↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/159

4-23.ハッキング(前編)


 シンは宿泊先の高級ホテルへと戻る途中である。

 先刻まで錬金術師組合にいた。寄生型魔物を駆除するための【術符】を作成していたのだ。ここ一週間ほど、朝に仕事を始め、夕刻になると終了するという生活を過ごしている。

 そのせいで錬金加工のため室内に籠りっぱなしだ。だから運動不足解消のために行き帰りは歩くようにしていた。


 突然、弓矢が飛んでくる。


 ルナが即座に反応して剣で切り払った。

 地面に落ちた矢を見ると、先端に緑色の粘着物質が付着している。

 毒だ。

 これだけで、襲撃側の殺意の高さが分かってしまう。


 彼女は、シンの傍(かたわ)らに立ち、


「敵襲! 前後を警戒」


「了解」


 護衛役は三名だ。

 いずれもツクモ族(改)の精鋭で、頼りになる者たちである。

 実際、次々と飛来する矢を叩き落としていた。夕刻で視界が悪いはずなのに、まったく危な気(げ)がない。


「我が君、だいじょうぶですか? 」


「問題ない。ふむ、次のお客さんがおでましだ。丁重におもてなししてくれ」


 怪しげな風体(ふうてい)の集団が姿を現(あらわ)す。

 荒事の専門家であるらしい。顔の下半分を布で覆い正体を隠していた。しかも、短めの両刃剣や刺突剣など、狭い空間での戦闘を想定しての武装。

 そんな物騒な連中が、前方の道に五名、後方にも同数いて、シンたちの退路をふさいだ。


 護衛役たちは守りの陣形をとる。


 前方の街道は護衛リーダーが立つ。

 武器は両刃長剣。なんら気負いなく、ゆったりとした足取りで賊へとむかった。敵方のひとりが突っ込んでくるが、これを難なく捌(さば)いて後続の剣士を牽制。

 彼ひとりが道をふさぐだけで、暴漢どもは誰ひとりとしてシンへの襲撃が不可能になってしまう。


 後方を守るのは大柄な男。

 身の丈二メートルを越え、胸板は筋肉で厚くて四肢は丸太のように太い。両手には金属製の大型トンファーを持っていた。

 本来は別の武器を使うのだけれど、街なかでは長物は不向きなので今回はコレだ。クルクルと打突武器(トンファー)を回転させて構える姿勢は大きな壁のよう。

 彼の強烈な威圧感のせいで、襲撃者たちは近づけないでいた。


 ルナと女性剣士は飛び道具を警戒。

 弓矢を射った敵は姿を隠しているうえに、前後の道をふさぐ暴漢から遠距離攻撃があるかもしれない。彼女たちの役目は、それらを防ぐことだ。


 シンは中央で静かに立っていた。

 興味深そうに、襲撃者たちと護衛役との攻防戦を観察している。

 焦る様子はまったくない。警護する者たちを信頼しているのだ。


 彼は懐(ふところ)から小さな金属の塊を取りだす。

 長さ五センチほど、紡錘形の魔導具で【誘導弾蜂(ミサイル・ビー)】と名付けた試作品だ。空中に放り投げると、折りたたんであった羽が展開して宙を飛翔。


 標的は、最初に攻撃をしかけてきた射手三名だ。

 連中は隠れているけれども位置は把握できている。空中で索敵していたツクモ族フクロウ型が見つけていたからだ。補足すると、梟(ふくろう)たちは魔導製の人造蜂を制御して敵へと導く役目も担っている。


 誘導弾が対象に命中。

 小さな破裂音が幾つも響いた。この試作品は威力が低い。せいぜいが皮膚表面が焼けただれるだけ。

 それでも射手たちは早々に後退してゆく。

 建物の陰にいたはずなのに狙い撃ちされてしまった。そのショックが大きくて戦意喪失したのだ。


 シンは続けて追撃の【誘導弾蜂(ミサイル・ビー)】を放つ。

 次の目標は、街路の前後を挟む凶賊たち。錬金の弾蜂は高度三十メートルほどにまで上昇、上空から一気に重力を利用して加速する。


 頭上からの攻撃は容赦なく敵をしたたかに撃ちのめした。

 ただし、殺傷力を抑(おさ)えたモノなので死者はいない。襲撃者たちは不利を悟って、素早く退却してゆく。さすがに荒事のプロフェッショナル、状況判断は確かなものである。


