第一幕ーBlack and white+男装(2)ー
続きできました。
ー5分後
「着替えました……」
ゆっくりと、怯えるように優は言い、部屋に入ってきた。その姿に、杉野は驚いた。
(予想以上だな……)
男性では真似のできない華奢で小さな肩、それでいてしっかりと腕や足には筋肉がある。服を着ていても、はっきりと分かる。
「僕の想像以上だよ!理想の遥か上!……これぞ"母性をくすぐる頼りないけどいざとなったら頼りになるギャップ男の娘"だ!」
杉野は興奮ぎみに熱弁する。しばらく続きそうだ…
「僕の目に狂いはなかったよ!こんなに僕の求める形を実現してくれた人は初めてだ!…サイズもピッタリだし、大丈夫だね!後は歌のレッスンと、その体型を維持するためにコーチも……」
途中で、バタンと大きな音を立てて、ドアが開いた。
「きーちゃーん!今日のお話はなんですかー!!!」
入ってきたのはやたら元気なさわやか青年。BWメンバーの一人、白川 昴だった。だが、テレビで見ていた時とは違い、まるで小さい子どものようだ。白川は優を見つけ、不思議そうに首を傾げた。
「?その子、誰?着てるの今度"みゅーじっくいーん☆"の収録で着る衣装だよね?なんで?」
杉野は分かりやすくもったいぶって、「さて、なんででしょうかねーー?」とニヤニヤしている。そこへまた、人が駆け込んできた。
「おっま……昴!急にいなくなりやがって………人を待たせておいて、おいてく、とか……はあ…」
(…!黒田…!そうだった…!)
息を切らしながら、白川を睨む黒田。白川は少し申し訳なさそうに、
「ごめんごめん!トイレ出て、ちやちゃん見当たらなくて…先に行っちゃった?とか」
「お前の目はなんのためについてる?トイレの前のスペースにいたろ。本棚あるとこ。」
「ごめんって……気づかなかったんだよぉ……」
しょんぼりと肩を落としたかと思うと、すぐに立ち直り、優を指差した。
「あ、そうそう!あの子、何者だと思う?ちやちゃん。」
指差された方向を向き、黒田は優の存在に気づく。そして、何か思い詰めたように優をじぃっと見つめてきた。
「あ……えっと、わ、俺?は…」
なんとか説明しようとしどろもどろしていると、突然黒田がああっと声を挙げ、口を大きく開けた。
「お前、同じクラスメイトの凡人女子だろ!!?…どうしてここにいる?その格好はなんだ!……全てを説明してもらおうか、城ヶ崎。」
白川は意外そうに、「え、ちやちゃんの知り合い?なーんだ!」と言い、黒田は「なんだじゃないだろ…!」と突っ込みを入れる。
(どうしよう…)
私は元々やりたくて承諾した訳じゃないし、他から見れば凄く不純な動機だし、どう説明したらいいかわからなかった。それに私には、大きな問題点がある。
(「お前、同じクラスメイトの凡人女子だろ!!?」)
女子である、ということ。ここはどうにもできないが、かといって認めない訳にはいかない。否定しても無駄だし、ここで歪みを生めば、イチハは私から離れていってしまう…
杉野は何も言えず固まる優を見て、すかさずフォローに入る。
「…ええとね、この子は確かに、女の子だよ。でも、僕が選んだ人材だ。"彼女"を、"BW のメンバー"として受け入れてほしい」
「……ですが、BWは、男性アイドルグループです。まして、男のフリをしてメンバーに入れるなんて…もし、できたとしても、ばれたら終わりです。それはやってはいけないことです、たとえ、清高さん、あなたであっても。」
黒田は、正論で対抗する。よく考えなくても、おかしいってことは誰にでも分かる。だが、杉野は動じない。
「千夜くん、キミは勘違いしてるよ。」
「…?」
「僕は一言も、彼女を女であることを隠してBWに入れる、なんて言ってないよ?」
「!?」
優も驚いた。てっきり、男のフリをして、BWメンバーとして入るとばかり思っていた。なら、なぜ男装をする必要が…?
「おい、俺らを抜いて話し進めんじゃねーよ」
いつ入ってきたのか、目付きの悪い、不良のような男が発言した。…御劔 紫音。設定は"強引な俺様王子"…だとかTVで言っていた気がする。王子というより、本物のヤンキーっぽいが。その後から、ぼんやりとした目の"添い寝の貴人"こと夏敷屋 六、冷静沈着な"インテリ系眼鏡男子"久能木 仁が続く。
「ねぇ……その人女の子って、ほんと?」
「そうらしいですね。社長の言うことですし、本当でしょうね。」
それを聞くと、御劔がぐっと額にシワを寄せた。彼の周りに、ごごごごごごご……という文字が見える。
(や、やばい!ヤンキーを怒らせた!どど、どうしよう、ほんとどうしよう…!)
