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1-20.本拠地の機能停止、その後


■第三十三日目(施設停止から三日、LP値二十一)


「よ~し、これから魔導掘削器を引き揚げるぞ」


 シンは、第三候補地で地脈調査をおこなっていた。

 周囲ではゲンブ《岩石兵士》たちが警戒中だ。

 さらに、ずっと離れた場所では、【殿さまシリーズ】が活動している。三つ角竜たちを相手にして、逃げ回っているのだ。


 【人外魔境の大森林】からの脱出を断念した。

 理由は、周囲百キロ圏内に人類文明圏がないと判明したため。街や村落はもちろんのこと、街道や橋などの痕跡すら皆無であった。


 情報をもたらしたのは鳥型ゴーレム。

 形状はトンビに似たもので、高度三百メートル近くまで上昇できる。その高さまで到達すると、相当に遠くまで見通せた。

 ただし、飛行距離は十キロほどと思いのほか短い。対応策として、中継点を設置するなど工夫をして、偵察範囲を広げた。

 そうやって観測した結果が、周辺には人間がいないという事実。


「はぁ~、人間社会との接触は無理かぁ」


 目指すべき方向すら不明だ。

 そんな状態で、人外魔境を彷徨(さまよ)い歩くなんて、無茶すぎる。仮に、一直線に百キロ以上先を進んだとしても、人里にたどり着けるかは運任せだ。

 自分の生命をチップにして、無謀な賭けはしたくない。それよりも、第三候補地で地脈を探すほうが、ずっと勝率は高いとおもう。


「ならば、選択肢は地脈探査のみ。まあ、これで悩む必要はなくなった」




■第三十六日目(施設停止六日目、LP値十八)


