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男に出逢った

 社会人になったお姉ちゃんが、面白いゲームを見付けたからと言って私にも買ってくれた。


「エメも始めて私と一緒に遊ぼうよ。」


 姉も私も揃ってゲームが大好きな姉妹だ。


 そんな私は十六歳で高校二年生の川越(かわごえ) 碧光宝(えめらるど)キラリと光る名前の持ち主だ。

 姉の名前は翡翠(ひすい)とまだ普通だ。

 名前を(からか)われるのが嫌で自分で川越エメと名乗っているが、トメみたいで婆さんみたいとか言われる。

 個人的にはトメの方が良かったよと思っている。


 そんな名前ネタは良いとして、世間はゴールデンウィーク。

 私も時間が出来たので翡翠姉ちゃんに貰ったゲームを始めようとしていた。


 ゲームを起動した途端停電が起こったのか真っ暗になった、また再起動だよなんて思っていた


 ら、電気が消えた部屋暗さよりも視界が暗くなっていく。

 完全に真っ暗になって何かが可怪しい、完全な闇に怯える私。

 すると視界にゲームのインタフェースの様な物が現れた。


 登録名:エメラルド=カワゴエ 変更不可

 種族:人間 変更不可

 性別:女 変更不可

 年齢:16 変更不可

 メインクラス:選択▼

 初期スキル:選択▼

 出現地:ランダム 変更不可

 初期装備:無し 変更不可

 チュートリアル:無し 変更不可


 こんな物が表示された。


「なにこれあのゲームなの。でも何でゲームで本名なのよ。変更不可とか可怪しいじゃない。

 って言うか何で登録してない私の名前や年齢が分かるのよ。変更不可だらけで全然選べないじゃない。

 こんなゲームやんないわよ。終了よ終了。強制終了よ!何でよ何でゲーム終わらないのよ。」


 エメはその後も試行錯誤してゲームを終わらせようとしした。

 しかしこれがゲームではなく現実だと気付いていない。

 したがって終了なんて物は存在していなかった。


「何でよー。何で終わらないのよー。もう嫌だよー。お姉ちゃーん。」


 十六歳にもなったが子供の時の様に泣いてしまった。


 インタフェースの様な物に新たに表示が出た。


【カウント・ダウン】

 05:00・・・04:59・・・04:58・・・


「何でカウント進んでるのよ。・・・グズッ・・・これ決めないとメインクラスとスキル無しって事なの・・・。」


 少し鼻水が出てしまっているが、ゲーム脳がそれを確認している。

「取り敢えず先に決めて後で考えよう。」


 怖がりな癖に切り替えは早いと言う、案外いい(・・)性格をしていたのである。


「選択可能クラス多すぎじゃないこれ。単一のクラスにそれのバトル付きとマジック付きがあるのね。」


 どれにしようかと迷っていたが、刻々と時間が過ぎていくので(あせ)ってしまう。

 そしてメインクラスをマジックシーフにした。


「シーフなのに魔法が使えるって事でしょこれ。何か便利そうじゃない。えっと初期スキルは・・・この三つから選べって事ね。」


 表示されたスキルはファストムーブ・スウェー・危険察知。

 どうしようと迷っていると残り時間が一分を切った。


「移動は時間掛ければ良いし、スウェーは回避だろうし、危険察知があれば死に難いって事かしら。もうこれでいいや。」


 そう言ってエメは危険察知を選んだ。


 そして残り三十秒で何を考えろと言うのかと思いながら、何で名前が本名で他の自分の素性が


 知られてるのだと思っているとインタフェースの文字が薄くなりまた真っ暗になってしまった。



 しかし意識はまだ閉ざされない。

 真っ暗で不安だけが(つの)っていく。

 暫くすると意識がどんよりし薄らいでいくのが分かる。

 不思議な感覚だった。体が軽くなった様な不思議で初めての感覚。

 そして電源を切ったかの様にプツリと意識が途切れた。



 そして急に意識が戻った。寝てしまっていたのだろうか。目を開けると薄暗い場所だった。

 立ち上がり見廻すと辺りは岩場と言うより、これは洞窟じゃないかと思わせる雰囲気だった。


「どこよここ。ゲーム・・・の中?」


 そう思うと視界の端で何か■っぽいものが点滅している。

 そこを注視してみたが何も起きない。

 恐る恐るそこに指を合わせ触る様にしてみた。

 するとインタフェースが開き、さっき見たフォントと同じフォントで書かれていた。



【ご注意下さい】

 この世界での死は現実世界での死亡を意味します。

 死なない様に注意して行動しましょう。

 なるべく街や村の付近で、ある程度強くなるまで鍛錬しましょう。

 出現地ランダムの方は、初期スキルを駆使して街か或いは村まで行きましょう。


 ではこの世界をお楽しみ下さいませ。



「えっ・・・死・・・。ちょっちょっと待ってよ。どう言う事よこれ。始めに出現地も何も殆ど選べなかったじゃない。初期装備も無いし食料も無いのに生き延びろって、こんなのムリゲーじゃない。」


