下着一枚の男
新連載です。
他連載も有る為、更新は不定期になります。
ここは西大陸にあるドルマン王国のとある辺境の村付近。
そこで魔物と戦う一人の男の姿が有る。
ボーラーと言う魔物と戦っている男は下着のみで、太めの木の枝を武器として戦っていた。
何故裸同然かと言うと、昨晩村で暴飲暴食した挙句村の外までフラフラ歩きそこで寝てしまったのだ。
普段ならそんなミスをしないが、泥酔した結果そのまま寝た様だ。
そして爆睡しているところを、追い剥ぎに全てを持って行かれた。
残っていたものは薄汚れた下着一枚。
「どうしろって言うんだよ、こんな木の枝でよっ!殴っても殴っても倒せやしねえ。」
独り言を言いながらボーラーの攻撃を躱しつつ殴りまくる。
見回りの自警団が近くを通ったが、かなり余裕のある戦いなのでその姿を見て笑っている。
「見ろよ裸の男が棒きれ一本でボーラーと戦ってやがるぞ。」
「ホントだ、頑張れよー!」
ゲラゲラと男を見て笑う。
「笑ってるなら助けろよ。」
「見た感じ時間掛かるだけで倒せるだろ。」
「ところでお前追い剥ぎにやられたんだろ。昨晩注意しろよって忠告してやったのに。」
「そうだよ、全部持ってかれたよ。」
「しかし余裕あるなお前。喋りながらなのに全部躱してるじゃねえか。」
「こんな雑魚なら当たり前だろ。」
そうして木の棒で突きを加えるとボーラーが掻き消えた。
「やっと終わったぞ、コノヤロウ。」
「おつかれさん。」
「面白い物見れたから俺らと自警団の詰め所まで来いよ。ボロい服とボロい武器だがやるよ。」
「裸同然よりは良いだろ。」
「助かる、無いよりは遥かに良いな。」
村の自警団の詰め所にこの二人と話しながら戻る事になった。
「ところでお前、名前は何て言うんだ。」
「俺か、俺はだなマイノール=リンゲント。バリアルスから来たんだよろしくな。」
「随分遠くから来たんだな。だが戻れば武器や装備はあるんだろ。」
「戻れたらな。」
「そりゃそうだ。ハハハハハ。」
「森を超えるのが大変だな。」ハハハハハ。」
「他人事だと思って笑いやがって。」
「自業自得だろ。」
「そりゃそうだ。ヘッヘッヘッ。」
結局自分でも笑ってしまった。
マイノール=リンゲント、年齢は二十三歳。
髪は赤茶色で瞳は茶色、確り筋肉は付いてはいるが細身で、背丈は184センチ。
防具から出てる部分は健康的な日焼けをしているが、防具に隠れていた部分は結構色白である。
バリアルスの街を拠点とする、冒険者兼傭兵兼・・・兎に角何でも屋みたいな男である。
金さえ貰えれば善とか悪とか関係無く仕事を受ける。
メインクラスはバトルハンター、クラスレベルは6。
サブクラスはシャドウとビルダー。
クラスは単一系特化型・バトル系・マジック系等の20種類以上ある。
この世界の殆どの人は単一系を選ぶ。
無難だからである。それに特化しているから苦手な部分だけ補ってやればいい。
複合系は器用貧乏と思われがちで、あまり選んでいる人が居ない。
レベルとは何かって?
この世界には色んな物にレベルが存在している。
クラスレベル・スキルレベル・技術レベル・冒険者レベル・傭兵レベル・・・etc...