 ピピィ、ピピィ。


 この音は、鳥型魔導人形(ゴーレム)の“トンビ壱号”からの警告音だ。

 掘削地点の上空から周囲を警戒してもらっている。どうやら三つ角竜が近づいてきたらしい。


「調査作業を中止。調査機器を回収のうえ、すぐに撤収して。あらかじめ決めておいた合流地点で落ち合おう」


 護衛役の岩石兵士を二手に分けた。

 第一チームは、ゲンブがリーダーだ。

 調査用の機器類をまとめて、現場から離れてもらう。最優先すべきは、掘削用魔導具の保護。これが破損すると、地脈探しが不可能になってしまう。


「第二チームは私の後に続け! 時間稼ぎをする」


 囮になるのが役目だ。

 彼と共に、迫って来るバケモノどもを相手にして、逃げ回る。

 正直いって怖い。だが、この仕事は、自分が(にな)うしかない。


 トンビ壱号が、魔物の頭上で旋回中。


 それを目指して足早に移動した。

 岩石兵士二体も追随しているが、移動速度は遅い。

 自分一人だけが先行している形になっていた。

 あらかじめ計画していたので気にもとめない。ゴーレムたちには別の任務があるのだから。


「いた! やはり“お殿さま”はやられていたか」


 昆虫型魔導人形が、竜に捕まっていた。

 頭に載せた赤色回転灯(パトライト)がチカチカと点灯している。懸命に足掻(あが)いているけれど、魔獣の歯がガッチリくい込んでいた。逃げるのは無理そうだ。


 お殿様シリーズは回避能力に優れている。

 さらに、敵方を翻弄するために、三機でひとつのチームを組んでいた。

 相対者が一匹なら、ほぼ確実に逃走できるはず。

 だが、対象が複数になるとそれも難しい。おそらく、あの機体は多数を相手にしたのだろう。


「くそ、パト・ラインプの効果が高すぎる。どいつもコイツも興味を示すなんて。お前ら、暇を持て余しているのかよ」


 隠れて敵をじっくりと観察する。

 ヤツらは少しばかり興奮しているが、楽しく遊んでいるだけ。その証拠に、口に(くわ)えた“お殿さま”をブンブンと振り回して(たわむ)れている。


 しばらくすると、別の三つ角竜が、やってきた。

 ドスンドスンと大きな足音をたてて近づく恐竜の角には、“バッタくん”が刺さっている。“すごいだろう”とばかりに、最初の一匹にむかって戦利品を掲げた。


「ちっ、やられたのは二機か。三機目の姿が見えない。

 あの感じだと、こいつらを相手にしていたチームは全滅だな」


 シンはモンスターの様子をうかがう。

 コイツらが、掘削現場に向かうようなら阻止する必要がある。

 こちら側は彼ひとりだけ。

 相手側は恐竜二体とあっては、どう戦っても勝ち目はない。やれることは、ヤツらの注意を引いて進行方向を変えるくらい。

 このまま立ち去ってくれと念じながら、魔獣たちがじゃれ合うのを観察していた。


「やはり無理か」


 連中が(たわむ)れながら進むのは、掘削地点の方向。

 全長十メートルもある巨体だと、動きは緩慢に見える。

 しかし、アイツらの移動速度はかなり早い。短時間で問題の場所へ到達してしまう。既にゲンブたちは移動を開始している頃だが、いかんせん岩石兵士の足は遅い。

 あっという間に追いつかれて、蹴散らされてしまう。


 シンは、目立つように姿を(あらわ)した。

 モンスターどもの関心を引きつけるために、両腕の指先に魔法の【灯火】を発動する。それを赤色回転灯(パトランプ)のように点滅させて、おおきく振りまわした。


「お~い、こっちだ。もっと遊ぼうぜ!」


 三つ角竜が反応する。

 グウゥと(うな)り声をあげるが、その様子は嬉しそう。

 新しい相手が来たと勘違いしたらしい。

 一匹目の竜が(くわ)えていた“バッタくん”の残骸をペッと吐き出して、向かってくる。さらに二匹目も突進してきた。


「さあ、鬼ごっこの始まりだ!」


 シンは懸命に駆ける。

 【身体強化】をかけての全力疾走だ。

 限界ギリギリまで筋肉を酷使して大地を蹴り、樹木の間をすり抜けてゆく。


 彼にとっては必死の逃亡だ。

 しかし、相手側には遊戯半分の追いかけっこ。

 障害物になると思った大木でも、敵の巨体はあっさりとなぎ倒す。こんな連中に捕まったら最後、戯れでなぶり殺されてしまう。


 全力で動ける時間は、せいぜい五分といったところ。

 それ以上は体力がもたない。

 どれだけ魔法強化しても、基礎体力がないのだから。命懸けの鬼ごっこを始めて、三分以上が経過した。すぐにでも力尽きてしまう。


 逃げる先に岩石兵士が二体いた。


「すまないが、あとを頼む」


 選手交代だ。

 あらかじめ、巌の巨兵(ゴーレム)たちに、この場所で待機するように命令しておいた。シンは、【灯火】を囮組に付着させた後、別方向へと駆け去る。


 ゴーレムたちは左右に別れて移動を開始。

 胸元で、ピカピカと赤い光が点滅していた。

 恐竜モドキたちの関心を引きつけるためだ。


 狙い通り、連中の好奇心を刺激することに成功。

 そのまま魔獣をひきつれて森のなかをすすんだ。ただし、彼らの歩みは遅いので、敵を振りきるのは不可能である。


「ハァ、ハァ。うまくいった」

 

