ケルト詐略BC486 2月1日
=BC486 1月21日 スピカ港 アーシア=
「押しかけてしまい申し訳ございません。アーシア様」
エルピニケは会うなり謝ってきた。
「いや、それよりあなたに危険はありませんでしたか?」
「ええ、大丈夫です。ヘラクレイトスさまが屈強な乗組員を選んでくれましたので」
送り込んだのは師匠か・・・手落ちはないだろうが・・・
「父から厳命がありまして、さっさと嫁いで来いと・・・」
原因はミルティアデスか。キモンはファラオにしたし、特に問題はないと思ううんだが・・・?
「父が言うにはキモンは王になったとはいえ、アーシア様の権威がなければ一日とて国は保てない状態、しっかりと婚姻でつながる必要が増したということで、送り出されました。」
・・・なるほど、そういう見方もあったのか。こっちは見捨てるつもりは毛頭ないんだが、周りがどう見るかは別と・・・まずい・・・ここでエルピニケ戻したらキモン家との破局と見られるのか、完全に詰んだな。
ボクは彼女本人には何の不満もないし、迷惑かけて申し訳ないとすら思うのだが、いかんせん今はレイチェルの記憶を戻し、ペルシア戦争の準備で手一杯の状態、しかし、それとキモン家対応は別だ。
「では結婚しましょう。エルピニケ。その後は私の妻としてアテナイに戻ってもらうことになるでしょうが、申し訳ありません。御覧のとおり各地で戦火は広がっていて、私は世界中を飛び回らなければならないのです。」
「ええ、もとよりご無理は申し上げるつもりはありません。ただ、アレティア巫女長から伝言がありまして・・・教皇の婚姻は最低でもヘラの聖地ヘライオンで行う必要がある。アルゴスのヘライオンか可能ならサモス島のピタゴリオのヘライオンで行ってほしいとの要請でした。」
サモス島?もう小アジアだぞ・・・遠すぎる、アルゴスでと言いかけたときだった。
ピタゴリオ・・・ピタゴラスゆかりの地かな?
そう思ってピュロスを見ると過去を懐かしむ目をしていた。
「先生、クレイおじさん・・・」
「ピュロス、もしかしてサモス島に行ったことがあるのか?」
「まだ記憶もおぼつかない4.5歳のころに先生からお話を聞いただけです。一度見てみたいたいとは思っていましたが」
「そういうことだと、ちょっと考えるな」
いつものメンバーなら「黄金の羊」号で無理してサモス島へ1週間で往復ということも考えられるが、エルピニケは美しくはあるが、か弱いアテナイ人の女性だ。ここまで来るのでも相当無理をしているだろう。
そうなるとサモス島に行って帰ってきて彼女をアテナイに下すまで倍の2週間は見ておきたい・・・可能ならあと一月か二月ここでとどまって暴風雨の季節は避けたいのだが、ローマの情勢を考えるとそこまでの余裕はない。
しかし考えてみればサモス島行のメリットは大きい。
この地をしっかり押さえれば、レスボス島、サモス島、ロードス島の小アジア警戒ラインがしっかりでき上がる。
対ペルシア戦争を考える限りサモス島で結婚式を挙げるのは悪くない考えだ。
ただそうなると、南部ギリシア植民地に時間を稼ぐ必要がある。
可能ならばエトルリア人にローマに対する圧迫を再開してほしいのだが、現状では厳しい。
そこで1つの策を考え実行した。
ゴール語(ケルトの言葉)で立札を作った。
曰く
光明神アポロの最高の祭司であり、光明神ラーの息子でもあるアーシアはケルトの光明神ルーの息子であったクー・フーリンの生まれ変わりである。ポー川より南は彼の領地であると彼が定めた。手を出すものはゲイボルグの生まれ変わりである人馬により死に至る。既に南方に向かった諸部族は多くがゲイボルグに殺された。
と告げさせたのである。
その後、1週間ほどサルピズマに火力全開で暴れさせると、ケルト諸部族はこの噂を信じはじめた。
ゲイボルクの特徴、自在な遠距離攻撃、すべてを貫き、時に細かく分かれて多数を貫く、貫き爆発(小天雷)、毒(アポロの息吹)を用いて敵対するものをすべて屠る。まさに魔槍ゲイボルグが騎馬隊の姿で暴れまくったようだ。
いや、この戦いが後世に伝わってゲイボルグが槍のように感じられなくなったのか?
どっちかはわからないが・・・まあ、策はうまくいった。
明らかにポー川を超えるケルトの数は減少し、ポー川から北に戻るケルト人の姿が見られるようになった。
そのころにはピュロス旗はクー・フーリンの旗と認識されていた。
ここでボクが額からビームでも発射すれば完璧だったのだろうが、さすがに味方から人間扱いされないのは悲しいので自重しておく・・・いまさらという話はあるが・・・
これでケルトの圧迫を和らげたことでエトルリア同盟とヘレネス同盟の友好的な関係を築くことができた。
とはいっても全体的な雰囲気は友好的な関係にとどまるので現状はオレステス商会の通商条約を結ぶのが精いっぱいである。スピカに関しては直接関与したせいで軍事同盟を結ぶことを提案されたが、現状ではこちらの手が回らないことから拒否している。
エトルリア同盟は今後はウエイ攻略を目指すことになるだろう。
その分ローマの南部ギリシア植民市への圧迫が少なくなれば現状では上出来だと思う。
そこまで準備を整えてからスピカをイオニア2世号で出発したのは2月1日、暴風が収まりきらない季節なので安全第一にゆっくりとサモス島を目指した。




