ローマ観光BC487 12月
Bank(銀行)の語源がイタリア語の両替屋の机から来てるっていうのを知りました。
ただヘラクレイトスさんには銀行の概念がないので・・・名前が思いつきません。
アーシアならあっさりバンクという風にすると思うんですが。
それと大和撫子(のような女性)登場です。今後どうなるか・・・アーシアまさに修羅場か?
=BC487 12月 ローマ南方 アーシア=
敵の追撃を振り切った後、北上を続けると富士山のような美しい山が見えてきた。
べスピオ山だ。
ガンガンに元気な火山で我々の見てる姿も噴煙をたなびかせている。
これからとボンベイを火砕流で埋めたり、20世紀にいたるまで数十回の噴火をする火山だと思うとちょっと怖い。
記録に残る大噴火はこれから200年以上後だが・・・「記録に残る」というところが問題点で、大噴火が記録に残っていないとは言い切れない時期が今頃である。
充分な注意を払いながら海沿いを抜けていく。
海沿いの街道にはギリシア人の集落があったらしく、オリーブや葡萄の木が手入れもされないまま放置されていた。ネアポリスの衛星都市・・・というか農村の一つだったのだろう。
薄氷の張った貯水池を見ながら、さらに北に向かった。
ネアポリスは避けて山側に入り込み、街を遠目で見るだけだったが、意外に人の出入りが多い。
南部に軍隊を抱えているせいだろう。通商隊がいくつも出入りしている。
町の住民は複雑な気持ちだろうが今は食べるのが優先。しっかり稼げ。とヘルメスに祈った。
そこから5日たった。
ローマに向かう旅はようやく終点が見えた。
ネーミ湖を右に北上してアルバノ湖畔から一気にカーヴォ山に登る。
この山頂からローマが一望できるからだ。
時折急になる坂道を息を切らせながら登った。
普段も山道では馬の負担を減らすために降りて手綱で引っ張っている。
もっともレイチェルは乗ったままにしているが、コリーダやピュロスも平気でついてくる。
この二人見た目より遙かにタフである。
ようやく山頂につくとローマを見渡した。
テヴィレ川に沿った7つの丘が見える。
それぞれの丘は家が立ち並び中央のフォロ・ロマーノの白と共に緑との鮮やかな対比が美しい。
今は初冬のせいで何もないが、初夏にはオリーブの白い花や葡萄の花の甘い香りが立ち上るという。
やはり、上下水道完備の街は違う。
ギリシアのポリスもここまで行ければなーとつくづく思う。
見える感じから言えば人口はアテナイと変わらない感じがする。
もっとも周辺の田舎っぷりは、こっちの方がひどいのでトータルではアテナイよりは少ないだろう。
それと記憶にあるのと違うので違和感がありまくりなのだが、マルス広場が水堀で囲まれた市場になっているようだ。
頻繁に荷車やロバが出入りしているではなくテヴィレ川から船が乗り入れている。
この時期のローマにあんなデカい商業設備はなかったはずだが・・・
あれが噂のトラキアーノ地区か。
潜り込んでみたいが、さすがにこのままでは危険すぎるだろう。
クルナが何人かいるはずだから繋ぎがあれば入りたいが・・・
しかし市場も水堀か、途中で見た集積所も星型要塞も水堀だったな・・・?
ということは南に展開してるのはトラキア軍団かもしれない!
しまったな。デマラトス2世に会えたかもしれないのに、すれ違いになってしまった。
まあ、あとで会えるとは思うが・・・
もっとも今回はこのまま北に抜けてエトルリア領域の港から水路で戻る予定だから、次はいつかわからないが気長に待ってもらおう。
しかし、街の並びを見る限りではは極端な時代錯誤の建物はないな。
一体どこから星型要塞が飛び出てきたんだ?
=BC487 12月 サレルノ南方 デマラトス=
俺もつくづく間抜けな真似をしちまった。
罠をはったつもりが避けられたとは・・・スパルタンなら張ってある罠は力で踏みつぶすのが通常の思考だろう。まったく罠を避けるなんて思考、考えたこともないわ。
しかもアーシアがそのまま北上して視界から消えたのは予想外だった。
30騎でローマに突撃とも思えないから、ネアポリスに伝令を走らせたが現れた様子はない。
どこまで散歩に行ったんだ、あの神官様は?