誰しも例外なくメインクラスが有り、サブクラスの登録は自由制になっている。
サブクラスは三種まで登録可能で、登録すれば死ぬまで変更は出来ない。
レベルの確認は意識すれば分かる。そうとしか言えない。
生まれてこの方、それを可怪しいと思う事など無い。
俺は今回はの辺境の村ディリの近くにある、廃坑で採掘と森に採集に来た。
遠く森林地帯を越えなければならない、と言う理由から冒険者に依頼された仕事だ。
楽な仕事の割に金が良かったから受けたんだが、色々盗まれて大赤字だ。
討伐依頼じゃないから安い装備しか持って来なかったのはまだ救いだ。
そして自警団の詰め所に着いた。
「残り物だからいい物はないからな。」
「そんな事ない、一文無しには十分だ。」
「防具は靴以外は余ってなくてな、革の靴とボロ着だ。」
「助かったよ。」
「武器はこれだけ有る好きなの選んでくれ、先に行っておくが一つだからな。一応は俺達の予備武器だからな。」
「分かってるさ。」
そう言って俺はアイアンロングソードを手に取った。
「ロングソードか。リンゲントはウォーリアかソードマンなのか。」
「いやバトルハンターだ、長めの武器が好きで使い慣れてる。」
「バトル系か珍しいな。」
「よく言われる。それとな予備武器なんだったら確り手入れしといた方が良いぞ。」
「分かってるけど面倒なんだよ。」
「よし、じゃあ武器の礼だ。俺が手入れしてやるよ。こう見えても慣れたもんだぜ。」
「マジか、じゃあ俺の武器も頼むわ。」
「数増やすなよ・・・、まあいい後で取りに来いよ。」
そして俺は詰め所の倉庫で、予備武器の手入れを夜まで掛けてする事になった。
昼過ぎにさっきの気の良い自警団員が武器を取りに来て、綺麗に手入れされた武器を眺めて嬉しそうにしていた。
夜になった頃全てを終わらせ、その事を報告すると俺の家に泊まれよと言う。
有り難いのでその申し出を受け入れる。
武器の手入れをしてやった男の名は、ラインド=ロデインと言いラインドと呼んで良いぞと言われた。
ラインドの家で夕飯と酒をご馳走になり寝床も貸して貰った。
しかし俺は依頼が有るのでツルハシを何処かで借りられないかと尋ねると、ラインドが持っていた。
「ラインド後日そのツルハシを借りていいか。」
「返してくれるなら良いぞ。」
「壊れない限り返せる筈だ。」
「じゃあ壊さない様に、無事に返してくれるなら良いぞ。」
「分かった。極力考慮する。」
「普通に使えば、まず壊れないだろ。」
「「はっはっはっはっ。」」
「俺は暫く魔物を倒して金を稼ぐ事にする。」
武器防具屋で、ある程度装備は整えたいからだ。
このディリの近くの廃鉱は少し強い魔物が出る。
駆け出しの冒険者なら、先ず生きていけない程度の強さだ。
ここが廃鉱になった理由は、この魔物が出る様になったのが原因と聞いた。
ディリの周辺はそこまで弱くもないが、俺からすると弱い魔物しか居ない。
アイアンロングソードしかないが、武器があれば余裕でに倒せる。
昨日木の棒で戦ったボーラーやミングーやホイットンを探して倒しまくる。
ボーラーは俺の背丈の半分くらいの亜人系魔物。
ミングーは昆虫系魔物、ホイットンは獣系魔物になる。
昨日出逢ったのがミングーだと木の棒だと甲殻弾かれる。
最悪素手で戦えばいいしな。
こう言う時にバトル系は助かるのだ。
兎に角使える武器が多い上、素手でも多少なんとかなる。
俺が普段使っている武器はワイドシミターとショートボウなんだが、ワイドシミターは特注品だ。
普通のシミターは身が細いのだが、俺の使うものは幅広のものを好んで使う。
それなりに重量が増してそれが使いやすいからだ。
俺を知る奴等は変わり者だと言う。
朝から晩まで魔物を狩り過ぎたので、村の回りでは出遭わなくなってしまった。
また数日すれば何処から来るのかまた湧いてくるんだけどな。
野生動物はその場に死骸が残るが、魔物は倒すと死体が残らず掻き消える。
そして偶に素材になる物がその場に残る。
それが何故なのか何て誰も考えない。世界中の人がそう言う物だと言う認識しかない為だ。
ラインドに借りてきた素材鞄をパンパンにして帰るとラインドが、
「リンゲント、どんだけ倒して来たんだ。」
「リンゲントじゃなくて良いぞ、マイノールだから好きに呼んでくれ。」
「じゃあ親しみも込めてマイルでいいか。」
「いいなマイルでいこう。」
「魔物はディリの近郊はもう出逢わなくなった。また数日したら出て来るだろうよ。」
「おいおい、全部で100匹以上居ただろう。」
「居たかもしれんが覚えてないな、ヘッヘッ。」
「マイルお前結構強いんだな。あまり聞くのは良い事じゃないと分かってるが気になったんだ。バトルハンターのレベル幾つなんだ。」
