第一幕ーBlack and white+男装ー
書けました…!第一幕は分割します
…まさか、こんなのに捕まるとは……
私の名前は城ヶ崎 優。正真正銘、女である。そして今、私が立っているのは……
『アイドル育成事務所 スターマイン杉野』。
Black and White が所属する、有名事務所。ここで生まれたアイドルは、必ず売れると噂がたつほどた。現に、スターマインに所属している2人組の実力派デュエット"K_enter"、12人の演技が魅力の"ステージア12"は、世界でも活躍している。ただし、ここに所属するのは全て男。規制がある訳ではないが、事実上男性アイドルグループの事務所となっている。
そんな場所に、女の、しかもマネージャーでもなんでもない一般人。実に、アンバランスな組み合わせだ。
優は事務所の控え室と思われる所で、パイプ椅子に座らされていた。落ち着かず、周りを何度も見回した。そして、机の上に置いた名刺を眺める。
『アイドル育成事務所 スターマイン杉野 社長 杉野清高』
プロデューサーだのマネージャーだの言っていたが、社長だったとは…………道理で、雰囲気が普通でないはずだ。まだ見た目若そうなのに、率直に凄いと思った。だが、
(私の出会いを邪魔しやがって…………!さっさときっぱり断って、イチハに会わないと…)
ここへ自分を連れてきた杉野を恨みながら、険しい顔で名刺を机に押し付けた。
「キミ、見た目に似合わず恐ろしい子だねー。僕だって悪いけど、少し付き合ってあげるってのが、大人の対応だよ?」
「!杉野……………さん…」
いつの間にか、ドアの前に優の恨み相手が立っていた。腕を前に組んで、いかにも偉そうである。優ははっとして、
「じゃなくて!本当に無理ですから!帰らせていただきます!」
席を立ち、必死に訴える。だが、杉野はにこにこしているだけだった。
「それは無理だよー。もう決定事項だしねー!」
「そっ……そんなの、無効です!」
「そこにも書いてあるでしょ。僕は社長。最終的な決定権は、キミじゃなく僕にある」
「そんな……」
意味がわからない。なぜ、私がこんなことをしなければいけないのか。しかも、決定事項だなんて……ありえない…この男は確実におかしい。目の前の現実を受け止めきれず、へなへなと床に崩れた。
「それでも……私は、やりたくないです………お願いですから、解放してください……」
杉野は、これは困ったという顔をしている"フリ"をして、話しかける。
「じゃあ、これならどうかな?」
優は呆れて、大きく溜め息をつき、相手を睨む。
「しつこいですよ。何を言われてもできー……………………あ!!!!!!!!!」
杉野の腕の中には、優が愛して止まない、シンデレラボーイスカウトの槙丹 イチハのグッズが溢れんばかりに。シングルにキーホルダー、そして…数量限定のお家モードイチハ抱き枕!!!!
「ふっふっふ~…僕、人の好みとかすぐわかっちゃうからねー!…もし、BWに入ってくれるなら………」
優はごくり、と唾を飲む。「なら……………?」
「キミにこのグッズ全てをプレゼー」
「どうぞ末長くよろしくお願いします!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ー拝啓、お母様、お父様。
私、城ヶ崎 優(♀)は、欲に負けて男装アイドルをすることになりました。
「ねーね、ちやちゃん?」
千夜は慣れ親しんだ声に呼ばれ、振り返る。「なんだ。それとちゃん付けいい加減やめろ」
「別にいいじゃん!昔からそう呼んでるんだし!」
そう言うのは、幼馴染みで同じBWメンバー、白川 昴だ。こいつは昔からお気楽で、自分勝手な奴だ。
「変装してても、バレるもんはバレるんだから、気を付けろよ、昴。」
注意しても、ヘラヘラしていて聞く耳を持たない。なぜこんなのと幼馴染みなのか、今でも謎だ。
「へーきだって!だって車の中だよ?気にしすぎだよ。相変わらずちやちゃんはオカン気質だなあ」
「黙れ。大事な顔に傷つけてやろうか?」そう言って拳を握る。
「あー、ごめんごめん!それだけはー………あ、もうすぐ着くよ!というか、急にきーちゃん直々の呼び出しってなんなんだろうね。しかもメンバー全員だよ?」
騒がしい幼馴染みに適当に対応する。
「さあ?誰か抜けるんじゃねーの。というか、社長に変なあだ名つけるなよな。」
昴はびっくりして、「そんな縁起でもないこと言わないでよー、俺、そんなの絶対やだし。」
千夜は大真面目に冗談を受ける昴の様子を見て、吹き出した。
「ぶふっ………おまっ………ほんと、マジバカだな。」
「な、なにおーーっ!?」
「ほら、着いた。降りるぞ。」
人目を気にしながら車を降りる千夜とは対照的に、思いきり「とうちゃーく!」と叫び降りる昴。昴に意味のない注意をし、事務所に入った。
(まあ、昴の言うことにも一理ある。清高さんが直々に俺らを呼び出すことなんて、滅多にないんだが……やっぱ、なんかあったんだろうな… )
「ちやちゃーん?おいてっちゃうよー?」エレベーターの前で、昴が叫んだ。
「そんな大声出さなくても聞こえてるし…」
(考えたって、何か分かる訳じゃないよな…)
少し小走りに、エレベーターに乗り込む。3階のボタンを押し、スマホを取り出す。
『今、着きました。昴と一緒です』メッセージを出してすぐ、ラインの音がした。「ok」と短い返信が来る。続けて、
「今日はお楽しみだよ♪いえーいv」
社長のこのノリは、嫌な予感しかしない。失礼ではあるが、文面が女みたいで気持ち悪かった。
(とりあえず、用心しておこう……)
「いやー、承諾してくれてよかったよ!」
「言っておきますが、イチハのためですからね!!」
優は興奮気味で相手に返事をする。抱き枕をしっかり抱き締めて。
「じゃ、これ着てみて。」
差し出されたのは明らかに男性用の衣服。気が引けたが、イチハのためなら仕方がない、と腹をくくった。
「あ、その前にメイクか。ちょっとじっとしてて。キミは元がいいから、すぐ済むよ。」
その言葉通り、3分で終了。そういうところは、やはり社長なのだと実感する。
「キミ、板胸だからさらし巻かなくていいね!よかったじゃん!あれけっこーめんど……ぶっ」
思いきり杉野の頭を殴り、「着替えます!」と一言言って、隣の部屋へ向かった。
(人の気にしていることをっ…………あの最低セクハラ社長め…!)
続きます!