 エメはその場にへたり込みまたシクシクと泣き出してしまった。

 そんな時意識に干渉してくるかの様に、左の方から何な危険なものが近付いて来るのが分かった。

 泣きたいけど泣いてたら死んでしまうとそう感じれた。



 急ぎながらでも出来るだけ静かに逃げる様に右の方へ移動する。

 移動していると右の方にも、同じくらいに危険なものが有ると分かり進めなくなった。


「何よこれ進めないじゃないの。どっちに行けば出口なのよぉ・・・。」


 今頃気付いたが服装が部屋に居たままなのだ。

 足は裸足でキャミソールにショートパンツ、肌寒かったので薄手のパーカーに袖を通し羽織っていた。

 完全に場違いな服装だった。



 そして遂に前も後も危険だと分かる距離に追い詰められ、どっちにも行けなくなってしまった。


「もうどっちにも行けない。死にたくないよー。」


 そういった途端前の方から、僅かだが明るい何かが近付いて来る。

 その姿が見えた。人影だ誰かが灯りを点けてやってくる。


 ギリギリまでここで待って、危険を回避して辿りつけたら助けてくれるかも知れない。

 そう思ったのも束の間、明かりに灯され危険な物の正体が分かった。

 異様に大きな蜘蛛だった。これでもう気付いた此処は私の知っている地球では無い。

 これは空想小説とかにある"転移"と言う物だろうか。

 そう考えていると、 1メートル以上ある蜘蛛が此方に向かって来ている。

 すり抜けられなかったら死ぬかもしれない。大声で呼んだ方が良いかもしれない。

 そして蜘蛛は完全に私の姿を捉えていた。


「お願いーそこの人!たーすーけーてーー!!」


 明かりに照らされた人影はハッとし身構えた様に見えた。


「ここまで来れたんだろ自分でなんとかしろ!」


 何とも冷たい返答だった。


「武器も何もないのよー!気付いたらここに居たのー!たーすーけーてー!!」


 くっくっくっくっと何故か笑い声が響く。


「お願いですーーー!何でもしますーーー!助けてーくださいー!!」

「ほう、何でもするのか助けてやろう!」


 男の声に何でもすると言われハッした。

 ヤバいマジでヤバいかも知れない。

 でも死ぬのはもっと嫌だから・・・ああああ・・・もうどうにでもなれ。



 男と明かりが移動したと思ったら、蜘蛛から凄い鳴き声の様なものが聞こえた。


 グギイィィィィーーー!!!

 ギィィィーー!!


