01.憧れ
――憧れ――
サバンナの夜。
「月が……きれいだ。そう思わないか、ミーツ」
一匹のキリン。四足で立つ彼は、空に浮かぶ月を正面に見据えて言葉を投げかける。
言葉を受け取ったのは、キリンの背に乗る鳥・ミーツ。ふわふわでまん丸で、しかしその大きさは、キリンの頭と大して差がない巨大な鳥。
「ジラフはそんなに月が好きだったか?」
その質問にジラフは、シュインと生物ならざる音を立て、首を百八十度回転させ背後を向く。
「やめろおおおッ! その動きはやめてくれえええッ!!」
「なんでだよ、ミーツ。後ろを向くにはこれが一番――」
「せめて生き物として振舞ってくれよ!」
ジラフは過去、大きな怪我をしたことがある。その怪我は致命傷。首は露出骨折、まさに首の皮一枚つながった状態で発見されたジラフは、即死のはずだったのにも関わらず、恩人に助けてもらったのだ。
しかしその代償もある。
「今はもう、この博士製の機械の首なしでは生きていけないんだ……それに、皆が思うほど悪いものじゃないんだよ?」
「何に悪いって、俺の心臓になんだけどな」
ジラフの首は機械が付いている。助けてくれた恩人が着けてくれた機械だ。
この機械はいろいろな機能がある。その一つが、今のように首を三百六十度どこでも回転させてくれるというもの。
「もうミーツ。いい加減慣れてくれないか?」
「もしなれたら、俺は鳥の心を失ってしまったと、ぴよぴよ泣き叫ぶことだろうよ」
「ぴよぴよ?」
「ああ」
「君そんなにかわいくなけないだろ? そんな嘘を吐いたら、純真なこのサバンナの仲間たちが、君をかわいいマスコットと勘違いをしてしま――」
「このヤロウッ!」
ミーツはジラフの背骨に対して、身体を反り返るだけ反り返らせて生み出した反動を最大限使って編み出す会心の一撃を放つ。
「……君は鳥頭だね」
「まあ鳥ですからね!?」
「首より下で起きた痛みは全部機械でシャットアウトされてるのでわかりませーん」
「くそッ」
「だから、なーれーてーくーだーさーいいぃいいぃいい」
「頭を回転させながら言うんじゃねえ!」
ミーツはコツンともう一度くちばしで背骨に振動を与える。するとジラフは回転させるのをやめて、再び月へ向く。
「はあ……やっぱり月は何度見てもいいものだよね、ミーツ」
「俺の話は無視するのか」
「いや、ずっと背中に乗っているから一歩も歩いていないはずなのに、わざわざ攻撃してくるものだから、鳥頭の上位の言い方を考えないといけないと思って」
「……」
「だけど気づいたんだミーツ」
「……何にだ?」
「このままここで考えていても、より良い言葉は思い浮かばないと思うんだ。この地球上に君より早くものを忘れる生き物はいないよ」
「その話まだ続いていたのか」
「だから僕は決めたよ」
その言葉の直後、首の機械はボシュッと音をさせ、同時に熱風を辺りに吹き荒らす。
「お。おいジラフ! お前何をしようと――」
その声に反応し、ジラフはミーツを見るため徐々に宙に浮き始めた首を百八十度回転させ、
「あの月へ行ってくるよ」
「…………は!?」
ミーツは長い間の後驚いた。しかし、首は留まることを知らない。徐々に浮いていく首から溢れる熱風は尋常なものでなく、十センチ以上の間隔を持った首を繋ぐ二つの機械は、ボボボボボッという轟音とともに業火を噴出させ続けている。
「じゃあ行ってくるね、ミーツ!」
「お。おい本気で……」
ジラフはみるみるうちに高度を上げていく。それはたった数秒の出来事で、ミーツは暑さに耐えることしかできなかった。そこに残ったものは、一筋立ち上る煙とジラフの身体のみ。
「おいおい。この身体はどうするんだよ……」
少々時が経ち、ミーツはジラフの身体が何やら地面に文字を書いていることに気が付いた。
『まあ、声が出せないだけで身体は操れるんだけどね! てへ』
「クソッ」
ミーツは渾身の力を振り絞って首以下となってしまったジラフをくちばしでついばんだ。
タグとか決めるの難しい作品だな!
ということでお久しぶりです。匣を開放させてやれよ!とお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、気まぐれで書いてしまいました。34行×42文字で二頁に収まるように書いて、サクサクと読めるものを目指しています。とても難しい。
別作品「アイギスの匣」と同じくらいの更新ペースになるかもしれないですが、クオリティー高くいこうと思います。ぜひ続きをねだってください!
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