プロローグ:不運な毎日 後編
鬱展開、最後です。
この後は色々ありますが、ここまで鬱ではありません。
帰ると、母さんから声をかけられた。
「なんか届いてるみたいよ。なに買ったの?」
「いや、秘密」
「なにそれ。変なものじゃないでしょうね。」
慌てて否定する。
「そんなわけないじゃん」
部屋に入ると、「それ」が見えた。
お小遣い3ヶ月分プラス、バイト代3ヶ月分の一部で買ったこれ。
ラノベツクール。
モニター募集に応募したんだけど...
どうしたことだろう、今回は狭い枠にも関わらず当選!
いつもの運の悪さを思えば考えられない。
ラノベツクール。
昔、パソコンでRPGを作るやつがあったらしい。
あれ、今もあるんだっけ。
とにかく、これはそのバーチャル版。
ラノベ設定をするだけで自動的にその設定に沿った、バーチャル世界を作ってくれて、そこで冒険ができるらしい。
イヤイヤ、ラノベと言いながら、バーチャル世界って、「ラノベじゃないじゃん」というツッコミはその通りだけど、ラノベの世界を目の前で見ることができるんだから、細かいことはいいじゃない。
とにかく、すごい。
さすが、科学の進歩は凄まじい。
ところでこの機械はボッチ用だ。
他にもバーチャル世界に入り込んで遊べるものは出てるけど、それは世界観が決まったところに大勢でアクセスして冒険する。
それはそれで楽しいんだろうけど、そういう世界では主人公になることはできない。
僕は大勢のうちの一人だし、活躍できるとも限らない。
特に僕みたいな軽い?コミュ障な奴にとってはそれが大事。
僕は箱を開ける手ももどかしく、中身を取り出した。
これで全部かな。
ええと、これを被って...コントローラを持てば、いいんだな。
スイッチオン。
BGMがかかり、やや機械的な声と一緒に、文字が表示された。
女性の外人さんのような声。
「ウエルカム ラノベツクール!」
続いて
「設定を開始します」
ボッチ設定ではチートし放題ってコトだよなあ
誰かに迷惑がかかかるわけじゃないし。
でも過去の経験から知っていた。
チートやり過ぎるとクソつまらなくなるコトを。
それはそうだ。
敵が弱くなりすぎると達成感はなくなるし、第一、一人でやるゲームでいくら無双しても誰も褒めてくれない。
虚しいだけだ。
まあ、やり直せるんだけどね
リセットとかニューゲームとか。
実際に死ぬわけじゃないし。
とにかく、ゲームの寿命を縮めるほどのチートはしないことにした。
でもスカッとしたいし、サクサク行きたいから、ある程度はチートに。
って
この、「ある程度」が難しいんだよな
ええと、まず
「男」だろ。自分の分身だからな。
レベルはやっぱり「無制限に上がる」。
カンストしちゃうと、なんか虚しくなるからなあ。
で
心配性な僕は「格闘もできる召喚士」。
格闘というか、そこそこ、武器も使えるように。
魔術師とか
召喚士とか
強いんだけど、物理攻撃に脆い。
紙装甲でいつも誰かに守られてるイメージ。
ボッチとしては一人でもある程度、戦えないと不安で仕方ない。
その辺はやっぱりチートにということで。
で、もちろん
「アイテム所持数無制限」。
ダンジョンに潜ってアイテム獲得中に、いちいち、ストック場所まで戻ったり、敵がアイテム落とした時に「アイテムが、いっぱいです。何か捨ててください」とか、やる気削がれることこの上ない。
でマップ機能。
今時、これが実装されてないなんてありえないでしょ。
難易度上がりすぎ。
ええと
ワールドマップとかもアイテムのありかまで落とせるのか。
イヤイヤ待てよ、よく考えろ。
これ、やり過ぎると激つまらなくなるんじゃね。
ええと...保留っ!
「武器はどうしますか?」
大剣とかショートソード、杖とかフレイル...
うーむ
この時、頭に浮かんだものがあった。
ブーメラン。
そう。
あの国民的大有名ゲームでも序盤に大活躍。
...なんだけどお。
中盤以降、どんどん強い武器が出て、魔法とかも強くなるし...使わなくなっちゃうんだよね。
それに近接武器みたいな威力もないし、といって、飛距離...も中途半端と。
なにもかもが中途半端。
...なんだけど。
あの序盤の敵全てを薙ぎ払う爽快さは嫌いじゃないんだよね。
どうせ自分だけのチートゲームだし、これにしてみようかな。
でも
やっぱり、途中から使えなくなるのかな。
あっ、自分で「最強」とかにいじっちゃえばいいのか、パラメータを。
え、でも、いじれるのかな?
