2.第1章 夏至の神事2
あどけなさの残るその笑顔は、国中の人々から愛されていた。
シバルバ族の王ヤコックの息子 コアトルである。
王族として、コアトルは日々、王家の教育を受けていた。
午前中は卜占科の授業で、座学を行い、午後は武科の実習で、競技場で剣術等を受けていた。
次の王としてコアトルは、午後の授業の後も、武科の個人授業を受けていた。
カン カン カキ~ン!!! カン カン カン!!!
武科長のカサスの鋭い剣さばきが、コアトルを襲った。
負けじと、受けては打ち返すコアトルの剣。
「まだ まだっ!」
「エイ!エイ! トーッ!」
「よし。いい感じだ、コアトル王子! でも!まだ甘いですな!」
カサスの剣が、重たくコアトルの剣を、大きく右に払った。
ズザザ~~~ッ。
その力に負けて、コアトルは尻餅をついた。
「さすがカサスだね。とっても、かなわないなぁ。」
カサスが手を差し伸べて、コアトルを立たせた。
「もっと、基本的な体力を付けないとダメですな。そして一歩の踏込を早く、そして より前に持っていくように。」
「三つ山越えの、走り込みは毎日しているのでしょうな。」
「はい。朝と晩で、一日に二回は走りこんでいます。」
「馬術の練習も、欠かさないでくださいね。」
「はい。」
二人が剣術の練習をしている所へ、ヤコック王がやって来た。
「いつも ありがとう。カサス殿。今日の練習はこの辺で、コアトルに用事を、云い付けてよいかな?」
「はっ。これはヤコック王。直々に何の ご用事でしょうか?」
「今度の夏至の祭りの、剣士達が決まったので、その伝令書をコアトルに、持って行って貰おうと 思ってな。」
「十二人の剣士が、決まったのですか。それは良かった。あと三ヵ月で夏至の祭りです。それぞれ準備が必要ですからな。」
「ぼくは、このお祭りが好きじゃないなぁ。みんなで殺し合いをして、勝った剣士の心臓を、勇者の心臓として、暗黒神に捧げるなんて。」
「なんか残酷な神事だから。 いけにえの儀式だから…。」
「コアトル王子! 何を言っているのですか。王子として、あるまじき発言ですぞ。」 カサスが、コアトルをたしなめた。
「コアトルにはまだ分からないか…。国中が熱狂する夏至の祭りは、神々に対する、我々の責務だ。」
「さあ、コアトル。この十二枚の伝令書を、それぞれの家に渡しに行け。」
「二つ月が、赤くなる前に戻るのだぞ。」
「はい。父上。」
コアトルは、伝令書を受け取ると、小走りで街の方へ消えて行った。