「睦月社アワー」よ永遠に ~六年間有難う~
十年という月日がこんなに重みをもってるなんて、思いませんでしたね。
二〇一四年、なんて書くとずいぶん前に思えるのに、今度はそれを年号に直して平成二六年、なんてした日にはもっと昔のことに思えてくる。
大学時代から足掛け、十年近くやってきていたネットの片隅でのラジオごっこ。その社会人編とも言うべきフリートーク番組「睦月社アワー」がきょう、二〇〇回目の放送を節目にいったんおしまい、と相成った。
放送開始は改元迫る平成三〇年の十一月上旬。まだアラサーのにおいなど微塵もなかったころである。スマホを使った簡易中継で大阪通天閣界隈から放送を行ったり、中継を使って北から南まで各地をリレーする放送をしたり。あとは生放送でラジオドラマをやったりと、とにかく睦月社アワーはいろんなことをした、実験場みたいな番組だった。
そんな番組が終わりに相応しいゲストは誰だろう――答えはすぐに決まった。第一回のゲストでもあった大阪在住の盟友、同人小説家の春之之くんである。
彼とは学生時代からの付き合いで、このラジオごっこの第一歩になったトーク番組「あにめがたり!」のメインパーソナリティーでもあったし、朗らかで話がよく弾む。そんな彼の人柄に、ひとつ最終回特有の湿っぽい感じを払しょくしてもらおう、とこうなったわけである。
本人からもオーケーが出て、日取りも決まって台本も送付完了。そして迎えた本番当日、あと五分後に放送スタートというところで大阪からの中継線にトラブル発生。
「おかしい、中継の音が小さい!」
本当ならとっくにオンエアしている時刻、九時を回っても音がおかしいくて大慌て。結局、双方の機材微調整でどうにか音量が復活し、一五分遅れで番組スタート。
「皆様こんばんは、毎度おなじみ流浪の番組、ウチダ勝晃の睦月社アワーのお時間がやってまいりました……」
二〇〇回近く番組をやっていれば、ある程度は台本を見なくてもフレーズは出る。例によってソラで読み上げ、ゲスト紹介。アバンタイトルの雑談からOP曲へと番組はスムーズに進む。
長年耳になじんだザヴィア・クガートの「エル・クンバンチェロ」をバックにOP。そして、「あにめがたり!」のOP、東方の「ネイティブフェイス」へとバトンを託して、話題は懐かしい、「二〇一四年のアニメ」へと移る――。あっという間に前半の話題が終わり、後半戦は「二〇二四年に読んだ作品、見た作品」へ。忙しい忙しいとは言いながらもチェックを欠かさない春くんに脱帽しつつ、来年もまた新たな作品に触れられればいいなア、というところでEDへ。特別編でグールドの「ソウ・イン・ラヴ」。しっとりとしたこの曲をバックに振り返りと、最後の挨拶――「それじゃあみなさん、さようなら」。また来週、と呼べない切なさはあった。
かくしてここに、六年の長きにわたって続いた「睦月社アワー」の歴史に幕が下りた。放送のラインを完全に下ろし、しばらく春くんと雑談。
「やっぱり、またやってみたくなったねぇ」
話の中で彼のカミさん、メルせんせーこと同人小説家タイダ・メルを相方にやっていたラジオのことが話題になる。
「また機会があったらやろうよ。今度はこっちが構成とか受け持つから……」
そんな話のあと、つらつら世間話やら雑談をしてから、大阪からの中継線もぷつん。あとには机いっぱいにのせたマイクロフォンミキサーやコードの行列が熱を帯びて控えているばかり。
「……本当に終わったんだなぁ」
なんだか切なくって、これを書いている今もヘッドホンを外せないでいる。何か音源を流しているわけではないから音なんて聞こえやしない。でも、スタジオ用ヘッドホン(これは同じラジオ仲間の御父上からもらったもの。十年近くたっても故障一つしないメイドインジャパン。)特有の立派なイヤーパッドに挟まれていると、これまでの色々の光景がじわあっと押し寄せてくるような、そんな感じがするのだ。
今夜はしばらく、このまま無音のヘッドホンを聞いていようと思う。
ここからの十年、近い二、三年もこういう風に活動出来たらなぁ……と思ってます。もちろん、書き物をするのも込みで、です。
ひとつゆっくりと、お茶でも飲みながら見てやってください。