「内緒だぞ、レベルは6だ。」
「なっ、6ってお前!」
「声がデカい。」
「すまん。驚いて、つい・・・な。」
「この辺じゃ3ですら滅多に居ないんだ。俺はランサー2だしな。」
「6なんてな、まだまだ中堅をちょっと越えたくらいさ。」
「しかし5を超える前に死ぬ人の方が多いと聞くぞ。」
「それは身の丈に合わない仕事を、無謀にも受ける奴等が多いだけだ。」
「クラスレベルなんて物は飾りだ。スキルの種類とレベル・サブクラスが重要だと言うのに分かってない奴が多過ぎるんだ。」
「スキル何て普通の攻撃とあまり変わらないだろ。」
「スキルレベル3・4くらいまではな。でもずっと使ってると、変化が分かるくらい変わってくるぞ。」
「例えばマイルはどんなスキルを使ってるのか、参考までに教えてくれないか。俺は少しでも強くなりたいんだ。」
「ラインドには恩があるからな。良いぞ教えてやる。
俺は近接で二種・弓で三種・しか持ってない。」
「俺でも六種もってるぞ。」
「スキルはあれば良いって物じゃない。補助スキルはそれなりに持ってるが、近接スキルはサブスキルを応用した影斬り[7]とぶち壊し[8]の二種だ。これだけで殆どの敵に対応出来る。」
「スキルレベr・・・ル。高すぎだろ。」
「この二種しか使ってないからな。なんでも良いから一つに絞って使ってみるんだ。
そしてそれが上がってきたら二種にして使い分ける。そうやってスキルレベルを上げろ。基本的に俺は他人に教えないが今回は恩があるしな。」
「俺でも強くなれるんかな。」
「あとは自分次第で、身の丈にあった事をやるんだ。でないと死ぬぞ。」
「明日から頑張ってみるわ。」
「おう、頑張れ。」
翌日になり素材屋に昨日見付けた素材を売り払い、武器防具屋で防具を買った。
辺境のディリではそれ程いい物は無いが、それなりの装備は買えた。
ミグットンアーマー:ミングーの甲殻とホイットンの皮で仕上げた軽めの鎧
ミグットングローブ:同上で小手。
ミグットンシューズ:同上で靴。
完全に特産物化している様だ。
しかもミングーとホイットンと思えない程の丈夫さがある。
皮革防具の部類になる様だ。
脚の防具が売ってなかったので、服屋で丈夫な黒いズボンと背負い鞄と腰巻き鞄を買った。
あとブラックアーキーシミターが売っていた、しかし持ち金が足らず少し金を預け取り置きを頼んだ。
どうやらシミターを使う人なんかこの辺りに居なかったらしく、仕入れたは良いが数年売れてないらしい。
ブラックアーキーと言うのは黒い鉱石のアキリジアを使った武器の総称だ。
まさかディリに売ってるとは思ってなかった。
今日は少し足を伸ばして、離れたところに居る魔物を狩りに行く。
狙いはティージアント、こいつの甲殻はそれなりの価格になる。
ラインドがレベル2と言っていたので自警団ではティージアントはまず狩らないだろうから、ここでの相場はそれなりに高いはずだ。
ティージアントは1メートルくらいある大きな蟻だが、群れない蟻だから狩りやすい。
探しているのだが他の魔物ばかり出逢う。
陽が高くなった頃やっと一匹見付けた。
硬くない魔物は影斬りを使うのだが、ディージアントはそこそこ硬いのでぶち壊しを使う。
このスキルは便利で、敵の防御を崩し防御力自体も削れる。
そこに斬撃を乗せて斬るのだ。
ぶち壊しは元々戦闘スキルでは無かった。
ビルダーの解体スキルなのだが、ぶち壊しが[3]を超えたら攻撃にも使えるようになった。
そしてあまりにも便利だから長く使っている。
あとは柔らなくなったディージアントを影斬りで倒すだけだ。
この影斬りは自分攻撃と同じ物を、追加で自分の影や相手の影や建物や自然物のあらゆる影から攻撃を出せる。バトル系とシャドウの複合スキルだ。
洞窟などの完全な影だと、どこからでも攻撃が出せる優れ物だが欠点も有る。
柔らかくなったディージアントをバターの様に斬り裂く。
今回は素材が出なかったが、これを暗くなり始めるまで探して倒す。
そして小物の素材とアントの甲殻を幾つかを土産としてディリへ戻り素材屋へ売りに行く。
やはり結構美味しい売価だった。しかしまだ買える金額じゃない。
翌日も翌々日も同じ事をし金を貯め、やっとブラックアーキーシミターを買う事が出来た。
ワイドシミターではないが、ロングソードよりは随分使い易い。
そしてラインドにアイアンロングソードを返すと言ったら、武器がなくて困ってる奴がいたらそいつにくれてやれば良いと言う。
そんな奴滅多に居ないだろうと言うと、俺は最近見たぞって笑われた。俺の事だな。
そしてその夜もラインドの家に泊めて貰い、翌日乾物等の日持ちのする食料を買って廃鉱に出掛けた。