第零幕ー男装アイドル、始動!?ー
新作です。そしていつも通り妄想の産物です。
私の名前は城ヶ崎 優。今日からここ、日野原学園の…………JKなのだ!!
受験前の7徹の甲斐あってか、何とか受験に受かったものの、すでに周りのキラキラに圧倒されそうである。それもそのはず、日野学は名門中の名門で、お嬢様とかお坊ちゃんがそこらじゅうにいて、一般人の私は浮いている気しかしない。
(うわっ、何?あの車…)
校門前に止まったのは、ドラマでしか見ないようなテカテカした黒い金持ちカー。運転手が降りてきたかと思うと、脇にかかえていたレッドカーペットを昇降口までまっすぐ広げた。そして手際よく後部座席のドアを開ける。中から出て来た瞬間、風が吹いた気がした。
「キャーーーーーーっ!!!!!!千夜さまーーーーーーっっ!!!!!!!!」
すぐさま駆け寄るお嬢様方。手には、カメラにうちわにサイン色紙。中には手紙やお菓子を持っている人もいた。本当に、ドラマじみた光景だ。格式高そうなお嬢様が、夢中になる人物はどんな人だろうと、人の山の後ろで背伸びをして覗いてみた。その人が出てくると、またざわめきだした。(ん?あの顔……どこかで見た気が…)
黒い艶のある肩ほどの髪。180センチはあるであろうモデル体型。…ん?モデル…………?
「まさか!」
(BWの黒田 千夜!?)
BW…Black and Whiteは、今売れに売れている男性アイドルグループだ。最初は黒田 千夜と白川 昴の二人組で、名字が黒白だからグループ名がBlack and White になったとか……って、今そう言うのはどうでもよくて!?
(黒田 千夜も日野学だったとは…受験勉強に呆けて全く気がつかなかった…………!)
何度かテレビで彼のボンボン話を聞いたが、ここまで典型的なヤツとは思っていなかった。耳に、鼓膜を突く歓声が響いた。どちらかと言うと、私はアイドルにさほど興味はないが、彼らは有名すぎるので、基本的なことは分かってしまう。でも、キャーキャー言う人たちの気持ちは、分からないでもない。…確かに、黒田 千夜は美形である。誰しも見惚れてしまうほどだ。でも、私が好きなのは……
(だんっっっぜん、シンデレラボーイスカウトのイチハの方がイイっ!!!!)
二次元。リアルには興味がないのだ。スマホの画面とスーパーアイドルを見比べて、一人思う。ふうっとひとつため息をつくと、まっすぐ教室へと向かった。日野学は最近改装したとかで、新しい木の匂いがした。今上っている階段も、50年続く学校とは思えないほどキレイだ。黒縁の眼鏡をかけ直し、教室へと入る。まだ誰もいなかったが、妙に緊張する……しばらくすると、いかにも金持ちオーラが溢れでている人たちが、一気につめかける。話題は黒田 千夜のことばかりだ。でも、一人だけ。
「…三野?三野だよね?」
自分と同じ一般人オーラの顔見知りが混じっていた。肩の力が、どっと抜ける。相手も、こちらに気づき「よお。」と手をあげた。
三野 渉。中学校で何度か同じクラスになった、知人?である。……まあ、そんなに話す仲でもなかったのは確かだった。先に、三野の方から話題を振ってきた。
「しろ、お前もこの学校だったとはな~。正直、びっくりだわ。お前、そんな頭よくなかったろ?」
「しろって呼ぶな!ケンカ売ってんのあんた。」
そうだ、こういう無神経さが苦手だったんだっけ。しろってあだ名をつけたのも、こいつだった。
『なー、あんた、名前なんてーの?』
『自己紹介聞いてないの?!……城ヶ崎 優だけど……』
『じゃー"しろ"だな!』
『はあ!?』
『だって、城だろ?だから、"しろ"!』
ーあのときは、ほんまもんのバカだと思っていたが、学年3位は意外だったなあ…
三野は、ちぇっという顔をして、「いいのにー、このあだ名!…まあ、イイよ、城ヶ崎。」
私は頷く。「それでよろしい。」
すぐあとに、ガラッと戸を開ける音がした。色めき出す女子。大体、予想がついた。
