初戦
前半は完全に欅ヶ丘ペースだった。開始10分ほどに右サイドのクロスからヘディングで先制。その後コーナーキックからこぼれ球をボランチの三年生がボレーシュートで追加点。その後もきれいにパスを繋ぎ、前半2ー0というスコアと圧倒的支配率で折り返した。
後半、相手の石山中は一年生を二人入れてきた。
遼太はその二人に認識があった。
「加山、滝沢…」
思わず二人の名前を口にした。
「どうした、蒼井。あの二人知ってるのか?」
遼太の声に気づいた三年生のキャプテン、大沢が話しかけてきた。
「あ、はい。小学校の時のトレセンで一緒にやってました」
「トレセンか。上手いのか?」
「はい、小学校の時はツートップ張ってました」
「そうか、ありがとう」
そう言って大沢はグラウンドに向かった。
「蒼井、様子を見て後半入れるぞ。準備しとけ」
桂木からそんなことを言われた。
「はい」
ピーーーーーーーーッ
後半開始の笛が鳴る。
彼らは速かった。
一年生コンビ二人は息ピッタリのコンビプレイで欅ヶ丘ゴールに迫った。
そして、後半10分ついに滝沢によってゴールが奪われた。
やはり加山とのコンビプレイから。スルーパスに抜け出しあっさりと決めてしまった。
「蒼井!いくぞ」
失点後すぐ桂木から声が掛かった。
「はい!」
相手のパスカットによってピッチからボールが出た。
第四審判にすね当て、スパイクを確認してもらった遼太は主審に促され、ピッチに出た。
入部三ヶ月。とても早い公式戦デビューとなった。
遼太の技術は確かにチームの誰もが認めていた。
しかし、同時にこのデビュー戦では緊張で固まってしまうだろうとも思っていた。
そんな、不安は遼太のファーストプレーを見て誰もが吹っ切れた。
右サイドバックが持ったボールを受けるため、近づきパスを受けるのと同時にファーストタッチだけでまずマークに来た一人を抜き去った。
抜いて三歩ほどで左サイドハーフにスルーパス。それは、惜しくも合わず相手のゴールキックになったが、チームの遼太への信頼は深いものになった。
遼太が出場してからはまた欅ヶ丘ペースに戻った。
圧倒的支配率。常に相手陣地でプレイしているのにボールを取られない。
そんな中で一瞬にして空気が変わった。変えたのはもちろん、遼太だ。
散々回したところでいきなりドリブルを開始した。
シザースで一人を抜く。残すはセンターバック二人とキーパーが一人。
左サイドにロングボールを出すと見せかけまた一人を抜く。その勢いのまま股抜きでもう一人を抜いた。少しボールが足元から離れてしまう。いや、離した。誘いに乗ったキーパーはダッシュで前に出る。しかし、遅い。出てきたキーパーを嘲笑うかのように遼太はループシュート。
ボールはきれいにゴールに吸い込まれた。
三点目。
遼太は勝利を確信したガッツポーズをベンチに向けた。
桂木はベンチから立ち上がり喜んでいる。
「急げ!」
滝沢が叫ぶ。
しかし、遅かった。
ピッピッピーーーーーーーーッ
試合終了のホイッスルが鳴る。
欅ヶ丘中の三年生たちは大いに喜んでいる。
逆に相手校の選手達は堪えきれない涙を流している。
遼太は初めて中学サッカーというものを理解した気がした。
「蒼井!ありがとう」
大沢がそう言ってきた。
「いえ、そんな」
「次も頼むぞ!」
「は、はい」