03.鍋
──鍋──
「ミーツ、『鍋』って知ってるかい?」
ジラフはいつものように首を百八十度回転させ、背中に乗るミーツを見て言った。一瞬だけ、「やめッ」とくちばしが動いたものの、しっかり耐えた様子。そして、ミーツは身体をぶるぶるっと震わせてから答える。
「鍋? 何だよ、それ?」
「博士が教えてくれた異国の料理らしいんだ。ぜひ作ってみればいいって言われて、これを託された」
ジラフは足元に転がった三メートルを越える巨大な陶器の器を足ではじき飛ばし、角の上にちょこんと乗せた。
「なんでも、この中に水と、草や肉を入れて火で炙るらしいんだ。そうすると食材が柔らかくなって美味しいんだって。どう? 興味ない?」
「ほーぅ。じゃあ早速食材を集めないといけないな」
「うんうん。雑食の君が食べる分のお肉は目の前にあるとして、どんな草を入れればいいんだろう?」
ジラフは周囲を見渡す。
その間、石化したように身体を固めたミーツは十秒後再稼働しだし、ピーピーとうるさく喚き始めた。
「…………ん? ちょっと待てジラフ。俺が食べる分の肉が何処にあるって!? それ、俺が俺を食べてることに――」
「僕はいつも食べてるアカシアの葉でも入れてみようかな。いつも食べてるものがより美味しくなるならすごくうれしいし」
「そうだな……俺もアカシアを食ってみたい。この前進められて食べたときは、さすがの俺も吐き出しちまっ…………違うッ! 俺はその鍋とかいう料理の具材にはならないからなっていって――」
「君って意外と好き嫌い激しいよね。いつも僕の背中に乗って、大したもの食べてない気がするんだけど、それなのにその巨体を維持出来るの凄いと思うよ」
「そ、そうか?」
ミーツは、どこか照れて赤くなった――完全に錯覚――顔を恥ずかしがって、羽で顔を覆って隠す。
当然、ほめてない。
「実はそれ、逆なんだぞ? お前の背中に乗ってないときに好きな食料をかき集めてるんだ。だから、俺は好きなものしか食ってないからこそこの巨体を維持――」
「よし、この草も入れてみよう」
「んがッ。無視しやがって! 最近、お前の俺の扱いがひどいと思うんだよ。直訴直訴」
完全に先ほどまでの一件は忘れている様子のミーツ。
実にちょろい。
ということで、二人で食材を集めた結果、二十三種もの食材が混在するごった煮となった。ちなみに分量で言えば、アカシアの葉が九十五%を占めている。
「じゃあミーツ、早速火をつけるから気を付けてね」
「火? 気を付け…………火ってまさか――ッ!」
ミーツは気が付くのが遅かった。ジラフは早速首を浮かせ、身体につけられた機械部に鍋を乗せると、
「ゴオオォォオオォ」
と炎を吹かせた。
するとあら不思議。今、目の前にあったはずの鍋は炎の圧力で軽々と持ち上がり、はるか上空へ一っ飛び。鍋は炎の加減で無事おりてきたものの、ジラフの背中には無事でないものが一つ存在した。
「ああ! 気付かなくてごめん! 頭のてっぺんと顎の下だけ火傷して、局部的に真っ赤にすれば鶏って言い張れ――」
「やっぱり食べる気だな、ジラフううう!」
――!? 思い出した…………だと!?
努々思い出すなどとは思わなかったので、業火にかけた鍋に意識を向けた。
「いただきます」「いっただっきまーす!!」
ジラフはゆでられてにおいの強くなったアカシアの葉を、これでもかと散々空気に当てて冷やしてから喉を通した。そして「おいしい」と感想を言おうとしたとき。
「バキンッ」
何かを欠き割ったような、耳障りな物凄い音がした。ジラフが堪能していた、半野生動物にも関わらず初めてした料理の味など吹き飛ばした顔でミーツを見る。
すると、その目の前にいる一羽の駄鳥がしていることに驚きを隠せず、言葉をつまらせつつもどうにか話しかけた。
「え? ミ、ミーツ…………君、今、何を食べて──」
「鍋だぞ?」
「鍋を食べるって……、本当に『鍋』を食べるんじゃないんだよ? な、中の具材を食べる…………」
ミーツはその言葉を聞いて、クチバシで咥えた陶器をポロリと零した。
キリンが被れる鍋ってどれくらい大きいんだろう?
時系列はぽんぽんと前後するので、ひょっこり宇宙に行ったりするかもしれません。
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