ケルト来襲BC486 1月3日
幼女戦記第5話のダキア軍の動きの描写を見て、蟻みたいと思ったせいでケルト人の描写が軍隊蟻の洪水みたいな感じで固まってしまいました。
でもたぶん、高台から見たらそんな感じだったのでは?と思って書いています。
それから30騎の騎馬って考えてみると戦車30台みたいなもんですから、それなりの戦力ではあるんですね。ケルトには無力ですが・・・数が違いすぎます。
=BC486 1月3日 アレントウム近郊 アーシア=
ボクらはウエルツナを通りペルージアを過ぎるころには大規模な隊商の護衛になっていた。
目的のスピカまではまだ半分も進んでない。
この辺りはエトルリア連合の支配域ではあるが、やはりケルト人の侵入に押されて野盗や山賊といった連中が北から押し流されてきている。
治安は確実に悪化していた。
このため商人は隊列を組み護衛を手配しながら通商していたのだが、30騎近い騎馬集団は護衛として魅力的だったらしい。
4つの隊商が合同する形でボクらに護衛を依頼してきた。
イタリアでの情報源として有望であり、今後のことも考え護衛を請け負ったが結果的には良かったというべきであろう。
今回、我々は替え馬を用意できなかったこともあり、1頭に積める糧食は3日分程度だった。(馬の餌が嵩張るのである。)このため、毎日こまめに食料を買い入れていたが、食料品店が開いているわけでもなく、農家と交渉したり入手していたのだが、ひどいところだと金銭が流通してなくて布地と交換という例もあった。隊商はその点手慣れていて、どこで食料や消耗品が入手できるかよく知っていた。
護衛の経費で食料を向こうもちになって不安がなくなったのは大きかった。
彼らは交易しながらエトルリア連合最北の街アレティウムまで向かうことになっていた。
我々はそこからさらに北に向かいポー川河口の街スピカを目指す。
アレティウムはウエイから150km、スピカまで150kmのちょうど中間地点になる。
道は舗装されてこそいないが、しっかりとしており日に40km進むのも楽だった。
ウエルツナからクレヴシン次にペルージア、カートンそしてアレントウムと夜はエトルリア人の街に泊まる旅を続けた。
そこから先は大きな街はないが、比較的大きな村で食料の入手が容易な村を教えてもらうことができた。
翌日、護衛報酬で得たロバ3頭とそれに満載した大麦と一緒にスピカに出発した。
そこから5日程で着く予定だったが、早くも2日目でケルト民族の移動の影響が現われた。
最初に略奪された村を見つけたのは先行して偵察をしていたポセイドニクスだった。
前方から駆け戻るなり
「アーシア隊長、前方の村が略奪されていました。警戒を厳にしてください。」
彼は一言告げるとと再び村の方へ戻って行った。
絶対ケルト人との対決求めて探しに行ったぞ・・・
周囲の隊員の表情はあきらめ気味であった。
「しかたない、コリーダ5騎連れて先行警戒、人影を見次第連絡。無理に戦闘に入るな。」
「了解しました。ダイヤの2から6ついてきなさい。」
「「了解」」
彼女らが先行すると同時に風に焦げ臭い臭いが乗って流れてきて、一気に緊張が走った。
そこから10分もしないうちに略奪にあった村が見えてきた。
そこかしこに村人の死体が転がっている。
全部で20人程度の村だったのだろう。
山のふもとの村だった。
4・5軒あった家はすべて火がかけられ燃えていた。
まだ石材が暖かいところを見ると襲われて1日以内なのだろう。
「善悪では判断できないが、明らかにケルト人は楽しんで殺しているな・・・」
男の子の背中に5・6本もつきたっている投槍を見れば説明を受けるまでもない。
「狩りの延長なのでしょう。」
ボクの独り言にレイチェルが呟き返す。
「女子供まで殺すとなると、戦士としての誇りは期待できないようですね。」
ピュロスも怒りを堪えた眼差しでボクを見つめた。
