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幻想魔界物語  作者: アル
8/9

少女魔王とお城のメイドさん編


 人ならざる者達の世界である魔界……そこに頂点として君臨するのは、名前の通りに実際ツルペタのマナイタ・・・・で幼い少女の容姿を持つ魔王様である。

 「わたしゃマナ・・イタ・・クアであってマナイタじゃねぇええええええええっっっ!!!!」

 いつもの如く執務室での作業中だったマナが、やはりいつもの如く唐突にここにはいない誰かに対して怒鳴り声を上げるのは、メイド長のラティア・リーンにはいつもの事であった。

 しかし、新人メイドにしてラティアの補佐であるネムにはそうではなかった。

 「……魔王殿は誰に対して怒っておるんじゃ?」

 人間ならば十歳前半程の容姿の主人より更に幼い姿のネムが不思議そうに首を傾げるのに、「さて? 誰にでしょうねぇ~?」とすっとぼけた笑い顔で応えるその様子は、二人の少女のちょっと天然ボケなお姉さんという風にも見えないでもなかった。



 魔界にも四季はあり、夏になれば当然暑いので、石で舗装された道を歩くメイドが「暑いわぁー」と呟きながら額の汗を拭うのもこの時期はありふれた光景だ。

 城下町へと買い物にやって来たそのメイド――ミーム・エルフィアは、美しいストレートの金髪をもつ十代後半の容姿の彼女は、マナやラティアらと比べてずっと耳が長い。 

 それは彼女が遥かな昔に魔界とも人間界とも違うセカイからやって来たエルフという種族だからであるというだけの事だ。 どうしてかという理由すら忘れ去られて久しい今となっては、エルフは魔界にいて当たり前の存在となっている。

 ただ、それだけの話である。

 不意に、彼女と同じ様に暑そうな表情の通行人の中を自分の横を元気よく走り抜けて行った銀髪の少女の存在に気が付き、「子供は元気ねぇ……」と感心するミームであった。


 

 外はすっかり暗くなり多くの星が輝いている時刻、一日の仕事を終えたマナは自室へと向かいライトの照らす廊下をのんびりと歩いていた。 その表情がどこか楽しげなのは、今日はファンタジー・プラネット・オンラインのアップ・デートの日だからである。

 「みんな、もうやってるかなぁ?」

 ゲームのフレンド達の事である、間違いなくみんな人間であろうとマナは分かっているが、逆に向こうはマナが人間ではない事は知る由もないであろう。

 「……ん?」

 不意に背後に気配を感じたマナは振り返ったがそこには誰もいない。 しかし、小さく溜息を吐くと「……出てきなさい」と言った。

 すると天井から大きな白い布がフワリと床に落ち、続いて一人のメイドが着地したのである。 黒と白の標準的なメイド服のその人物は、しかし忍者めいた覆面と”冥・土”という文字の刻まれたマスクを着けていた。

 「ドーモ。 メイド・ニンジャです!」

 そのメイドは礼儀正しく手を合わせてお辞儀をすると、次の瞬間に姿を消した。

 声や体格からすると女性ではあると思うのだが、実際のところはマナはもちろんメイド長のラティアも知らないらしい。

 男がメイドをやるとは思えないのだが、人間界の昔のアニメで仮面を付けた屈強な男がメイドをしているものがあったので、あるいは……?とも思えてしまうのである。

 「……まあ、信用はしてるからいいけど……」

 城で働く者達と、彼女らを採用したラティアらのヒトを見る目の両方である。

 そして、もちろん自分自身のそれもである。 もっとも、自身に関しては完全にとはいかないが、ヒトの上に立つものが根拠もなしに部下を疑うものではないと考えているのだ。 

 主人がそんな事を思っている頃、ラティアは自室のベッドに腰かけていた。

 メイド長である彼女に与えられた個室はクローゼットや本棚に作業用の机やテレビ等を配置してもまだ多少の余裕があるスペースである。 

 「まったく……あっちの世界のトップ達は何をやっているんでしょうかねぇ……」

 ハード・カバーの小説を読みながら何気なく付けっぱなしにしていたテレビのニュースの感想である。 ニンゲンである以上完璧な為政者になどなれるはずもないが、それでも最近の人間の国のトップはどこかおかしいと思えた。

 「為政者からしてこれでは、マナ様の希望が叶うのも望み薄いですか……」

 呟きながら本を閉じてベッドの上に置くと、代わりにテレビのリモコンを取って電源を切った。 個人的には人間の世界の事はどうでもよくても、主人である少女魔王の望みが絡んでくるとそういうわけにもいかない。

 「まぁ……気長にやるしかありませんか。 マナ様には申し訳ないですが」

 彼女のゲームでのフレンドと直接会って話をしたいという個人的な願いは気が付いていても、そのために魔界を、ひいてはマナ自身を危険に晒すわけにはいかない。

 某国の大統領のようにがむしゃらに結果を求めて先走っても、結局は歪みしか生まないであろうから。 もっとも、そんな歪みも、目に見える結果でしか判断出来ない民衆にも責任はあろうが。

 「さて……」

 そろそろ風呂にでも入ろうかと立ち上がりクローゼットへ向かったラティアは、不意に窓へと歩み寄ると白いカーテンを少し開いて夜空を見上げた。 見える範囲に雲もなく星が輝いているのに、明日もいい天気だと思う。

 「明日も暑い日になりそうですねぇ……」

 

 

 

 

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