或る同級生の話
前の更新から一年経過。
たぶん、今度こそ書き出すかも。
人とたまたま話をしていた時のことである。
一昔前に流行った小説「電波女と青春男」のヒロイン・藤和エリオのことで盛り上がると、相手が「ちょっと前に聖地に行って来たぜ」と言い出した。そこでふっと、はて、そういえばあれの舞台はどこじゃったかな――と、ひとしきりアニメも見ていたわりに記憶のないことに気づいた。
「どこだったっけ、あれの舞台」
「名古屋」
あっさりとした回答に、自分も最近、用事の道中で名古屋を通ったのを思い出して驚いた。そうか、そういえば関西弁が出てきた様子もなかった、というのはまた関係のない話ではあるが……。
そんな流れで、僕は今の今まで忘れていた、高校時代の同級生のことを思い出した。仮に名前を良一君、とでもしておこうか。細面の、これまた細い眼鏡をかけた彼は、高校時代の三年間、同じクラスにいた級友の一人であった。
僕の出た高校はいわゆる工業系の学校なのだが、世間一般に認知されるような荒くれの多い場所ではなく、どっちかというと理に聡いタイプの人間の多いので知られたところであった。そうなると、クラスメイトもいわゆる頭脳派の連中が多い。
そんなうちの一人が、件の良一君であった。いつのころから話すようになったか覚えていないが、気の置けないクラスメイトの一人として、卒業までずいぶん、いろいろなことをしたように記憶している。
特に彼にお世話になったことといえば、本を貸してくれたことであった。元来世情に疎くて、ライトノベルなんてのも中学時代に「キノの旅」「生徒会の一存」からはじめてどうにか数年分のブランクを埋めることが出来た自分からしたら、
「あるよ。貸そうか?」
といって、デパートの手提げ袋一杯に入ったライトノベルの山を貸してくれる彼は神様みたいなものであった。西尾維新の物語シリーズ、桜庭和樹のGOSICK。いまではゲームのシナリオでおなじみの日日日先生の「ささみさん@がんばらない」などなど。どれをとっても懐かしいものだが、そこに加わるひとつが先述の「電波女と~」であった。今思えば、彼はそこそこエエとこのぼんぼんだったのかもしれない。新刊がしれっと借りる中に入っていたというだけでは乏しい証拠だが……。
もっとも、そんな仲でありながら、意外と作品の内容について語り合ったことは少なかった。もっぱら、僕の方がベラベラしゃべるばっかしで聞いていなかった、というオチもありそうだが、残念ながらその辺の記憶が薄い。
そんな彼とは大学時代に一回、飲み会に誘ってずいぶん酔っぱらったのが最後になっている。あれから数年。身の上や世の中もずいぶん様変わりした。もしかしたら、いい相手を見つけてとっくに結婚しているかもしれない。
なんとなく、気が向いたら連絡してみたいような、そんな気持である。