2.第3章 コアトルの初恋2
授業が終わると、生徒たちは集団で下校した。
コアトルは、王の後継ぎとして午後の授業の後も、武科長のカサスの剣の指導を受けていた。
コアトルは、みんなとは別の教練所の道を、一人で歩いていた。
ふと立ち止まって、皆が帰って行く方を見ると、ポポルはマヤウェルやエカリー他、数十人と一緒に下校していた。
なんだか楽しそうに話しながら下校している。
「なんだ。ポポルはみんな知り合いだったんだ。」
自分が王子である寂しさを、コアトルは感じた。
数日がたって、いつものようにカサスと剣の練習をしている時、4人の少女達がニコニコしながら近づいて来た。
「カサス様!。カサス様!。ちょっとよろしいでしょうか。」
コアトルは、びくっとした。
声をかけて来たのは、マヤウエルだ。
エカリーもいる。
あとの二人は、知らない女の子だ。
「ポポルのやつ。僕の気持ちをエカリーに伝えたんじゃないのか?。」
心の中で、つぶやいた。
「これはこれは、かわいいお嬢様方が、なんのご用事ですかな?。」
練習の手を止めて、カサスが、その長いひげを撫でながら言った。
コアトルは、うつむいて、ただ真っ赤になるばかりだった。
明るく元気の良いマヤウエルが、答えた。
「今度の冬至のお祭り用の礼服を、私達で造る事になったんです。」
「それで、カサス様とコアトル様の、身体のサイズを計らせて貰いたくて、やって来ました。」
フーッ。コアトルは、一瞬ホッとした。
少女達に言われるまま、カサスとコアトルは、立ったりしゃがんだり、手を伸ばしたりした。
コアトルを担当したのは、マヤウエル達。
カサスを担当したのは、エカリー達だった。
カサスは2m以上ある長身だったので、エカリー達は爪先立ったり、カサスを座らせたりしながら、苦労して測っていた。
コアトルは、その様子をちらちら見ながら、測って貰っていた。
「ありがとうございました。カサス様。冬至の礼服が出来上がるのを、楽しみにしていて下さいね。」
マヤウエルがそう言って、帰りかけた時、一瞬コアトルに駆け寄って耳打ちした。
「コアトルの分は、エカリーが造ってくれるって!。」
コアトルは、途端に真っ赤になって、うつむいてしまった。
「今の中に、好きな子がいるのか?。コアトル?。」
カサスが、また長いひげを撫でながら言った。
「………………。」
「結婚相手は、卜占で決めてもらうもの。卜占科の仕事だ。
好きに成るのは良いが、深入りしてはいかんぞ。」
「………………。」
シバルバ族の結婚は、卜占科の卜占によって、相手を決めていた。
秋分の祭りが、その結婚相手を決める神事であった。
自分が好きだからと云って、その相手と結婚できる訳ではなかった。
今度の秋分の祭りで、コアトルも、結婚相手を決める事になっていた。
「………………。」




