅物だからあそこまで追い込まなきゃ動かないだろうしね。美奈やるぅ!」
「まあキレたのは本当だけどね雄輔このことは「わーってるよお前も本気だったんだしここのことはいわねーよ」あんがと雄輔」
「はいはい」
適当に返事をするがすこし頬が赤い雄輔だった。
「もしもし?お久しぶりです小暮です」
夜7時に天空貴一郎に電話を入れる。
「もしもし?宗一君ですか、どうしました?」
「実は…」
キレた美奈に12月の大会に出ろと言われたことを告げると。
「わかりました。私が稽古をつけてあげます。その代わりきついのは覚悟してくださいね」
「はい、わかりました月曜日から何曜日が開いてますか?」
「私はいつでもいいですよ?」
「月謝は?」
「私と君の中なので別にお金はいりません。ですが今度は真剣に向き合ってください」
「俺は真剣に稽古してましたけど?」
「私だけではなく出場する選手全員の思いと自分の思いです」
「自分の思い…ですか?」
「貴方は相手の気持ちに耐え切れず…まあ電話ではなんですし家に来たらちょっとおじさんの説教がまってますのでその時に」
「わかりましたじゃあ時間もないんで月曜日に基礎から始めたいと思います」
「はい、ではまた」
「はい、あ、あと見学者が何人か部活後に来るらしいのですがよろしいですか?」
「いいですよ、君の友達なら歓迎します」
「ありがとうございますではまた」
「はい」
「はぁー…久々にだすかぁ…道着」
宗一は電話切った後大事にしまっていた道着をタンスからだす。
「臭いは…まあ大丈夫か…」
一応臭いチェックをした。洗って1年以上たっていたので気にしていたがどうやらよさそうだった。
「真剣かぁ…」
自分は道場では真剣だった。天空先生は自分の憧れの塊そのものだった。天空先生みたいな空手家になりたい思っていた、天空は知ってか知らずかいつの間にか宗一を自分から2本ポイントを奪える猛者にまで高めてしまった。その結果小6では誰も宗一に勝てなかった。天空との日々が確実に強者へと変えていたのだ。入門したころの宗一は他の先生が天空先生との見本の稽古の組手を見せるが他の子は負ける天空先生より勝つ先生をみて楽しんでいたが明らかに天空先生が本気じゃないと何故かそんな風に思ってしまった。天空先生に直接聞くと少し驚いていたが小さい声で答える。
「脳ある鷹は爪を隠すというものです。いずれ意味はわかります」
その時はまだなんのことかわからなかったが。なんとなく天空先生が本気を出せばこの道場の誰よりも強いんじゃないかと思った。ただいつも真剣な眼をしていた先生を見習って自分も真剣に空手にのめりこんだ。園児でも出れる大会があったが自分は興味なかった。強制ではないので宗一はでなかったが美奈はよく誘ってくれていた。美奈はよく賞を取っていた。試合中は誰も真剣で顔にださないが負けたときはやっぱり隠れて泣くし嬉しい時もないていたなと思う。自分事じゃないにしろ美奈には勝って泣いてほしいと思うことが多く小学生になっても美奈は宗一を大会によく誘うが宗一は天空先生くらいにならないと勝てないと思い断り続けた。年が上がっていきことわざで先生の言った意味を知ると自分も先生みたいになりたいと思う。そして小6になってからはまだ小さい体でどうやって天空先生から一本とれるから悩んだ。とにかく突きや蹴りのスピードと純度を上げるしかないととにかく練習に励んだ。天空先生は言った。
「小柄なら小柄なりの戦いができるんだよ宗一君?」
と言われ道場内で研究をした。まず違う大きい先生と同じくらいの体の門下生をみてイメージをしていた。時にはボクシングで言うシャドーもした。とにかくこの幼稚園から見てきた天空先生の動きをひたすらイメージするがどうしても勝てない。だが確実に強くなっていた。美奈は聞く。
「なんで天空先生じゃなきゃだめなの?」
「美奈は○○先生と天空先生どっちが強いと思う?」
「○○先生のほうが強いでしょ?いつも○○先生が勝つし、まあ天空先生も強いけど」
「美奈にはそう見えるんだ…」
「?」
「○○先生!一回組手つけてください」
「おういいぞ小暮!」
そして美奈に衝撃が走る。
宗一は6対5ポイントで○○先生に勝ってしまう。
「いつの間にか強くなったじゃないか小暮!どうだ!大会出んか?」
「いえ…まだいいです」
「なんで出ないの?先生が本気じゃなくても勝てるんだから普通にあんた通用するよ?」
「天空先生に確実に有効でもいいから二本とれるようになったら出る」
普通の学生なら勝つ先生のほうが強いのにと思うが。宗一の胸には初めて天空先生に話しかけたときのことわざがいまだに頭をよぎっていた。美奈は後に中学生の男子の先輩に聞く、中学生になってから天空先生に1本とれる人はいないということに。宗一の眼は正しかったと痛感した。そして小6の秋になり宗一と天空先生が試合をする。お互いが牽制しあいどちらも本気だというのが動きのスピードから分かった。天空の身長は180cm以上で普通に間合いは詰められない。しかし宗一のスピードは美奈や天空でさえも予想しない動きになっていた。あらゆるフェイントと本物の突きをかわし懐に入り有効を取った。中学生たちが驚く。美奈も驚く。周りにいた先生でさえ天空の本気の動きと宗一の動きに驚く。そして天空の本気の蹴りからカウンターの刻み突きでもう一回有効をとるが集中力が途切れたのか後から4点取られ2対4ポイントで負ける。中学生の男子や女子の先輩が話す。
「今の天空先生本気だったよな?…小暮ってあんな強かったか?」
「あたしたちの時はちょっと緩めにしてくれるけどポイント取れないのに小暮君すごいね」
美奈は自分が弱く未熟で本当に強いのが誰なのかを知らされた。屈辱だった。自分は大会でメダルももらったり時にはこの市で2位になったりして喜んでいたけどあんなのを見せられたら。自分は井の中の蛙じゃないかと。腹は立ったが目標ができた。宗一に勝てば自分は本当に強くなれる。天空先生の説得もありついに12月の大会に出る宗一。そして宗一は負けなかったが勝つ嬉しさよりも負けて泣く子を見て何とも言えない顔をしていた。それから中学に上る3か月前から天空と宗一は道場に来なくなった。他の先生から天空先生は4月から復帰するときいたが。宗一は中学になって部活に入らず帰宅部になった。美奈は突っかかったが宗一は。
「いい高校はいらんといけんと思ってな。まあ武道は卒業したんよ、まあそうカリカリするな、じゃ」
それだけだった。
「らしくない…」
美奈は不満だったが実際中学一年の勉強は上がりたての中学生に難しく宗一はテストではいつもTOP5の一人になっていた。
そして2年の時に同じクラスになりまた会話が増えて健吾と雛子と奈子に雄輔とグループになる。宗一がいないと何故か場が盛り上がらなくてなくてはならない存在になっていた。その夏にはもっと宗一はおかしくなってしまったので何故か胸が苦しかった美奈だった。1年経とうがライバルとして見ていたが宗一は何故か毎日心ここにあらずといった感じで過ごす。雄輔達が帰りに問いただすと言っていたのであの状態の宗一は流石に見て見ぬふりはできぬと思い隠れてみていたが特に進展はなかったが次の日の黒板に書かれていたことみて誰がやったの?というよりそれでかぁ!と納得のいった美奈だった。




