カラブリア会戦BC487 12月25日
久しぶりに戦記らしい戦争シーンです。
デマラトス閣下は新しい体のせいでまだ全力出せません。
どうなるか?
=BC487 12月 ウェイ近郊 アーシア=
ウエイ砦までは川沿いに進めば一日、街道を馬で急げば半日の距離だった。
ローマでカルナック号と別れた我々は駆け足でウエイ砦を目指し、夕日が沈む前にウエイ砦が見える場所にたどり着いた。
順調な工程だったが、予想外なのは砦の周辺に農村が存在しないことだった。
どこか農家を宿に借りようと思っていたボク達の当ては外れたが、結局廃村の廃屋を使っての野宿になった。
ウエイ砦とローマの間には舗装された道路が敷いてある。
この様子なら将来的には街道沿いは大きく発展するだろう。
現状はウエイを落として間もないからか、南進政策のためか判断はできないが、予想より復興が遅れている。
周囲の農村に人影はなかった。
翌朝ウエイ砦に近づいてみることにした。
広めの丘の上に数か所の神殿を甬道でつないだ大理石造りの堅固な砦だ。
砦にはワシの下にSPQRの文字を月桂冠で飾ったローマの国旗がたなびいている。
あまり近づいても問題を起こしそうなので遠目に観察しながら北に進んでいく。
砦は非常に細長い楕円に近い。一部の大きな神殿は南北の壁をつなぐ渡り廊下になっている。
最大に人を入れても2000人は入らないだろう。
その周囲の街の瓦礫の様子を見ると、あえてその大きさまで小さくして、防護力を高めたのが見て取れる。
そもそも現状では周囲に守るものがなにもない。
あえて言うならローマの北方警護用の要衝という感じだ。
しかし・・・だとするとローマの進む道が全く分からなくなる。
史実では100年ほど後にウエイを落としたローマはエトルリア勢力の弱体化ことを招き、盾を失ったローマへのケルト族の侵入を許すことになる。
そこから再起するまで周辺には巨大な力を持つものが現れなかった・・・次にぶつかったのがカルタゴである。
しかし現状エトルリア勢力は最小限の影響で北方に温存されている。
狙ってやったなら恐ろしい戦略眼だ。
彼らがいる限りケルト族への防壁として立ちふさがり、衰退してくれば、まずローマに支援を求めることになるだろう。
それまでは南方のラテン・カンパーニュ地域を安全に席巻する。
どうも、はっきりとした目的があって動いているらしい。
デマラトス2世、いやになるほど有能のようである。
今エトルリア勢力を攻撃するのはケルト族に対する、盾を内側から削っていく行為に他ならない。
まだケルト族に襲われたことのないローマ人には理解できない感性だろうが、わかりやすい誘導で思う方向に進めている。
その誘導の餌にされたのがギリシア系植民市やシチリア島でなければ、放置して進む方向を見ていても構わないんだが・・・ペルシア戦争で一兵でも多くかき集めたい現状では餌になった彼らを助けるしか手はない。
このままテヴィレ川を登っていけばその先にはエトルリア陣営の街ウエルツナ、ぺルジアがあるはずだ。そちらの様子を見ながら、ケルトの状況を確認させてもらおう。
=BC487 12月 サレルノ南方 デマラトス=
先遣隊からアルムタラに野戦陣地発見の報告が来た。
カラブリア地方にも敵陣地作成中の連絡だ。
俺はどっちを攻めるか選択させられる羽目になっていた。
アルムタラは陣地が完成してタラントの兵が入っているらしい。
その数500。
カラブリア地方の陣地は、どうもこっちの星型要塞を真似しているらしく、現在作業中の兵が200に警戒している兵が100という話だ。
直進してタラントを目指すかシチリアを目指すかの2択でもある。
手元の兵力は警備や警戒の部隊を除くと100騎と800人。
アルムタラの陣地は抜けても損害が大きそうだ。
となるとカラブリアか・・・あまりにも露骨に人数に差があるので寄せ餌ではないかという気もするが・・・
偵察の報告では周辺にはそんな気配はないとのことだ。
事前の作戦通り、まずはカラブリアを目指して、シチリア島を押さえて、ローマの食料事情を改善、ついでに運ぶための海運力増強ということで問題ないだろう。
タラントを押さえるには食料集積地が不十分だ。
騎兵25を含めた約1000人の部隊。先遣隊も無事合流した結果、カラブリアの敵陣地を望む丘に兵力を集結させた我々の軍勢は敵の3倍を軽く超えていた。
丘に柵で囲まれた宿営地を作ると、軍勢を休憩させる。夜襲の可能性があるので騎兵隊は周囲の警戒に回ってもらう。
丘の上から見る敵は、こちらのことを気づいていないかのようであった。
つまり200人は陣地の作成を行い、100人がその周りで警戒するという報告のままだったのだ。
200人にも武装させて隊列を組ませないと戦力としてはかなり弱くなるはずだが・・・
翌朝十分に休んだ歩兵隊に号令する。
「戦闘旗を掲げろ!今日中に敵を海に追い落とす!」
大きな歓声が上がり、各100人隊長が部隊をまとめていく。
主力のうち第2,5隊は防衛拠点においてきたため第1、3,4部隊がトラキア人の部隊だ。
彼らを中央に配置し、左右にローマで編成した3部隊ずつを配置して包囲殲滅を狙う。
この時期の戦争規模としては大会戦といっていい戦力である。
敵の陣地に近づいていくと敵の100人の部隊が前に出てきた。指揮官らしい人物が馬に乗っている。あの騎兵がサルピズマか・・・?