 そう思ったらもう男が蜘蛛の傍に来て、剣らしきものを振リ抜いた。

 その場に居た蜘蛛が掻き消えていった。

 男は何かを拾ったあと、こちらに歩いてくる。


「ほうほうほう、これは中々。変わった格好してるが可愛いなお前。何でもするって言ってたな。」

 そう言われビクっとし少し下がった。


「お前俺の嫁になれ。」

「はあー?」

「聞こえなかったか、嫁になれって言ったんだ。命助けて貰ったんだ安いもんだろ。嘘でしたって言うなら今ここで俺が殺してやっても良いぞ。」


 そう言ってこの男は武器を抜いた。

 後にもまだ危険が迫る中、前にもまた新たな危険が訪れた。

 命の危険か体の危険か選択肢は有る様だが。


「待って待って、私は死にたくない。」

「なら俺の嫁になるしかないなあ。俺が居なかったら死んでたよなーー。」

「そうだけど、他のものじゃ駄目かな。」

「駄目だ、ここで蜘蛛に食われて死ぬか嫁になるか選べ。」

「蜘蛛に・・・?」

「そうだお前を捕まえて蜘蛛の前において俺だけ逃げると言うわけさ。そしたら死体も残らんだろ。」


 選択肢なんて初めから無かったらしい。

 あのインタフェースもそうだったが選択肢が無さ過ぎる。

 暗がりで更に顔を隠している男相手に、その選択しか無いと言うのだ。


「わ…分かりました、もう何でも良いです何でもします、嫁でも何でも好きにして下さい。」

「何だお前・・・心でも折れたのか。」


 返事をする気も起きない。心なんて捨てれるなら捨てたい、そう思った事は初めてだと思う。


「まあいい、取り敢えず余ってる靴あるからこれ履けよ。」


 なんか革っぽい靴だ。無いより良いと思ってたらサイズが大きい。

 仕方ないと思って履くと、自分の足の大きさに靴が変化した。



「俺はもう目的の物採ったから洞窟でるぞ。ところでお前名前は何て言うんだ。」

「・・・カワゴエ・・エメ・・・。」

「お前嘘付いてるな。俺はそういうのが分かるスキル持ってんだよ。もう一度言う名前は何だ。」

「カワゴエ エメラルド・・・。」

「まだ嘘つくか、若しかして俺を安心させて近付いたどっかの刺客か。」

 そう言うと男はまた武器を抜いて、こちらに向ける。

「嘘じゃないよ。本当にカワゴエ エメラルドって言うのよ。」

「よっぽど死にたいのか俺が舐められてるのか・・・この状況で丸腰がいい度胸だな。」


 ・・・そういえば登録名が姓名が日本式ではなく、逆になっていた事を思い出した。


「あ、エメラルド=カワゴエよ。」

「これは本当らしいな。ところでお前は俺を舐められるくらい、クラスレベルが高いのか。」

「クラスレベル・・・?」

「お前記憶でも無くしてんのか、それともボケてるのか。」

「ああメインクラスね。」


 そうしてメインクラス・メインクラスと意識していると、またインタフェースが出て来た。


 メインクラス:マジックシーフ

 メインクラスレベル:1

 サブクラス:無し


 と表示されている。


「メインクラスはマジックシーフでレベルは1よ。」

「お前巫山戯(ふざけ)てんのか。クラスレベル1で何でこんなとこまで来れるんだよ。」

「私が知りたいわよ。気付いたらここに居たのよ。」

「まあ嘘じゃないみたいだな。」

「俺の嫁になるんだ嘘付いても仕方が無い。俺はマイノール=リンゲント歳は二十三でバトルハンター[6]だ。呼び方はマイノールでもマイルでもいいぞ。」

「偉そうに言ってて1と6って大差無いじゃない。」

「お前本当に記憶無いのか。最大10の内1と6の差は大差だと思うがな。」

「最大10・・・?」

「一部記憶は有るようだが、肝心な部分が抜け落ちてるな。今後お前の記憶は無いものとして話するぞ。」



 取り敢えずこの洞窟を出ると言う。

 食料が二人分必要になったから急いで帰ると言う。



 そして帰り道やたらベタベタ触ってきたり、肩を組んで来たり腰に手を回してきたりした。

 ふんふんふんと鼻歌交じりで機嫌は良さそうだった。

 そんな事を思っていると、遂にやりやがった。

 肩組んでると思えば、服に手を入れ胸を揉んで来たのだ。


「ちょっ何してるの。やめっ・・・。」

 マイノールの力は強く引き離せない。それを良い事に揉んだり触り続けたりしている。

「やめ・・・て。」

「少し大きめで良い大きさだな。」

「・・・・・あっ・・・はぁ。」

「このくらい良いだろ。これも駄目だと言うなら置いていくぞ。」


 そう言って手を引いた。

 置いてくと言うのは完全に脅しだ。

 私がここで戦っても、勝ち目がないと理解して言っている。

 スケベオヤジめと思いキッっとマイノールを睨むと、くっくっと笑っている。


 そして洞窟を出るとマイノールは顔を覆っていた装備を外す。

 その顔を見て驚いた。凄いイケメン・・・と言うか完全に自分のタイプの顔だった。

 でもスケベオヤジと言うのが脳裏に有る。


「珍しいな黒く長い髪に黒い目か、綺麗だな。改めて見て惚れ直した。」


 惚れ直したって言ったよね。若しかしてこいつ私に一目惚れでもして嫁になれとか言ってたの。

 って流石にそれは自惚れか。


「いや実はよ、洞窟の薄明かりで見た時に一目惚れだったんだ。そして今また惚れ直した。」


 実に正直な男だった。


「本当に一目惚れとか。一目惚れする人初めて見たわよ。」

「ヘッヘッヘッ。エメラルドお前本当に可愛いな。お前が拒まない限り守ってやるからな。」

「エメラルドって呼ばないでこの名前嫌いなのよ。」

「じゃあエメラでいいか。」

「それならまあ・・・いいわよ。」

「じゃあエメラ、こんな出会いだったが今後もよろしくな。それと(たま)には触らせてくれ。」

「一言多い!まあこっちもよろしくねマイノール。それと助けてくれて有難う。」



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