 シンは、襲撃者たちが完全に退いたのを確認。

 ひと息ついた後、やれやれといった風情でルナと護衛に声をかけた。


「みんな、ごくろうさま。予定どおり連中には尾行をつけているかい? 」


「はい。動物シリーズが空と地上から追跡しています。ついでに追跡用魔法陣(マーカー)も幾人かに貼りつけておきました。命令指示者にまでたどりつけるでしょう」


 シンは意図的に襲撃を誘ったのだ。

 目的は冒険者組合がどこまで踏み込んでくるかを見極めるため。

 先日、衛士隊隊長が警告してくれたのがきっかけだ。組合の方針が穏やかな交渉なのか、あるいは手荒な解決方法を選ぶのか不明であった。


 なので、彼はワザと隙をつくってみた。

 護衛の数を減らし、人通りの少ない道を毎日同じ時刻に歩いてみせる。

 結果は、秘密の処理部隊を送り込んでくるという最悪なもの。

 裏付け確認は必須だけれど、敵は冒険者組合だと思っても良いだろう。


 護衛リーダーは不満そう。


「我が君が自(みずか)らが囮になるのは感心しません。しかも我々護衛役には魔法使用不可、殺傷禁止の条件をつけるとは酷いではありませんか。万が一のことがあっては困ります」


「ああ、すまない。だが、この程度のハンディキャップがないと君たちが圧勝するじゃないか。護衛役たる諸君らは選ばれた精鋭なのだし、任務に失敗するなんてあり得ない。

今回、制限をつけたのは目的達成のために必要な措置だよ」


「はあ…… 」


 リーダーの反応は複雑なものであった。

 自分たちが高く評価されて誇らしいという感情と、職務を全(まっと)うすべきという責任感が綯(な)い交ぜになったせいだ。


 いっぽう、背後に控えている護衛ふたりは嬉しそう。

 大柄な男性の顔は厳(いか)ついのに、それがクシャクシャに崩れるほどに笑っている。女性戦士のほうは、“さすが我が君、分かってらっしゃる”と身体をクネクネさせて喜んでいた。ツクモ族って意外と素直で感情表現が豊かだ。


 三日間、襲撃者を監視する。

 凶賊たちは用心深かった。彼らは攻撃に失敗してすぐに退却したのだけれど、全員がバラバラに散開したうえに、宿屋や建物に閉じこもって外出しなかったのだ。それでも三日間の待機期間をおいて、襲撃実行犯たちが集合する。

 場所は寂れた飲み屋で上役に襲撃失敗を報告した。

 この上役を重点的に追跡。幾人かの連絡員が間にはいっていたけれども、最終的に指示者を突きとめる。

 

 襲撃を命令したのは、冒険者組合の財務責任者であった。

 やはり組合の裏資金にからむ事情があって、襲うように命令したらしい。


 シンはハァとため息をつく。

 彼にしてみれば、なんら関わりのないことで暗殺の標的にされるなんて迷惑千万。本気でやめてほしい。


「とりあえず撤退しよう。ここは連中の本拠地(ホーム)だし我々に地の利はない。また、私の目的である知識や技術の獲得は達成している。これ以上、敵地に留(とど)まり続ける理由はなかろうよ」


 即日、王都を出たのだが襲撃されてしまう。

 もっとも、シンたちは暴漢どもをあっさりと撃退。

 彼らにはツクモ族動物シリーズが同行していて、警戒体制は万全であったため、事前に攻撃があるのが分かっていた。


 しかも、全員がなんらかの魔法を使える魔導師の団体である。

 負ける要素なんて皆無だ。むしろ、シンが非殺傷を命令していたので、手加減するほうが難しいくらい。

 多少のゴタゴタはあったけれど無事に都を脱出した。


 道中、襲われたのは三度。

 【邪神領域】に近いコルベール男爵領に向かって移動している間に遭遇した。一回はごくふつう野盗だが、他の二回は練度の高い集団であった。おそらく冒険者組合が派遣した処刑部隊であろう。