ぼんやりそう思ったところで、聞きなれた最悪の掛け声が聞えてくる。
「世界最強は?」
「スパルタン!」
「我々は?」
「スパルタン!」
「今日の勝利は?」
「スパルタン!!」
そのまま吶喊してくる・・・兵力差って何?って感じだ。・・・
一騎の騎馬が騎乗のまま武器を振るって中央に突っ込んできた。
信じられないほど、あっさりと、中央が切り裂かれそこに100人のスパルタンが雪崩れ込んでくる。
「まずい!俺も出る。」
俺は馬に飛び乗ると声を限りに味方を奮わせる。
指揮官戦闘、我に続けだ。
まっすぐに騎兵に突撃する。
そのまま馬に馬をぶち当てる。
お互いの馬が倒れ、騎兵が歩兵に変わる。
「なかなかの腕ですな。私はパンティティス、サルピズマのダイヤ隊隊長です。おそらくはデマラトス殿とお見受けしますが?」
そう言いながらも近づいてきたトラキア人を無造作に切り捨てる。
「いかにも、我がデマラトスである。」
そう答えた瞬間に戟が降ってきた。かろうじて剣で受け止めるが衝撃が足に来る。
武器の重さが違いすぎる・・・
なんとか一撃をいなした、その隙に周囲を取り囲んだ兵が槍で一斉に突く。
パンティティスは戟を大きく振り回し、槍をへし折る。
何とかその間にパンティティスから離れることができた。
彼の周りには十重二十重に槍衾が形成されている。
切られる人間も十人単位だが、彼も傷つき始めている。
何とかなると思った。次の瞬間だった。
側面からもう一騎敵が現れた。そのままパンティティスに向かって直進している。
「アリストダモス参上!」
突入してきた騎兵に瞬く間に槍衾は打ち破られ、烏合の衆となる。
「隊長、そんなとこで戦死はさせませんよ。」
その声にパンティティスはものすごい不満そうだ。
「せめて相手の大将と相討してください。サルピズマの名が泣きます。」
その言葉を聞くと確かにそのとおりだと思ったのか、全身から血を流したまま、こっちに向かって歩いてこようとした。
たちまちのうちに第1部隊が割って入り二人を引きはがす。
パンティティスは仕方なしに前線に後退していった。
前線では約10:1の戦力だったが1人倒すのに30人は必要な状況が続いていた。
こちらの部隊はすでに2個百人隊が溶けている。
敵の損害は10人にも満たない。
そこにパンティティスが戻っていったのだ。結果は言うまでもないだろう。
全軍に退却を命令!
合流地点は南方要塞を指示。
しかし、つくづくスパルタンは反則だとしか言いようがない。
自分もそうなのだが、15才の身体では力が出し切れない。
アーシアの人材をうらやましく思うが・・・こちらは、その分戦略で対応するしかあるまい。
幸い相手の主敵はペルシア帝国だ。そこに突く隙もあるだろう。
しばらくは部隊再編しながらカンパーニュ地方の掌握に走るしかないだろう・・・残念だ。
これより強いサンチョってどんだけ強いのと思いますが、それでスパルタ親衛隊が互角ぐらいでないと、30万対1万でペルシア軍を正面突破する一般兵は生まれてこないのです・・・w




