4-06.パーティ(戦争)しようぜ
「コルベール男爵家への報復をおこなう」
すぐに攻撃開始……、とはならない。
なにごとにも準備は必要だ。
戦う相手は、貴族かつ魔導師。
しかも、領兵三千の戦力をかかえている。それなりの作戦を立案すべきだ。
【段取り八分実行二分】という言葉がある。
意味は、事の成否は、事前準備で八割がたが決まってしまうというもの。
前世時代では、仕事においてコレを常に心がけていた。
もちろん、想定通りにならないことは多いし、臨機応変だって大切だ。でも、だからと言って事前の用意を怠る理由にならない。
シンは、下準備を楽しむ傾向が強かった。
趣味のゲームでも、この精神が顕れている。
愛好していたのは、文明を発展させてゆく戦略シミュレーション系。新技術を開発して新兵器を生産する。工業力を強化して武器を量産化。軍隊の練度をあげるために充分な訓練を施した。
地味な作業でも苦にならない。
というか、あれこれと作戦を練るのが好きなのだ。
祭り本番よりも、前準備でワイワイするのが楽しいのに似ている。
そんな性格な彼のこと。
たかが男爵家ごときに対する攻撃でも、仕込みは入念だ。手を抜くなんて絶対にありえない。
敵戦力を想定し、これを撃破するのに最適な兵数を算出。地の利は敵方にあるから、それを覆すために作戦立案を幾つもたてた。
「問題は攻撃要員の選定かぁ~。面倒くさいな」
ツクモ族たちの希望者が大勢やって来たのだ。
どいつもこいつも自分が参戦しなくてどうすると、直談判をしてくる。血の気が多いヤツらばかりで、ほんとうに困った。
「タチアを選んだときと同じ方法で、候補者を選抜戦……。いや、危険だな」
選抜方法はカードゲームだった。
穏健なはずなのに、なぜか乱闘騒ぎにまで発展。
彼女らを第二形態に改造する被験者を選ぶだけで、大きな諍いごとになってしまうのだ。
今回の場合、どうしても実戦的な選抜試験になる。
目的が、報復攻撃の要員を選出することだから。ちょっと想像するだけで、荒れる展開が予測できてしまった。
なにか平和的な選抜法はないかと思案するが……。
「ダメだ。良いアイデアが浮かばない。というか、なぜ私が、こんな厄介な役回りをせにゃならんのだ? うん、よし、丸投げしよう!」
自分は、実行部隊の責任者を任命するだけ。
後のことは全部、そいつに参加者を選ばせる。むさ苦しくて血気盛んなヤツらなんぞ、相手にしたくない。攻撃計画を練るほうが、ずっと楽しいじゃないか。
「ということで、君が指揮官だ。ついては、男爵家報復戦に参加する者たちの選抜については一任する」
「はあ……」
シンは、将軍職にある数名から一人を指名した。
非常に優秀だとか人望があるなどと、適当に評価の言葉も添えて。本音は、面倒ごとを押し付けるための生贄だ。
「いちおう条件をつけておこう。作戦参加は、第二形態の処置を済ませた人物に限定する。まあ、身体改造計画は順調にすすんでいるから、候補者数は充分にいるから問題はなかろう」
「あ、あのう、男爵家報復作戦に参加する者の選別は、私の手に余ります。できれば、我が君に……」
「全部、貴方に任せるから。あとはよろしく!」
強引に話を終わらせた。
どうやら、将軍も厄介になることを予測していたらしい。
トラブルの矢面に立ちたくないのは、自分だって同じだ。すまんが、犠牲になってくれ。骨は拾ってやるから……。
■■■■■
ある日の朝。
シンは、ルナと共に食事をしていた。
なるべく共有する時間をとって、相互理解を深めるためだ。
朝食と夕食は必ず一緒。昼間は互いに忙しいので、昼食は偶に。彼が提供する話題は、錬金術関連で、失敗談から研究中のテーマなど。対する彼女が語ってくれるのは、おいしい地方料理や風光明媚な土地のことが多い。
「先日の検証実験は大失敗だったよ。新しい術式を錬金弾に組み込んだのだけれど……」
「また、爆発したんでしょう。なぜ分かるかって? そりゃ、貴方の前髪がチリヂリに焼けているからよ。うふふっ」
ルナは、よく笑顔をみせるようになった。
出会ったころは、良く言えばクールビューティ。
悪く表現するなら、無表情で感情をださない冷血女だ。
それが今では、他愛ない話でもコロコロと笑った。
感性は、十歳代後半の娘のよう。“箸が転んでもおかしがる”感じだ。ずいぶんと若返ったものである。
心情に変化があったのだ。
きっかけは、【復元】の秘密を打ち明けたこと。
ずっと誰にも告白できず、心の奥底に澱が沈殿して溜まり続けている。余分なモノを全部吐き出してスッキリときれいになったのだ。
気分も晴れやかになるというもの。
彼女自身、こうも感情表現が豊かになるなんてと、驚いているくらいだ。
