2.第3章 コアトルの初恋1
夏至の神事が終わった後、シバルバ国は、いつもの日常を取り戻していた。
宮殿の中で、ヤコック王は朝食をとりながら、話し始めた。
「夏至の神事では、どうなる事になるかと思ったが……。何とか無事に済んでよかった。」
ヤコック王の妻、王女のヴェールは、朝食の支度をしながら答えた。
「本当に…。 国の人々は、変だと思っていなかったのかしら。大丈夫?。」
「12人の戦士の内、1人が教練中に事故で亡くなったとして民には伝えた。
民は皆、それを信じているようだ。」
「よかった。 剣士が一人逃げるなんて、神に対する冒涜になってしまう。
1年12ヵ月、それぞれの月毎の神様に奉げる為、12人の剣士の心臓が必要なのだから。」
「私達種族は、この星の全ての生物の為に、神にお仕えしているのだから。」
コアトルは、トウモロコシを挽いてパン状にしたトルティーヤに、アボガドとトマトを載せて、黙って聞きながら食べていた。
話の内容は、よく分からなかったが、父のヤコック王の、あごひげに載ったトルティーヤの屑が動くのが、可笑しかった。
「どうしたのコアトル。何が可笑しいの?。早く食べてしまいなさい。学校に、遅れてしまいますよ。」コアトルの母であり、王女でもあるヴェールは言った。
「はい。母上。 それでは、行ってまいります。」そう言うと、コアトルはまだ口をモゴモゴいわせながら、学校に向かった。
シバルバ族の学校は、王族と一般民の学校に別れていた。
コアトルは王族の学校に通っていた。
学校のクラスは、真ん中の廊下を挟んで、男子のクラスと女子のクラスに分かれていた。
王族の子供達は、午前中は卜占科の授業を受け、午後は武科の授業を受けていた。
卜占科の授業では、読み、書き、計算、植物学、暦の勉強等々を教室で行っていた。
午後からは、武科の実習で、剣の使い方や、神事の舞、楽隊の練習等々を行っていた。
いつものように席に着いたコアトルは、なぜか隣のクラスの女子達が気になった。
廊下を挟んだ向こう側のクラスに視線が向いていた。
「夏至の神事の時の あの子は居るのかなぁ………。」心の中でつぶやいた。
あの時に、目に焼き付いているあの天使の姿。
女子のクラスの中で、動き回る女子達。
「いないのかなぁ。」
「どうした!。コアトル!。女子のクラスばかり見ていて。何かあったのか!。」
コアトルの親友ポポルだ。
ポポルは王族の鍛冶師の子供だ。
コアトルは、急に真っ赤になってしまった。
「なんだなんだ!。気になる子がいるのか?。」
「そんな子はいないょ。」
「マヤウェルは、ダメだぞ!。俺のお気に入りだからな!。」
「ほら、あの前から3番目の席にいる、左右の三つ編みを後ろでまとめている あの子だ!。かわいいだろぅ!。」
ふとその方に視線を向けると、そのマヤウェルと、楽しそうに話をしている少女がいた。
あの時の天使だ。
さらにコアトルは真っ赤になった。
「おいおいコアトル!。マヤウェルは、ダメって言ったろう!。」
「マヤウェルの事が好きなのか?。」 「違うよ。」
「だって、真っ赤になってるぞ!。」 「違うよ。」
「じゃ なんで。赤くなってるんだよ。変じゃないか。」
「マヤウェルじゃない?。じゃぁエカリーか?。あの髪の長い女の子か?。マヤウェルと、話している?。 そうか!。」
「違うよ。」
「違うのか?コアトル!。」
「違わないよ。」コアトルは、思わず口に出してしまった。
ポポルが、たたみかけた。「そうか……。エカリーか!。」
コアトルは、心の中でつぶやいた 「エカリー。」
「あの子は、エカリーっていうのか。」




