2.第1章 夏至の神事3
天空に浮かぶ二つの月が、黄色から赤に変わり始めた頃、コアトルは宮殿に帰って来た。
戻ると、王室の扉が開け放たれたまま、ヤコック王と卜占科の長イサムナが、何やら話をしていた。
王室の中からコアトルの姿を見つけたヤコック王が、呼び止めた。
「コアトルかっ! 今帰ったのか!」
「父上様。ただいま帰りました。12枚の伝令書は、無事全員に渡し終わりました。」
「変わった事は、なかったか?」
「いいえ、何も変わった事は、ありません。」
「そうか、ご苦労であった。夕食の支度が出来ているぞ。」
「はい。ありがとうございます。では、おやすみなさい。」
コアトルが別室に消えるのを確認して、イサムナが話を始めた。
「卜占をしたところ、十二の剣士の内、一つが欠けると出たのです。」
「今までに、そんな卜占があったか?」
「十五歳から卜占を習い始めて五十年、このような卜占が出た事は、ありません。」
「どう云う事だ。何が起こると云うのだ。」
「卜占は、そこまでは 教えてくれません。」
「イサムナの卜占によって、今年の剣士を選んだのだ。そこに間違いが、あったと云うのか。」
「卜占の結果は、いつも正しい。卜占によって剣士を選びましたが、それ以外でも身上調査は行っています。人選は、間違っていないはずです。」
卜占科の長であるイサムナは、言葉を強めた。
「武科長のカサスに伝えて、十二人の剣士の招集を、早めましょう。
教練所に入れてしまえば、間違いは起こらないでしょう。
卜占科と武科で協力して、この「夏至の神事」を成功させます。
ヤコック王様、ご安心ください。」
「頼んだぞ、イサムナ!」
伝令書が届けられて、三日で十二人の剣士は、武科の教練所に集合させられた。
今まで剣を持った事のない若い男達が、村の代表として剣の指南を受けた。
コアトルも、剣の指南役として教練に加わった。
みな身体つきの良い、たくましい若者達であった。
コアトルも行っている、三つ山越えや、剣の扱い方、相手の首の落とし方、勝った時の心臓のえぐり出し方等々を、三ヶ月かけて教わっていった。
たくましい若者たちが、更にたくましくなり、剣士として十分な見栄えとなっていた。
村の名誉をかけて戦う剣士達。
神々への服従を表わすための神事。
いよいよ夏至の祭りの前日。
一人の剣士が、脱走した。