「実験といえば、わたしの血とか調べたでしょ。それでなにか判ったことってあるのかしら? 」
「いや、たいしたことは判明していない。あれは本格的な分析の前準備だからね。ただ、“とある仮説”を思いだした」
内容は、“死”と“記憶”に関すること。
死去した人物は記憶をなくしてしまう。
情報を格納する脳が機能停止するのだから、なくすのは当然だ。
問題は再復活した場合。
なぜか、記憶継続しているのだ。
例えばルナ・クロニス。
肉体を完全消失しても【復元】で復活して記憶の半分ほどを保持している。
ツクモ族も似ていた。
彼らを第二形態(通常人間化)へと改造して分かったこと。古代魔導帝国時代のデータが、わずかだが残っていた。
そしてシン自身のケース。
前世世界、つまり現代日本で生活していたことを覚えている。己の名前など喪失している部分も多いけれど、それでも前世記憶があるのだ。
「以上の事実をふまえての仮説だ。内容は『記憶は脳以外の場所に格納されている』というもの。こう考えれば、記憶継続現象が説明できてしまうんだよ」
前世地球でも、コレを唱えている連中がいた。
いわく、本当の体験データはあの世に蓄積されているのだと。
脳には通信機能があって、記憶情報を送受信しているらしい。頭脳はPCのハードディスクの役割だけではないという、トンデモ説だ。
彼は、電波系のアブナい輩の与太話だと馬鹿にしていたのだが……。
「荒唐無稽な話だが、私は否定できない。
なぜなら、自分自身に過去世記憶があるのだからね。おまけに、ここは魔法という謎パワーが実在する何でもアリな異世界。なにがあっても不思議じゃない。
この奇天烈仮説は、真実なのではと思い始めている。とはいえ、証明する術はないけれど」
「ふ~ん」
シンたちの話題は次々に変わってゆく。
朝食にしては、かなり長時間だけれど、まあ問題はない。
「貴女の【復元】は魔導的なものが主因だろう。
細胞分裂で新しく生成したモノは完璧すぎてね。ふつうなら、分裂時に一定の割合で遺伝子の転写ミスが発生する。
しかし、君の細胞には欠損がまったくなかった。推測だけれど、さらに微細なミクロ単位でも似た現象がおきているはずだ」
「つまり、わたしに魔法にかかっているってことよね。なら、呪いの類と同じだわ」
ルナの口調は沈んだものになった。
言葉には否定的な意味が含まれているが、一方で、彼女は気持ちを素直にだしている。
ずいぶんと変化したものだ。今までなら、感情を現すことなく、心の奥底に押し込めていたのだから。
それを知る彼は軽くうなずく。
「なに、いずれ真相は判るさ。少しばかり時間はかかるけれどもね。話題を変えて申し訳ないのだが、相談したいことがあって…… 」
ふたりの会話は続く。
■■■■■
【岩柱砦】。シンにとって最前線基地だ。
位置は人外魔境の大森林と人間社会との境界線あたり。
ただし、人類文明圏からすれば【邪神領域】の深層部だ。ふつうの人間には到達不可能な場所であったりする。
現在、この基地に攻撃部隊が集結中だ。
コルベール男爵家へカチコミをかけるための戦力である。
準備は万端。作戦も充分に練ったし、失敗した場合に備えてのプランBなど幾つも補助策を用意した。
集まるのは、選りすぐりの精鋭たち。
まあ、彼らが潜り抜けてきた選抜戦は熾烈であったみたい。
“みたい”と伝聞形なのは、詳細情報を意図的にスルーしたから。
指揮官の男性がゲッソリしていたので、慰労のための回復薬を渡しておく。うん、ごくろうさま。
集結中の戦力内容は以下の通り。
<戦力その一>
魔導騎兵(二個小隊・百二十騎)。
単純に魔導師が二脚竜に騎乗するだけが、まことに強力で侮れない。
まず、術師が攻撃力に秀でている。
さらに騎竜の機動力が加わることで、とんでもない高火力が戦場を高速で移動するのだ。敵方にとって、これは大変に厄介な存在であろう。
意外なことに、この異世界での運用事例は少ない。
理由は、騎兵(貴族)たちが我儘すぎるため。
選民意識が強すぎる貴族どもに、軍隊特有の規律行動に馴染まない。トップが権力をガッチリと握っている組織でないと、魔導騎兵活用は無理だ。歴史書をみるかぎり、強権的な帝国が活用した程度だ。
<戦力その二>
歩兵小隊(十個小隊)。主役は硬殻兵士だ。
分隊長のツクモ族兵士を一名と、ゴーレム十体で一個分隊とし、五個分隊で一個小隊とする。
武装は両刃剣と盾。
ただし、非常に強力な魔導武器だ。ちゃんとした実績もあって、【邪神領域】のバケモノどもを蹴散らしてきた。
彼は、硬殻兵士の軍団を前にして思わず言葉がこぼれた。
「人外魔境の大森林では、ごく当然のように運用していたが……。コレを、人間社会に投入するとなると危険だな」
