少女魔王とメイドさん登場編
地球は狙われていた……。
宇宙人だったり地底人だったり、はては地球人であっても悪の秘密結社であったり……もちろん、異界人からもであった……。
ここに一人の少女がいる。
年齢は見た目は十代前半であろうか、肩くらいまでの銀色の髪に金色の瞳を持ち可愛らしいデザインの白い服を纏っている。 その彼女が座っている少女の小柄な身体には不釣り合いな大きな椅子は、誰がどう見ても実際玉座だと分かるデザインであった。
「うふふふふ……」
口元を歪めて不気味な笑いを浮かべるこの少女こそ、この魔界を治める魔王であり、その名をマナ・イタクアと言った。 そしてその名が示すかの如く彼女の胸は実際マナイタである。
「変な略し方すんなぁぁあああああっいきなり何を言うかぁぁぁあああああああっっっ!!!!!」
誰もいないはずのだだっ広い部屋で唐突にマナが叫び声を上げたた時に、「……マナ様……どうされました?」とやって来たのは、一人の実際メイドさんだった。
紺色のワンピースに白いエプロンという典型的なメイド服姿の二十代前半に見える長いストレートの薄紫の髪のメイドさんは、エメラルド色の瞳で主人である魔王を見つめる。
「……何でもないわ、ラティア。 気にしなくていいわ」
「はぁ……」
多少納得のいかないという風ではあったがそれ以上は追及しない。 そんなやり取りをする二人は一見すると人間のようであったが、耳は人間のそれと比べて少し尖っている。
それは魔族と呼ばれるものの特徴であったが、別に彼女らの本質が邪悪だとかそういわけでもなく、単に魔界の住人だから魔族と名乗っているだけである。
「それで? 何か用があるんでしょう?」
どちらかというと話題を逸らすためにそう言ってみるマナだ。
「はい、諜報部によると最近あちらを調査していたルタン星人が姿を消したらしいとの事です」
一応はメイドではあるが、昔からずっとマナの世話係と教育係、更に護衛も兼ねられる戦闘力もあって立場としては魔王の副官という方が近いのが彼女である。
その報告にマナは「でしょうねぇ……」と小さく呆れたように溜息を吐く、彼らの目的が地球侵略か、あるいは壊滅であるのは予想するに容易く、そしてすぐに諦めるであろう事も簡単に想像出来ていた。
それは地球人の力でも、どこかからやってくるヒーローによるものでもない。
「…………」
マナが服のポケットから取り出したのはどこからどうみても人間界の通信用携帯端末である、そしてそれを使いとあるサイトを液晶のモニターに表示させる。
「……こんな調子じゃあねぇ……」
宇宙人の侵略したい星のランキングが乗っているそのサイトの、今月の……いやここずっと地球の順位は4桁である。 要するに地球は侵略する価値もなければ、ほっといても自滅するであろう惑星を滅ぼそうとする物好きもない。
かくいう魔界も、かつては人間界を征服しようと正義の魔法少女と戦いを繰り広げたものだが、今ではそんな事をする気にもならないのは、戦いによる魔界側の犠牲と天秤にかけて割が合わないとなったからなのだ。
「まあ、マナ様が気になさる事でもありませんわ」
「まーそーなんだけどさぁ……」
自分でも理由は分からないのだが、何となく釈然としたものを感じるのは、いつもの事であった。
マナの私室は広い、大きな天蓋付きベッドやらソファーにテーブルやらの家具を置いても子供の遊び場にでも出来そうなスペースが残っているというのは、はっきり言って日本の住宅事情を考えろと言いたくなる。
「んなもん知るくぁぁぁあああっ!!!!」
何気なく窓から夜空を見上げていたマナが唐突に振り返り叫ぶが、無論部屋に主以外には誰もいない。
「……ったく、まあ、いいわ」
呟きながら歩き出し、そしてソファーに腰を下ろしてからテーブルの上に置かれたノート・パソコンを開きスイッチを入れた。 それから”ファンタジー・プラネット・オンライン”というゲーム・プログラムを立ち上げた。
「さて、みんな今日はインしてるかなぁ……」
魔界の時間は人間界の日本という国とほぼ一緒であり、この時間であれば学校や仕事も終わってゲームのフレンド達がログインしていられる時間である。
彼女も含めて皆ゲームはあくまでも趣味という範囲なので、プレイ時間もせいぜい一日平均2~3時間くらいだが、魔王という立場ではなくマナという一個人として遊ぶ事の出来る大事な時間なのだ。
「まったく、愚かな人間達だけど……この事だけは感謝してもいいわね?」
呟きながら、どこか邪悪にも見える笑いを浮かべる魔王マナイタ様であったとさ……。
「だぁぁああかぁぁあらぁあああっマナイタ言うんじゃねぇぇぇぇえええええええええっっっ!!!!!!」
月夜に照らされた不気味な黒い魔王城に、少女魔王様の叫びが響くのであった。
そう人間の世界はかつては狙われた……しかし、今となってはそんな事もない、人間が他の知的生命体からの侵略を受ける可能性は皆無に等しい事となっている。
それを喜ぶのか残念に思うかは、あなた次第である……。