(黒田……しかも、同じクラスなど………)
先のことを考えるだけで、疲れてくる。何となく戸の方を見たくなくて、机に突っ伏した。
「そろそろセンセー来るだろうから、俺席行くわ!またな、城ヶ崎。」
「あー…うん。」気のない返事をして、手だけ挙げる。まあ、顔見知りがいるだけマシだろう。少なくとも、浮く感じは軽減される。
ここ、日野学は、元々女子高だったのだが、いつだったか共学になり、それでも名残で女子が多い。だからこんな比率のおかしいクラスが出来上がるのだ。私が入ることになった双葉クラスは、一般でも学力で入ることのできる、いわば『お金のない人に優しいクラス』になる。周りの全てがそういう人、というわけでは無さそうだが。
(うわー…男子は黒田と三野だけか…なんか、かわいそうだ…)
男子2人、女子32人。それが今年の双葉クラスらしい。友達は………期待できそうにない。
間もなく双葉の担任が入ってきた。見てるフリをして、入学式の説明を聞き流していたが。そして担任が外に出ると、生徒も一斉に後に続く。私も、それについて行った。
ぼんやりしていると時間は早く過ぎる。入学式の退場の時、少しだけ立つのが遅れてしまった。そしてまた、ぼんやりする。こういうのは、正直面倒くさい。まあ、好きで入ったのだから、文句は言えないが………私の日野学に入った目的はひとつ。美術の講師が、シンデレラボーイスカウトのキャラクターデザインを担当した、和久井アカリだったからだ。和久井アカリは、これまでにも色々な学校で講演していたそうなのだが、シンデレラボーイスカウトはお嬢様方の人気も高かったため、日野学の理事長が雇ったのだ。双葉クラスを知った時は、本当に嬉しかった。寮の手続きさえ終えてしまえばじ夜9時までは自由なので、少し観光でもしようと、駅へ足を向けた。
(本当に、テレビで見た通りだなあ…)
私の住んでいたところも都会ではあると思うが、やはり東京は凄い。ビルが段違いに多く、人混みも倍だ。そして今立っているのは、憧れの秋葉原、アキバである。人混みをかき分け、大した距離を歩いた訳ではないのに疲れてしまう。体感的には一時間歩いて、目当ての店にたどり着いた。
『アニメ天国』と新しい看板に電飾で書かれている店。ここはシンデレラボーイスカウトの商品が、他の店より多く取り扱っているのだという。入ろうと近づいた時、誰かに呼び止められた。
「ねぇ!そこのキミ!」
こういうのは、怪しい勧誘に決まってる。相手を睨むように振り返る。
「……何ですか」
男は全く怖じ気づかず、むしろ笑顔で話しかけてくる。それが逆に、怖い。
「そんな警戒しないでよー、ただの勧誘だから!」
(やっぱり…)それを聞いて、ますます身構える。
「でさ、キミ、BWに入らない?」
「………………………………………………………はい?」
えーと、なんかBW に入らないかって言われて………………BW って、あのBW だよね………………ん?……………ちょっと待て、私はそれ以前に………!
「ああ頭おかしいんじゃないですか!?私、女ですよ?!」
男は少し驚くそぶりを見せたが、すぐに笑顔に戻る。
「ええー、そうなんだ!じゃ、男装でいいから!!!」
「いや大問題ですから!そもそも私が男だったとしても、入る気は0なので、では」
店に逃げ込もうとしたが、着ていた服のフードを捕まれ、引き戻された。男はニヤリと笑う。
「僕は、獲物を逃がすようなヘマしないからね。これでも、BWのプロデューサー兼マネージャーだからね!」
今日は晴れやかな1日になるはずだったのに………とんでもない、上京初日になってしまった。私が一体、何をしたというのか……
「あ、そうそう」男がポケットに入れていた名刺を、半ば無理矢理押し付けられる。
「僕は杉野 清貴。よろしくね♪新人くん!!」
(本当に、私が何をしたというのですか!神様!!!!!!!!)
続きます。