蒼井遼太の大きさ
歓迎試合の翌日からは早速厳しいトレーニングが始まった。
桂木が遼太達一年生に課した練習メニューはとにかく走ることであった。
日曜日は九時から練習を開始し、途中休憩を挟むが十一時まで走る。実際に走っている時間も90分ほどであろうか。
グラウンドの200メートルトラックを十周、2kmを途中の休憩を挟み四本行った。
そこでも、蒼井遼太は驚異の実力を見せつけた。
二位であった石川も決して遅くはない。三位とは半周ほどの差を毎回付けていた。
しかし、そんな石川に対して遼太は四本全てで約一周の差を付けてゴールしていた。
同学年の誰が見ても間違いなく、遼太の実力は頭一つ抜けていた。
石川も相当長距離に自信があったのだろう。遼太の速さに、まさか…といった表情で遼太を見据えていた。そんな石川は四本目が終わり10分ほどが経った今もぐったりとしている。
「ハァハァ…」
そんな疲れきった石川を他所に遼太は既にボールを蹴り始めていた。
これが蒼井遼太という男と他の一年生二十人との間に開いている「差」であった。
「あいつまじやばくね?」
「あぁ、中一の範囲超えてるよ」
「ここの中学にあんなのがいるなんてな」
なんていう会話が石川の背中に微かに響いていた。
(やばい?中一の範囲?)
「…よ、なんだよそれ!」
石川の突然な大声に先ほど話していた数名の部員が驚いて石川を見た。
「ど、どうしたんだよ。いきなり。お前も感じただろ、俺らとあいつとの差」
「そーだよ、この差は大きすぎるって」
くだらねぇ。
「差があるから何だってんだよ!俺はこの三年間で絶対あいつに追いつき、追い越す!あいつは今日から俺の目標だ!」
「う…」
数名は石川の熱い想い、言葉に喉が詰まった。
「へい!蒼井!」
なんだか、スッキリした石川は蒼井に声を掛け走り出した。
──まだ皆の言う通りこいつとの差は大きいかもしれない、だけどきっと…きっといつかこいつを抜いてやる!──
石川の顔には笑顔が溢れていた。
「おせーぞ、ほら」
遼太も笑いながら石川にボールを蹴り出した。
石川は内心で遼太の存在がこの欅ヶ丘中サッカー部を強くすると強く思っていた。