まあ、いいか。どうせ一人でやるんだし。
面倒だけど、本当にダメならニューゲームすればいいし。
「プロローグはどうしますか?」
設定は進む。
転生、異世界転移、召喚とか
うーん。
転移にすると「このまま」だよなあ。
ゲームの中まで現実引きずりそうだし...。
召喚?
勇者かなあ。それも重たいなあ。
よし
転生にしよう。
「転生原因は?」
選択肢が表示される。
*交通事故
*交通事故誰かをかばって
…
「え?」
いやな思い出が瞬時に目の前に。
即座に振り払う。
いや、これにしよう。
*自分に危機が迫った時、白い光に包まれ、次の瞬間、異世界へ。
御都合主義すぎるだろう、これ。
まあ、いいや。
せっかく楽しい気分だったのに、いやな気分になりそうになったから、ここは掘り下げないことにした。
「初期アイテムを決めてください」
はじめ、サクサクのために「レベル◯まで上げるタネ」。
でも、やり過ぎ注意っと。
レベル50のタネとかやったら、敵が紙になっちゃうからな。
ということで「レベル10まで上げるタネ」にした。
後は初期の持ち物。
エリクサー2個。
どうせ、最後まで使わないだろうけど。
実際、あんまりダメだとリセットしちゃうからなあ、僕は。
「あれ、今何時だ?」
ヤバ!バイトの時間だ。
途中まで設定したところで家庭教師のアルバイトの時間になってしまった。
わあ、終わらなかった。残りは明日かな。
朝の新聞配達のバイトを考えると夜ふかしはできなかった。
「まあ、楽しみは先に伸ばした方がより楽しくなるってこともあるしね」
翌朝、学校のすぐ近くで、後から肩をたたかれた。
「よお、高坂くん、おはよ」
般若だった。
意味ありげにニヤニヤしながら追い抜いていく。
ちょっと重たい気分になりながら学校への道を急ぐ。
一限目の終わりに理科の担当教員に声をかけられた。
「高坂、今日は実験だから器具を準備しておいてくれ」
理科室というワードにやや嫌な思い出が蘇りそうになり、慌てて記憶を振り払う。
「わかりました」
理科室に入ろうとすると、カーテンが閉まっていて暗くなっていた。
せっかく振り払った記憶がまた、顔を出しそうになる。
理科室に入り、照明のスイッチを手探りで探す。
いきなり後ろから強い衝撃を受けた。
ひっくり返った僕の目に、暗い中、あいつらの姿が見えた。
後ろからけり飛ばされたようだ。
後頭部がジンジン痛む。
いつの間にか身体が押さえつけられ、動けない。
「あ・そ・ぼ・う・ぜ」
般若の手にはフラスコがあった。
見た瞬間、背筋に冷たいものが走った。
「さーて...これはなんでしょうね」
僕は人ごとのようにドラマで見たようなシーンだと思っていた。
般若がフラスコを傾ける。
床に落ちた液体がシューッと音を立て、蒸気のような煙が上がるのが微かに見えた。
ヤバいヤバいヤバいヤバい!
でも、なにもできない。
「うわー!」
僕は小さく情けない悲鳴をあげ、暴れた。
その時
「なにやってるんだ、お前ら」
真行寺の声だった。
おそらく物音を聞いて来たのだろう。
「何?どうしたの」
葛西の声もする。
そして、複数の駆け寄る足音が聞こえてきた。
般若の笑い声
「アッハッハッハハハハハハ」
「遅いねえ、遅すぎるよお。大丈夫大丈夫、ちょっと熱いだけだから」
ふざけるな
ふざけるな
ふざけるな
ちょっとのはずないだろ。
般若が僕の頭の上でフラスコを傾けた。
僕の目に液体がこぼれるのが見えた。
そして、ぼんやりと思った。
モウダメダロウナ。
その後、なぜかわからないけど
急に全てがスローモーションになった。
理科室に駆け込んでくる真行寺と葛西。
他にも何人かの姿が見える。
それを人ごとのように見てた。
なのに、本音は受け入れてなかったのだろう。
「わああああああああああああああああああ」
その瞬間、僕の周りが真っ白な光に包まれた。
「え」
何かが聞こえる。
「危険危険、転移先がフィックスしました」
不思議なことに、その声は、あのちょっと機械のような「ラノベツクールの音声」に聞こえた。
僕は絶望の中で意識を失った。
何とか、読み続けられた方。
ぜひ、この先もどうぞ。