 大樹の根元にうずくまって休む。

 全身が熱くて呼吸をするのが苦しい。無理をしすぎた。

 【身体強化】の魔法は便利だが、副作用も相応にある。未成熟な身体におおきな負担をかけてしまうし、体力回復に時間がかかる。


 遠くのほうから、大きな音が響いてきた。

 それは、重量物が樹木にぶつかった激突音。

 何度も繰り返して聞こえてくる。


 音の発生源は岩石兵士だ。

 三つ角竜に体当たりされたか、角で突かれるかして吹き飛ばされたのだろう。バキバキと硬い物質が割れる破壊音も伝わってきた。

 しばらくすると、竜たちの楽しげな鳴き声が小さくなってゆく。連中は満足して立ち去ったのだ。


 シンは、音がしていた場所へとむかった。

 木々が倒れ、地面がめくり上がってボコボコな状態。

 無残なことに、岩石製の手や足がバラバラになって、散らばっていた。二体の魔導人形は、マスター(シン)を逃がすために犠牲になってくれたのだ。


「ごめんよ、ごめんよ。自分が不甲斐ないせいで、こんな酷い目にあわせてしまって」


 彼はポロポロと涙を流した。

 泣きながら散乱している欠片を集めてまわる。

 身を(てい)して守ってくれた命の恩人を放置するなんて、できやしない。


 穴を掘って、残骸を丁寧に埋める。


「ありがとう。君たちの犠牲は無駄にしないから。必ず、私は生き延びてみせる。だから、心安らかに眠っておくれ」


 巌の巨兵(ゴーレム)たちは生物ではない。

 命令されたことを実行するだけのモノだ。

 でも、彼らが土に還れるようにと、心を込めて祈りを捧げた。


 夕刻。


 壊れた魔導人形を分解する。

 部品の多くは破損していて使えない。

 そんな機体はバラして、無事なパーツを取り出し、修理品として流用するのだ。


「 “お殿様シリーズ”の消耗が激しいなぁ」


 連日、決死の鬼ごっこをおこなっている。

 ただでさえ、彼我(ひが)の戦力差があるのに、ここにきて消耗率が跳ね上がってしまった。


 現在、“お殿さま”の損傷率は五割を超えている。

 事前に準備していたのは、“バッタくん”が十二機。“カエルくん”九機。捕まってバラバラになった人形は半分以上。


「おまけに岩石兵士も減少している」


 特に、直近三日間で破損数が増えている。

 掘削調査用の機器類を守るために、彼らを犠牲にしているのが原因だ。“殿さま”たちを失ったため、否応(いやおう)なしに、ゴーレムを前面に出さざるを得なくなったからだ。


 かなり追い詰められた状況にある。

 現時点のLP値は“18”。

 生きて活動できる期間はたった十八日間しかない。

 護衛役は十五体にまで減ってしまった。お殿様シリーズの残機も九機のみ。この調子で消耗すると、一週間もすると掘削調査は不可能になってしまう。


「でも、可能性はある。近くに地脈があるはずだ」


 そう考える根拠は、第三候補地の魔力濃度が濃いから。

 三十か所以上を掘削して調べてみたが、ここは他の候補地よりも【理外理力(フォース)】の計測値が高い。


 「石に(かじ)りついてでも発見してやる!」




■第三十九日目(施設停止から九日、LP値十五)


 ガリガリ。


 音は直径十センチほどの穴から伝わってくる。

 穴隙は、掘削作業であけたもの。丸太で組んだやぐらの天辺に滑車をとりつけて、そこから伸びたケーブルの先に魔導具の掘削機が吊ってある。

 地下五十メートルほどまで掘り進んでいた。


「おっ、なんか変な感触だな」


 地下から聞こえてくる音質が変化した。

 普通は硬質な騒音がするし、牽引綱(ロープ)をブルブルと揺らす。

 今回のは、ちょっと“軽く”なった感じ。


 突然、ロープがするすると落ちてゆく。


「うん? 空洞に行き着いてしまったのかな」


 不意に落下が止まる。

 地表から百メートルほどだ。


「ハァ、ここもダメだな。しかたない。さっさと片付けて次の調査地点にいこう」


 ハズレだと判断する。

 地脈は地殻の岩石や土壌を伝って流動するものだ。空洞を通ることはない。

 たとえるなら、電気が電線を流れるのに似ている。

 金属製の導線は通電しやすく、空気は不伝導性なのと同じ。この地点には【理外理力(フォース)】の地下流動がないと断定した。


 調査終了の合図をだす。

 それを受けて岩石兵士たちは、(やぐら)のロープをひっぱりあげてゆく。さすがに力自慢なゴーレムで、グイグイと引き寄せる姿は頼もしい。


「ああ~。ビショビショじゃないか。故障するとマズいぞ」


 掘削機は水で濡れていた。

 地下水が溜まっていたところに落ちてしまったらしい。

 魔道具を布切れで水気をふきとってやる。


 手早く撤収の準備をすすめた。

 巌の巨兵(ゴーレム)たちが丸太で組んだやぐらを解体し、調査用の機器類をまとめる。シンも身の回りのものを背嚢(はいのう)に納めていると……。


「えっ、なんで反応している?」


 魔力感知器の表示面が点滅していた。


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【わたしを覚えていて、天国にいちばん近い場所で】
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