ギリシアでは戦場に出るのは市民のみ、つまり戦争は漢の仕事なのであり、村を襲うのは獣とみなされても仕方がない悪行である。
何よりも彼らの行動は愉快犯に近い。村の家の中には小麦ごと燃やされていた家もある。
持っていけないものは燃やしてしまえという考えが丸見えだ。
先行のコリーダたちからも発見の連絡はなかった。
われわれは村人を埋葬することにして、その日はその廃村で夜営することにした。
その日はみんな無口だった。
口を開けば不条理に対する恨み言が出てきそうだったから・・・
次の日に山を登り向こう側を見た瞬間に怖気が走った。
平野のあちこちに白アリの集団のようにチマチマ動くケルト人の群れがあった。
山から見える範囲で数十キロ、かろうじて北のポー川が見えたが、その景色の中でも十数個の蟻の集団が地面を覆っていた。
「これがケルト人の移動か・・・」
もはや数を数えることすらできない、もぞもぞ動く茶色の敷物がゆっくりと、時には合体し、あるいは離れれながら地面を流れているという感じだった。
数万の人間の動きが統制がとれていないとこんなに気持ち悪く感じるとは思わなかった。
今考えてみればエジプトのペルシア軍は移動の方向が決まっていたたけましだった。
その風景は生理的な嫌悪感を煽るものであり、兵力が十分なら間違いなく消し去りたい風景であった。
ただ残念ながら現在いるのは28騎・・・とても無理である。
近場のケルト人の群れにポセイドニクスを突っ込ませて強さを確認したら、スピカに向かって一直線に駆け抜けるしかない。
山の上でポセイドニクスに威力偵察を命令する。
念のため伝令に4騎つける。
彼らが群れの一つに突っ込んでいくと綺麗に真っ二つに裂かれていくが、通り抜けた後すぐに避けた部分に人が集まり退路を断つ。
もっとも5騎は、退路を気にしないで向こうに突破しUターンして再度突入したので包囲することはできなかったが・・・これも騎兵の速度と突破力がなければ難しい。
やがて5騎が山頂まで戻ってきた。
「あいつらは女子供も連れて移動してます。群れの中に戦士はいますがイオニア人より軟弱です。ですから速足で血路を開きながら進むのが一番楽かと思います。」
避けるよりは突破してしまえ・・・ポセイドニクスは相変わらずだ。
だが今回に限ってはそれが一番正しい方法であることは間違いなさそうだ。
「総員、十分に馬を休めて水と秣を与えておけ。走り始めたらスピカまで止まれないぞ。」
ケルト人の群れに突っ込むときは騎乗して、それ以外は馬を降りて歩いてスピカに向かうしかない。たぶん乗り続けると馬が潰れる。
21世紀で言えば、今いるのがカゼンティネジ森林国立公園の北側、ボローニャとラベンナの間、スピカはコマッキオの位置だから50kmぐらい、無理すれば1日で行けるはず。
昨日の晩休めて良かったとしか思うしかない。いきなりだったら、途中で息切れしてたどりつけない可能性もあった。
「先鋒ポセイドニクス、クラブ隊が続け、殿はコリーダ、ダイヤ隊を指揮しろ!」
「「はい」」
「ポセイドニクス、無理に戦闘しなくてもいい。抜きやすいところを抜いてくれ。」
「ええ、敵は戦闘するには値しない弱敵でしたからね。せいぜい追い散らすだけにします。」
「ただ、ある程度は急がないと投槍が来るからな。適度に混戦にして離脱するときはサッと頼む。」
「わかりました。アーシア隊長。」
「全員長槍に盾を装備。たぶん鎧で防げるとは思うが、投槍は注意しろ。」
「準備完了か?では全員進撃!」
いつもと違って全速での突撃でない進軍というのは結構怖い。とはいえビビるところを見せるわけにもいかないし、レイチェルを懐に抱え込むと盾を被せ、彼女の安全を優先する。
その彼女の腕の中には二匹の黒猫がいた。
一瞬だけホルスと目が合ったが、糸のように細い目をしていた・・・まだ昼前か・・・夜にはスピカで休めるといいんだけど。
そう思いながらも反射的に飛んでくる槍の位置をを空間把握でつかみ長槍で叩き落していた。