プロローグそして死亡
R15。主人公をはじめ、キャラクターが死亡することがあります。また、道徳的でない表現があります。
その日、私は歩きスマホをしていた。
ダメ、歩きスマホ。
うん、とっでもダメ。
その当たり前の危険性に気がついたのは、駅のホームからずるりと落ちたときだった。
うん、歩きスマホ、やめよう。
うん、生きて帰れたら。
私は駅のホームから線路に落ちた。そして、大きな鉄の塊に轢かれたのだろう。
そんなことを、私は口早にしゃべっていた。冷や汗が止まらない。
だってここはファンタジー風のお城の、玉座の間だ。視線を無理やり上げた先には、銀髪長髪、金糸の刺繍のある黒服をぴしっと着込んだ、私と同年代ぐらいの少年がいる。
そう。いきなりべちゃっと紫色の絨毯の上に落ちた私を、小一時間温度のない青い瞳でじっと見つめている少年。私はこの少年を知っている。
大広間の階段の上には玉座があり、その玉座に無造作に腰掛けている少年は、セレイス殿下という。
「…というわけで本当に申し訳ありませんでした異世界転移とか今うちの世界で流行りなんですでも私は何の特殊能力もないのでお願いだから殺さないでくださいこんな難易度ゆにばーすな世界生きていけませんお願いだから返してください」
そう、私はこの少年と、この世界を知っている。
うん。この世界は、げーむのせかいだ。
ゲーム「アーク・メリュジーヌ」は、青少年の間で鬱展開で知られるゲームタイトル「アークシリーズ」の中でも、ほかの追随を許さない鬱展開で有名なゲームだ。
まず、人死にが半端ない。
主人公のアウロス陛下の弟妹は12人いて、今現在目の前にいるセレイス殿下は、すぐ下の弟君にあたる。
お二人は年子で並ならぬ関係にあり、その裏設定のおかげで、アウロス陛下はとびきり明るく破滅的なお兄ちゃん気質に育ち、セレイス殿下は冷静なヤンデレに育った。
ちなみにアウロス陛下のお父上のユリウス陛下は15人兄弟の末っ子である。
そして、不穏なことにアウロス陛下の時代にはユリウス陛下のご兄姉は3人しか生き延びていない。
全員、事故で亡くなっている。
前王ユリウス陛下でさえ、ゲームが始まるちょっと前に32歳の若さで事故死されている。
ちなみにゲーム開始時点では、我らが主人公であるアウロス陛下17歳は行方不明であり、まずプレイヤーはセレイス殿下17歳を動かすことになる。
このセレイス殿下が動かし辛すぎて、ほとんどのプレイヤーは詰むのだ。プロローグってなってたのは嘘か。
早く攻略法ネタバレが解禁されることを夢見ながら、私は付録のおまけ小説を読みこんでいた。
そう、おまけ小説「アウロス陛下、12弟妹と交流する」である。
うん、このゲーム、弟妹が12人もいるので、どれを攻略するか非常に悩むのだ。
あ、ジャンルとしてはシュミレーションRPGだが、登場キャラクター全員に好感度があり、どのキャラクターをパートナーにするかによって、エンディングが変わるのだ。
まあ、このセレイス殿下の好感度は必須だが。
そして、私は駅のホームから足を滑らした時も、その小説版を読んでいた。だからバチが当たったのだろう。
ちなみに「アーク・メリュジーヌ」において、この玉座の間は一番の鬼門であったりする。
ゲーム内時間で3日ぐらいセレイス殿下がここと自室を往復しつづけると、さっそくバッドエンドを迎える。
ちなみにこの玉座の間は、主に代替わりの儀式のために使われる。
こんな不審者が落ちてきたときでも玉座の間にセレイス殿下の他に誰もいないって何故かな?
うん、基本、王族以外立ち入り禁止だからだ。
ちなみにメリュジーヌおまけ小説では、この玉座の間で行われた前回の即位式で、なんらかの不具合が起きたと書かれている。
そのせいでアウロス陛下は現在絶賛失踪中なのだろう。
ちなみにゲーム内時間初日でも一定時間この人をこの玉座に座らせとくと、自動バッドエンドになる。早すぎるわ。
うん、すでに血の臭いがして、吐き気が止まらない。頭がくらくらする。早く出たい。
早く立って、外に出ないと。
自分の気を確かに持つためにとりあえずなんでもいいから話していると、セレイス殿下は薄い青色の瞳をゆるりと細めた。
あぶら汗が出てきた。
この人、ゲーム内で一番の美形として公式だったりする。そして比較的真面目なことも公式である。
「…異世界転移?君は異世界から来たのかな?」
うわ、イケボ。
うん、セレイスは母親似の繊細な美貌と、誰よりも美しい声を持っている、と、小説版アウロス陛下談だ。
つーか、このゲーム、兄弟愛が半端ない感じでアレだ。
ちなみにこのゲーム、プレイヤーの性別を最初に登録するが、その際に女性にすると難易度が跳ね上がる。
まあ、それはさておき。
異世界転生とかいう言葉がゲームのキャラクターから出てくるのはなんかアレである。
私は声をはりあげる。
「はい!異世界から来ました!!!」
セレイス殿下は、首をかしげる。
「………そう。でも君は感じるんだね。姿形だけなら西の一族にしか見えないのにね」
そうして、彼は玉座から立ち上がって階段を降りてきて、うずくまって動けない私のあたまを。
その長い足で、ぐしゃりと踏みつぶした。
ゲームを続けますか?
YES/NO
→YES
バッドエンド1、通過確認。
ヒントが公開されます。
「追放されし天使の名を借りよ」