前世世界のSF映画を連想する。
筋肉ムキムキの男性俳優(後に米国州知事にもなった)が主演していたもの。内容は、未来からやって来たアンドロイドが暴れまくるお話だ。
―――うわ~、人工知能搭載の自律兵器やんけ。
ちゃんとコイツらを制御下においとこ。 絶対に暴走させないように安全策を講じんとヤバイわ。マジで、映画みたいに人間排除をやりかねんぞ。
彼の心配をよそに、兵力集結はすすむ。
<戦力その三>
偵察部隊。主力はツクモ族の動物シリーズだ。
指揮管理する隊長や分析官もいて、現場での情報解析をおこなう。他部隊との情報共有や各種支援活動もおこなう予定。
情報管理をシンは重要視していた。
目指すのは、戦術・交戦支援のC4Iシステムの構築。将来的に個々のユニットをつなげるネットワークをつくる。同時に、それらを有機的に動かす運用方法の確立するつもりだ。
まあ、さすがに情報処理の電脳をつくるのは不可能。
代わりに補助人格ミドリと同格の結晶体を専任でつけることにした。現行の情報管理システムは試行錯誤中。今回は、実戦経験を積むための試験運用だ。
<戦力その四>
小銃小隊(一個小隊)。
武装は魔法銃六十丁で、これも試験的に投入する部隊だ。
なお、開発中の新式銃は製造が間に合わなかった。なので、旧型の魔法銃を使用する。銃弾は普通の金属弾頭のもの。
此度の戦いでは、魔法陣を刻み込んだ魔導式銃弾は使用禁止とする。理由は、人間相手には威力が強すぎるからだ。
余談だが、小銃は、魔物相手だと貧弱すぎる。
つまり、人類文明圏で流通しているマスケット銃もどきは、頑強なモンスターを斃せないのだ。
通用するのは、せいぜいが猪豚鬼ぐらいまで。
それ以上の凶悪で大型魔物には無力であった。理由は、通常の金属弾頭だと破壊力に欠けるから。
頑強凶悪な連中を圧倒するには、魔法陣を組み込んだ魔導式銃弾が必要になる。シンは開発者だけれど、未公開だ。だから、今のところ人間が魔物に対抗する方法は、魔導師に頼みになっている。
装備はシンを含めて全員共通だ。
身体を守るバトルスーツやヘルメット、ゴーグルなどを身につける。要所に対物理対魔法の防御機能を付加し、他にいろいろと錬金加工している優れものだ。
すでに魔物を相手にして性能証明も済んでいるので安心して使える。
見た目は、SF映画に登場するような近未来型兵士にそっくり。
というか、シンの好みでこんなデザインにした。まあ、趣味ということで勘弁してほしい。
これだけの戦力、ハッキリ言って過剰であろう。
コルベール男爵家の主要武器はマスケット銃もどき。
戦力差を考えれば、硬殻兵士の一個小隊を突っ込ませるだけで蹂躙できる。なにしろ小銃は効かない。相手にしてみれば恐怖そのものだろう。
「しかも、カチコミは奇襲攻撃。男爵は、私が生き延びていることを知らない。ましてや、大部隊を率いての襲撃なんて絶対に予想不可能。楽勝だな」
それでも、準備した全兵力を投入するつもり。
ツクモ族たちは猛烈に怒っていて、彼らを鎮めるためにもガス抜きが必要なのだ。シン自身も、八つ当たりで毒殺されかけている。
男爵本人には、キッチリと落としまえをつけてもらおうじゃないか。
【岩柱砦】を出発する直前。
整列する兵士たちを鼓舞した。
皆の尽力に感謝を示し、選ばれた精鋭たちを誇りに思うと告げる。
そして最後に景気づけの言葉で締めくくった。
「諸君らの力をもってすれば簡単に勝利できる。
気楽にいこう。さあ、パーティ(戦争)しようぜ! 」
進軍を開始した。
廃墟と化した砦街キャツアフォートを通りすぎる。
大河を渡り、領都シュバリデンの手前にある小高い丘で停止した。
野戦本部を丘の上に設置。
本部といっても迷彩柄の大天幕だ。これをいくつも張り、草木をからませたネットを巡らせて欺瞞工作をする。
並行して周辺の魔物どもを狩るか追い払うかして安全を確保。周辺警戒して男爵家勢力に見つからないようにした。
偵察部隊は先行している。
念話中継器を持たせた者を近辺に放ち、【念話ネットワーク】の構築をした。
「マスター、領都上空からのライブ中継です。すでに敵兵力が展開しています」
「えっ?」
予想外の情報に驚く。
男爵家の屋敷や領都周辺の要所に兵士が配置されていたのだ。街道には急拵えのバリケードがあり、街中には領兵たちが巡回している。
領都シュバリデンは臨戦態勢であった。
シンは思わずつぶやいてしまう。
「なんだ、これは。我々の攻撃を事前察知していたのか? まさか、そんなことはないはずだが…… 」
■現在のシンの基本状態
HP:198/198
MP:210/210
LP: 25/120
活動限界まで、あと二十五日。