ともあれ、次に見かけたときはケルベロスさながらの追跡部隊を編成してある。
ゆっくりと周辺を侵略していけばそのうちに北から戻ってくるだろう。
その時に猟犬たちを放して絶対に追いつめてやる。
今度こそは逃がさない。絶体にだ!
=BC487 12月 コリントス ヘラクレイトス=
「アルゴス方面で不穏な動きがあるみたいね。ヘラクレイトス?」
ここはコリントス、アリキポス商会の会頭室である。
「問題ない、明後日にはアルゴスで大バザールを行う予定だ。婦人方はこっちの味方だ。」
「まったく政治的には無力な女子供を巻き込んで平和を作り出すなんて、アーシアもあなたも常識外よね。」
「どの口でいうんだパンドラ。」
「この綺麗な口」
そういってパンドラは人差し指を立てて唇に当てた。
外観が年を取って軟らかくなったせいか、そんな仕草がかわいく見えるようになった。
以前に比べピンと張り詰めた感じがなくなり、一緒に暮らしていても楽に息ができる感じである。
「まあ、男なんてのは、母親には弱いし、恋人にものぼせる。同僚に言われたことは素直に聞けなくても女房に言われたことは、わりと受け入れる。女性陣を味方につければ最悪の展開だけは避けやすいからな。」
「でも今まではそれをできなかった。」
「アーシアの商売上手のおかげだな。女性が欲しがるものをたくさん作り、売る。その商店に悪印象をもつ女性は少ない。スパルタは別格だが、それ以外のところなら、バザールをすればほぼお祭り騒ぎで黄色い声援が飛んでくる。そんな商店ともめたいと思う男は少ないのさ。」
「なんで?」
「そこが商品が売ってくれなくなれば、嫌味を言われるのは自分達だからさ。」
しかし商売でポリス間の緊張を緩和してしまうなんて思いつきもしなかった。
おまけにマケドニア産の金でデルフォイの金貨、アポロ4ドラクマ貨が鋳造され始めた。
純度も造形もピカ一の硬貨だ。これが市場に流通していけば通貨市場でも優勢を勝ち取れるだろう。
それこそデルフォイ硬貨以外は割引で引き取られ再鋳造される流れができれば、鋳造元のアリキポス商会はポリスの財布を握るといってもいいだろう。
(両替の部門も拡充しないといかんな・・・メデス家に奴隷の在庫がないか確認しないと、予約も入れておきたいしな・・・)
「しかし弟子は今どこにいるんだ?」
「ローマの近郊みたいね。今回はレイチェルが一緒だから間違いないわ。」
「ローマ?このあいだタラントに行ったばっかりだろ。足速すぎだ。」
「まあ、戦争はしてないみたいだし大丈夫じゃない?」
「何しに行ったんだか?」
「観光みたいな感じね。」
「敵中突破して観光か・・・呆れた奴だな。」
そのとき会頭室のドアがノックされた。
返事をすると、そこには二十歳くらいの黒髪長髪の美女がドアを押し開けて入ってきた。
服装はキトンだがひだが綺麗に出る絹製の薄いものだ。
冬なのでそれに深紅のヒマティオンを重ねている。
物腰といい雰囲気といい深窓の令嬢という感じである。
「これはこれはエルピニケ様」
「お手を煩わせて申し訳ありません。ヘラクレイトス様。」
ミルティアデスの娘にしてキモンの姉、その上にアーシアの婚約者でもあるエルピニケがそこに立っていた。
「この度は父が無理を言いまして・・・」
「いや元はといえば婚約したままで、北に南に飛び回る弟子が悪い。今度こそとっ捕まえますので少々お待ち下さい。」
「アーシア殿は?」
「今はイタリア半島です。迎えの船を出しますので一緒に乗っていかれますか?」
「それはちょっとお転婆が過ぎる気もしますが?」
「あいつにアテナイの常識は通じません。家の中でひっそり待ってたら、またどこかに行ってしまいます。」
「・・・では、少々恥ずかしいですが、そのように。」
「近くの邸を借りてあります。出発のときがきたら連絡しますので、ゆっくりお休みください。」
「よろしくお願いします。」
パンドラと顔を見合わせる。まったく残している婚約者のこと忘れてるだろ、あいつ。
なんで俺がミルティアディスに怒られなきゃならんのだ・・・理不尽である。
エルピニケさんようやく登場です。
史実ではキモンと結婚していたので異母姉だとは思うのですが、美女で有名でしたので逆に中々出せない状況が続いていました。ようやくホッとしました。




