2.第1章 夏至の神事4-4
「カサス様!カサス様!。 大変です。剣士が一人居なくなりました!。」
カサスの寝所に、武科の衛兵達が集まっていた。
「夕食の後で、点呼を取ったのですが一人居ません。 教練所の周辺を捜したのですが、見当りませんでした。どうしたものでしょうか?。」
ベッドの上で、その知らせを聞きながら、カサスの視線は部屋の片隅に向けられた。
その視線の先には、卜占科のイサムナが居た。
二人は、目で会話を交わした。
イサムナは、用心のために、カサスと行動を共にしていたのだ。
「分かった。捜索の支度をしておけ。今からイサムナに卜占を行ってもらう。それまでに、準備を終らせておけ。」
カサスは、そう言い放つとイサムナにまた視線を向けた。
イサムナは、コクリとうなずくと、アルパカの皮の袋から、シバルバ曼荼羅図と、竹で出来た九本の棒を取り出した。
そして、両手で九本の竹の棒を しごき始めた。
ジャッ ジャッ ジャッ!!! ジャッ ジャッ ジャッ!!!
イサムナの集中が、張り詰めた空気の中にあった。
ジャッ ジャッ ジャッ!!! ジャッ ジャッ ジャッ!!!
両手をぱっと広げると、九本の竹の棒が、曼荼羅図の上にぱらぱらと落ちた。
イサムナの見立てが、始まった。
九本の棒の、落ちた場所をそれぞれ確認しながら、なお集中していた。
やがて、イサムナが口を開いた。
「脱走した若者は、自宅に戻っている。自宅の豚小屋の屋根裏、エサ置場に隠れている。」
その言葉を聞くと、カサスが衛兵達に号令をかけた。
「影山の村へ行くぞ。皆ワシに続け!!!。」
カサスと衛兵十数人が、馬を走らせた。
静まり返った民家の奥、豚小屋の周りを武科の衛兵達が取り囲んだ。
一番に乗り込んだカサスが、屋根裏部屋に踏み込んだ。
「どうした。なぜ逃げた!。」
「お・おれは、まだ死にたくねぇ! お・おれは、影山の村で、結婚して、トマトをいっぱい造るんだぁ!。」
若者は、持って逃げていた剣を振りかぶった。
と、高さの無い屋根裏部屋の棟に剣が突き刺さった。
「えっ!!!。」
カサスの剣が、横一文字に唸った。
若者の首が階段を伝って、寝ていた豚の腹の上に落ちた。
寝ていた豚達が、何事かと一斉に騒ぎ出した。
ブヒーーッ!! ブヒーーッ!! ブヒーーッ!!
騒ぎを聞きつけた母屋の両親も駆け付けた。
両親は、茫然と立ちすくんでいた。
「衛兵!。此奴の首と、えぐり取った心臓は、布に包んで持ち帰れ。」
「この骸は、置いていく。丁重に葬ってやれ。」
両親に、そう伝えるとカサスは、馬にまたがった。
夏至の神事の当日、拳闘場に整列した十一人と、逃げた若者の首と心臓が、同じく並べられた。