 それでも、誰も怪我をすることなく帰還することができた。


 三か月後。


 【岩柱砦】はシンの最前線基地だ。

 ここは人外魔境の大森林と人間社会領域の境に位置する。

 もっとも、この感覚は彼だけのもの。普通の人間からすれば【邪神領域】の深いところにあって、ここに到達するにはとても難易度が高い。


 彼がいるのは作戦指揮室。

 広い空間の前面には巨大なスクリーン。室内には幾つものコンソールが並んでいて、管制官たちが忙しそうに働いていた。

 室内の雰囲気は近未来的なもの。

 どこぞのアニメかSF映画にでてくるような内装だ。これは、彼の趣味と感性で作りあげたもので秘かな自慢であったりする。


 室内中央部に浮かぶのは大きな結晶体。

 補助人格の“ヤマブキ”である。

 名称のとおり山吹(やまぶき)色の光を発しており、役割は【岩柱砦】を管理すること。シンの本拠地である【岩窟宮殿】にいる“ミドリ”と同格の魔造結晶体である。


「予定時刻になりました。我が君の命令をもって作戦を開始いたします」


「ふむ、わかった。戦いを始める前に皆に伝えておきたい。この三ケ月間、労力を惜しまずに働いてくれたことに感謝する」


 シンは、居並ぶツクモ族たちに演説をはじめる。


「敵は冒険者組合だ。当初、私は彼らと穏当な関係を築くための努力をしてきた。貴重な天然素材を格安で提供し、先方に充分な利益を供与している。

 にもかかわらず、組合は不当にも我らの資産を横領した。

 私は、奪われたお金を取り戻すべく弁護士を雇ったが、連中はこの交渉人を殺害。さらに我々を襲う始末だ。

 冒険者たちの行いはあまりにも理不尽であり、見過ごすことはできない。

 よって、自分たちは反撃をおこなう。では、作戦を始めようか」


 彼のいう攻撃とは“ハッキング”だ。

 念話ネットワークを経由して冒険者組合のシステムを制圧するつもりである。物理的に剣や魔法で敵を打倒すのではない。


 今回の作戦準備に役立ったものがあった。

 それは魔道具で、砦街キャツアフォートの冒険者組合から回収した。

 ひとつは冒険者登録用の道具。

 ふたつめは通信連絡用の機器で、総本部と支部のあいだで連絡や情報をやり取りするもの。これらを解析して、組合の念話回線の情報処理プロトコルやトランザクションなどを把握したのだ。




■■■■■■


 冒険者組合本部の地下深くに重要施設がある。

 【聖母(マザー)】という名称の補助人格が格納されているのだ。

 役目は情報管理。

 大陸全土に設置している組合支部からあがってくる情報群をまとめて記録する。そのデータ量は膨大なもので、ふつうの国家規模を超えていた。

 列強各国も同種の結晶体を保有しているが、冒険者組合のモノ(・・)には及ばない。組合が、複数国家と対等以上に張り合っているのはコレのおかげだ。


 【聖母(マザー)】は地下室中央の泉に鎮座していた。

 下部三分の一ほどが水に浸かっており、人間との意思伝達は泉水を介して行われる。この魔導製結晶は発声機能を有しないが、水面に文字や図形を表示してコミュニケーションするのだ。


 地下泉のまわりには、たくさんのオペレーターが並んでいる。

 彼らは組合職員のエリートだ。各地から伝送されてくる報告を受け取り、適宜必要な伝達事項を連絡、あるいは各種の情報分析をして、組合活動に寄与している。


「警報を発令。【聖母(マザー)】への非正規接触を感知しました。ハッキングです」


「いつもの定期便か。帝国か商業連合だろうが、奴らは懲りないな。何度やってもマザーの防御機構を突破するなんてできやしないのに」


「無駄口をたたかずに真面目に仕事をしろ。とりあえず彼我(ひが)の戦力状況を可視化せよ。相手側の投入兵力を把握したい」


 システム部長が指示をする。

 それを受けて職員たちが水面に浮かぶ魔法陣を操作して制御コマンドを入力。

 地下泉に幾つもの波紋が生じた。互いの波がぶつかり合って、さらに大きな起伏ができあがる。


 泉の表面に水の小鬼が姿を現(あらわ)した。

 高さ三十センチほどで造形は粗いけれども、いかにも敵役(かたきやく)といった感じ。

 この水像は、敵性勢力を便宜的に表現したもの。【聖母(マザー)】に接触してきた不埒者の象徴である。


 いっぽう、防衛側は兵士の形だ。

 数は二体で、【聖女(マザー)】の防衛戦力を表している。

 つまり、敵味方の戦力差は二対一であり、守勢側が有利な状況であった。

 実際、あっけなく勝負はつく。水塊の兵は、小鬼を一方的に袋叩きにして水底に沈めてしまった。


「迎撃完了。たいした敵ではなかったな」


「あの程度の戦力なら蹴散らして当然ですよ。わたしたちの【聖母(マザー)】は世界最強なんですから! 」


「安心するのはまだ早い。別のヤツが来るぞ。防衛体制を維持したままだ。油断するなよ」


 小鬼二体が水面に出現。

 モンスターの形をした水の像が前進するが、防御側の兵士四体が取り囲んでこれを撃退する。さほど苦労もせずに、【聖母(マザー)】に不正接続しようとした相手を退けた。


 だが、敵勢力が次々と押し寄せてくる。

 三回目の敵数は四体、その次は八体と増えてゆき、第六次攻撃の時点で小鬼の数は三十二体となった。つまり、攻撃ごとに敵戦力は二倍になってゆく。


 組合総本部は、今まで経験したことのない攻撃に困惑し始めていた。






 ■現在のシンの基本状態


 HP:205/205(更新198→205)

 MP:236/236(更新210→236)

 LP: 42/145(更新120→145)


 活動限界まで、あと四十二日


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作を掲載しました。
よければ、読んでみてくださいね。
【わたしを覚えていて、天国にいちばん近い場所で】
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。