「…ま、いーんじゃね!面は良いし、最近男装流行ってるって、紫杏も言ってたし。そいつ、新メンバーだろ?女だろうが、俺は気にしないしな。」
ニッとさっきの雰囲気とはガラリと変わり、「よろしくな!」と手を差し出した。訳のわからないまま、その手を取った。
(あれ?意外と…………いい人?)
白川も、それに乗った。
「俺もいいよ!だって、仲間が増えるってうれしーじゃん!」
黒田は驚き、「なっ…………お前、こいつは女だぞ!?よく考えろ!」
久能木も頷き、「そうですよ。仲間が増えるのは大歓迎ですが、女性となれば、問題も避けられないでしょうし。」
進んでいく話についていけず、固まっていると、体が急に宙に浮いた。
「あ、この人、ちょうどいい大きさ……気に入った…」
「!?」
夏敷屋だった。メンバーの中で一番背が高く、優はそんな彼の肩の上に乗せられ、片腕で支えられていた。
「え?!えっと、下ろしてください!」
叫ぶも、反応なし。
「あー、そいつ、なんか前猿飼ってたらしくて、いっつも肩に乗せて寝てたから、似たような大きさのもの乗せると、寝ちゃう……ぶふっ」
耐えきれず、御劔は吹き出した。そして、机の上に置かれた書類を見る。
「城ヶ崎 優…かっ…………背えちっさ!父親に甘える子どもか!!!ははは!ぶくくく…………」
優はその発言にムカッときた。事実ではあるが、そんなに笑われては自分が恥ずかしい。高校生にしては明らかに小さい、149センチの身長。しかも、猿や子供と同じ扱いをされるなど、屈辱だ。
「うーん………夏敷屋君がお気に入りなら、反論しづらいなあ。こっちが殺されかねない…」
難しい顔をして、久能木が言う。御劔も、
「あー、六って、好きなものとか否定されると、すげー怒るもんな。その上力強すぎるから、ケンカしたら半殺しになる。」と、経験したかのように笑いながら言った。
「保身のため、賛成することにします。」ため息をつきながら、久能木が言った。
「まじかよ……皆、おかしいんじゃないのか……」反論する人がいなくなり、黒田は困惑する。
杉野はそんな様子を見て、「それじゃ、多数決でokってことだね?ま、反対されても入れるつもりだったけどね、僕は。じゃ、そーいうことで。新人ちゃんをよろしく☆」と言いながら部屋を出ていった。
(こ、この状態で一人にしないでよ…!杉野さん……………!!!)
しばらく、室内が静まり返った。重苦しい空気が、優を潰しそうだ。耐えきれず、
「わ、俺?僕?かな…………ふつつかものですが、よ、よろしくお願いします。」
最初に返したのは、御劔だった。
「まー堅っ苦しいのはナシでさ、設定をどうにかしようぜ。ブレブレだぞ。」
続いて、久能木。
「そうですね、キャラは大事ですよ。やるからには徹底的に。優さんなら、"僕"の方がいいかと思います。」
優が喋る間も与えず、今度は寝ていたはずの夏敷屋。
「…俺は"俺"がいいと思う…みんなと…お揃い…嬉しい…優は、どっちが…いい?」
「と、とりあえず下ろしてもらえませんか…?」
ん、と頷き、ゆっくりと、下ろされる。なんだかようやく落ち着いた気がした。黒田はまだ納得がいかず、ずっと黙ったままで、動かない。優はビクビクしながら、声を絞り出す。
「あの……黒田さん……よろしくお願い……」
「やめろ!!!!!」大声で黒田は怒鳴り、近づいてきた優をつき倒した。すぐに我に返り、「すまん」と一言謝って、部屋から出ていってしまった。白川は申し訳なさそうに、
「ごめんね、なんかちょっと難しいやつでさ。まあ、なんとかわかってくれるよ。じゃ、これからよろしくねー」
優は「はい」と小さな声で言うのがやっとだった。……黒田を、怖いと思った。でも、分かり合わなければやっていけない。そう分かっていても、黒田を追いかけるほどの勇気は、自分にはなかった。
ちょっとキャラ説明。
黒田 千夜ー16歳。身長181cm。キャッチコピーは"皆のイケメンお兄さん"。BW初期メンバー。
白川 昴ー16歳。身長175cm。キャッチコピーは"アイドル先輩"。
御劔 紫音ー17歳。身長169cm。キャッチコピーは"強引な俺様王子"。
夏敷屋 六ー19歳。身長196cm。キャッチコピーは"添い寝の貴人"。
久能木 仁ー18歳。身長178cm。キャッチコピーは"インテリ系眼鏡男子"
城ヶ崎 優ー16歳。身長149cm。キャッチコピーは"母性をくすぐる頼りないけどいざとなったら頼りになるギャップ男の娘"。ただし、仮。
杉野 清高ー27歳。身長176cm。敏腕若手社長。ノリが軽い。
…見にくくてすみません。続きます。