04.嵐(一)
――嵐(一)――
今日は嵐だ。
遮蔽物のないサバンナではじっと耐えるしかない。キリンのジラフは、重量もあり、雨に濡れる身体を震わせるばかり。
問題はミーツd――、
「うがあああぁあぁああぁあァアアァ!」
――せめてナレーションはさせてほしいものだ。
そう、ミーツは十八キロ(本人否定)もあるが、嵐による暴風によって吹き飛ばされてしまうほどの、もっふもふの羽をもつから、とてつもない空気抵抗に見舞われてしまう。雨季にでもなればいつも調子が悪くなるらしいが、嵐となれば通常はヌーなどの群れに紛れてやり過ごしているらしい。本人曰く、
「ヌー? 体のいい風よけさ」
とのことだが、今回は近くにヌーの群れなどおらず、ジラフの首をくちばしでつまんで耐えている次第。
「な、なあジラフ。今日くらいは首を巻いて寝てみたりしないか?」
「身体が泥まみれになるだろ?」
「じゃ、じゃあ腹側に掴まらせてくれるのでもいいんだぜ?」
「まあ別にいいけど……気まぐれでお腹を地面につけようかなと思う次第で――」
「すいませんでした」
ビシィッと頭を下げたミーツ。
「でもなんでそんなに嫌がるんだ? 泥がつくって言うのも理解できるけどよ、どうせ雨で洗い流されるぜ?」
「……そろそろわかるよ」
――そろそろ?
そのまま、無言のときが十分くらいが経過した。そのころ、ミーツは何かの気配に気付いたよう、
「んんんんん? ジラフ、おいジラフ!」
「だから言っただろ? もうすぐわかるって」
敵襲だった。
「嵐の日は雨のせいで足音が消えるんだ。そんな時に地面に寝たら、僕はすぐにエサになっちゃうんだよ。まあ真っ先に食べられるのはミーツだけど」
「おい」
――ひどいぜジラ…………いやいやいやいや!?!? 突っ込んでる場合じゃねえ!
「どうするんだよ! …………ざっと数えただけでも片手じゃ足りないぞ!」
「ミーツ、指で数えるっていう概念ないでしょ?」
「確かに…………ッて、今それどころじゃねえから!」
ミーツはジラフの背中の上できょろきょろと挙動不審に首を動かす。そのたびに揺れる高草に隠れる肉食獣の王・ライオンは近づいてくるのだ。
そして、遂に一頭のライオンが高く跳躍。ジラフの真横から、噛み心地のよさそうなモフモフの首を狙って。
「ガルルルルルルル」
と呻る声。直後、、
「きゃいんっ!」
と、鳴き声が聞こえた。
「なんだ!?」
「なあ、ミーツ」
「今度はお前か、なんなんだよ!?」
「君と出会ったのはこのへんな気がするんだけど、出会う前はどこに住んでいたんだい?」
「今そんなことどうでも――」
「きゃいんっ……!」
一頭と一羽が無駄口をたたいている頃、再びライオンの弱弱しくなく声が聞こえてきた。
「なあああ!??」
「この辺り、降ってくるんだよね。ガラクタ」
ライオンはジラフに跳びつくたびに、四つタイヤが付いた大きな乗り物や、放送コードに引っかかる看板、原形をとどめた家が風に乗って飛び、衝突して叩き落されていくのだ。
「おいおいおいおい……!」
そして、今日一番の突風で、葉や草が舞いあがったとき、目の前でそんな軽いものではない何かが舞い跳んだのが見えたあと、首が折れそうなほどズシィッとした重さに圧し掛かられる。
「…………!?!?!? ジ、ジラフ!」
「はいはい、なんですか」
慌てた様子でミーツに呼ばれたので、いつものか、そう思いつつ振り返ると、当人は目を《C》のように飛び出させ、翼で目を隠していた。
「あた、あたたたたt……あたまァ!」
ジラフは、高速で拳を振るってきそうなミーツの声に視線を上に移すと、頭に生える最大の二本の角の間に、一頭のライオンがちょこんと挟まっていた。
「やあ、俺のエサよ」
前段、続きます。