天野 南
大会までの1週間はレギュラー組を中心としたゲーム形式の練習が多かった。
その中でも遼太はまたも魅せていた。
Aチームのディフェンダー三人を体に染み付いたシザースから重心でフェイントで抜き去る。さらに付いてきた三年生をルーレットでかわすと、キーパーの股間を抜きゴールを決めた。
抜かれた三年生、決められたキーパーは実に悔しそうな顔をしていた。
「おい、蒼井。もっとパス出せよ、1年のくせに…」
「グラウンドに立ったら1年も2年も3年も関係ありませんよ、自分がやれることをやるだけです」
遼太をこのようなプレーをよく思わない2年生が遼太のプレーにケチをつけてきていた。しかし、遼太は自身の正直な思いを伝え、練習に戻った。
そんなこんなで1週間はすぐに過ぎた。
明日からは三年生最後の大会だ。
「えー、明日からはついに三年生最後の大会が始まる。三年生は自身の最後の大会だ、精一杯頑張ってもらいたい。試合に出る者はこの学校の代表として、優勝目指して頑張ろう。そして、メンバー外になった者は精一杯の応援を選手に届けて欲しい、君たちの声がチームの力になる、では、解散!」
「あっした!」
ミーティングの最後に大きな声であいさつをし、今日は解散となった。
***
遼太は帰り道、石川など数名と帰っていたがやがて残り500メートルほどになると一人になる。
いつも、人気のない道を歩いていると遼太はすぐに違和感に気づいた。
(誰か立ってる…まぁいいか)
普段人一人通らないような道なので最初は困惑したが、道なのだから人がいて当たり前かと気にせず歩いていた。
徐々に大きくなるシルエットは見覚えのあるものだった。
遼太はそのシルエットまで5メートルほどになった時、彼女の正体に気づいた。
「天野…か?」
「え!?あ!蒼井君!?」
天野 南。遼太のクラスメイトであり、席が隣ということもあり、異性の中では今までで最も話した子だった。身長は152センチの遼太よりさらに10センチほど小さい小柄で特別痩せてはいないが、太ってはいない。肩に軽く着いた髪の毛は真っ黒でなく、少し茶色い。ルックスもまぁまぁで入学してから三ヶ月ほどで既に二回告白されているそうだ。
そんな天野が、どうしてここに。
「どうしたんだ、こんなところで」
「実はここの近所に春休み越してきたんだけど、まだ道があんまりわからなくて」
微笑みながらそういう天野は正直少し可愛かった。
「どこらへんなの?良かったら送るけど」
「え!?いいの?」
「どうせ、家に帰っても特別やることがあるわけでもないからな」
「ありがと、えっとファイブ・イレブンの近くなんだけど」
ファイブ・イレブンとは王手コンビニエンスストアだ。遼太自身近所なのでよく利用している。
「あー、あそこか。行こうか」
「あっ、うん!」
歩き始めた遼太に南も慌てて着いてきた。
「天野は何部だっけ?」
なんの話もしないというのも変なのでそんなことを聞いてみる。
「テニス部だよ!軟式の」
「テニス部も明日から大会?」
「そうだよ。応援しなきゃね、サッカー部も?」
「うん」
これでは話が途切れてしまうので、また何か話そうとしていると、南が「蒼井君ってサッカー上手いんでしょ?いいなー、サッカー上手いってかっこいい」
「そうかな、上手くはないけど」
「石川君が上手いって言ってたよ!」
また、無駄なことを…
その後も他愛もない話をしたいると、例のコンビニについた。
「今日はありがとね、蒼井君、お互い明日から頑張ろうね」
「あぁ、じゃあな」
別れてから遼太は真っ直ぐ家に帰った。